創作活動市場拡大戦略・「金で魂を売らない」という詭弁に毒されるな!

野球から感じた創作活動のヒント

私は自分がスポーツをしてこなかったものの、アニメやマンガの野球ものは大好きで、「巨人の星」「リトル巨人くん」「キャプテン」「ヒットエンドラン」などを楽しみつつ、子供のころは空き地で友達とよく野球をして遊んでいました。

ですから、「好きなスポーツを1つ挙げろ」と言われれば、間違いなく野球なわけです。

 

2023年、野球の世界大会・WBCは侍ジャパンの優勝で劇的に幕を下ろしました。

私もアマゾンプライムで中継を視聴して、第1回大会以来に興奮して大いに楽しみました。

 

もちろん、観客側として「試合中継」というコンテンツを消費する側として楽しんだわけですが、同時に、このコンテンツを作る側の周到な戦略に感心しないわけにはいきませんでした。

これは、野球などのスポーツビジネス特有の事例と考えない方が良いと思うんです。

人が活動をして他人に満足を与えることで、さらに活動を続けられる状況を作るためには、とても参考になる「仕組み作り」の考え方が含まれています。

 

今回はそういう視点を、私たちの創作活動にも活かそうというテーマで話を進めていきます。

視点の高さが違うアメリカのスポーツビジネス

WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)という大会は、アメリカのプロ野球・MLBとその関係組織が主催する大会です。

MLBというのは、昭和の言い方をすれば、いわゆる大リーグです。

世界最高の選手たちを集め、毎年の優勝を争い、それをコンテンツとして発信するビジネス集団です。

 

私は毎日、元プロ野球選手のデーブ大久保氏が配信しているYouTubeの「デーブチャンネル」を視聴しているので、以前、MLBのビジネスモデルについての解説を聞いていました。

率直に言って、日本のプロ野球とは戦略の緻密さが全く違うんです。

 

一言で言えば、日本のプロ野球は「とにかく強いチームにして勝つ。そうすれば人気が出て儲かるはずだ」という考えです。

昔ながらの職人気質の商売人が「良いものを作っていればお金は後から付いてくる」という言い方をしますが、全く同じ考えだと思います。

 

はっきり言って、そんなシンプルな戦略でうまくいくのは、物やサービスが足りなかった時代のことで、今の世の中では通用しないんです。

通用していないでしょう?

 

品質にこだわって生産しても結局、価格競争で負けて消滅したり、野球チームを強くしたからと言って、観客が倍増したり、ということはありません。

つまり、世の中の仕組みというか、人の行動原理に全然合致していないところで、希望的観測に基づいて行動してるんです。

 

楽天がプロ野球に参入しようとしたときに、他のチームのオーナーたちが「プロ野球のチームを持つという事は年間40億の赤字を出す事だ。楽天は毎年その赤字に耐えられるのか?」というとんでもなくバカなことを言っていましたが、それが当たり前と勘違いしてしまうくらい、ビジネスモデルとしての日本プロ野球は上手くいっていないんです。

 

MLBの戦略は全く違います。

 

もちろん、チームを強くすることは前提ですが、「強くすれば見に来てくれるはずだ」などという曖昧な希望には頼っていないんです。

重視しているのは「人」が持つ吸引力です。

 

例えば、実力が同じであれば地方出身の選手を採用する。

すると、同郷の選手を応援するために新たな観客が増えます。

遠征先の試合で、その地方の出身選手が出場していれば、当然、観客は増えるんです。

チケットは売れ、球場で販売するグッズも売れます。

 

これを拡大すると、現在のように、各チームが世界中の国から選手を集めるようになります。

単に優秀だから外国人と契約していると思っていませんか?

繰り返しになりますが、実力が同じなら、アメリカ人より外国人を採用するとメリットが大きいんです。

 

MLBの収入源の一つは「テレビ放映権の販売」です。

この放映権は元々海外にも売っていたのでしょうが、アメリカから見た外国人選手を増やすことで、その選手の出身国が高額な放映権を買う動機に繋がっているんです。

野茂選手がアメリカに行って活躍し始め、大魔神・佐々木、イチロー、松井、そして大谷など、日本人選手が出ているコンテンツなら、見たいと思う日本人が激増するのは理解できますよね。

 

NHKをはじめ、民放の放送局で総額40億円とも50億円とも言われる金額をMLBに支払っているそうです。

 

そうやって、チーム間の勝ち負けとは別に、みんなでMLBの市場を拡大させる戦略を持って強い仕組みで動いているんです。

ですから「WBCはアメリカの地上波で放送されていない」「アメリカでは関心がない」なんていうことは、あまり関係ないんです。

創作者も殿様商売をするな

ここまで野球の説明ばかりで、興味のない方は既に離脱されているかもしれませんが、私は創作活動にも直結する考え方と思っています。

 

少し前に「ちょい役を増やして、作品の当事者を増やせ」ということを書いたんですが、これが正にそうです。

「良い作品を作っていれば誰かが評価してくれて次につながる」というのは、一見、無欲で「良い人」の行動に思えるかもしれませんが、実際は大変にワガママな考えだし、何も生み出さずに消えていく人の行動だと思います。

 

これで残るのは凄い才能がある人の、さらに一部でしょう。

 

はっきり言って、無名の創作者が映画などを作っても見てくれる人はごくごく一部に過ぎません。

マンガや小説でも同じでしょう。

 

でも、登場人物として、あるいはスタッフとしてその作品にあえて関わらせると、その人は完成品を見る「動機」が生まれるんです。

その人の親しい人も、かなり見る動機になるでしょう。

ちょうど、自分の国の選手が出ている試合を見たい、というのと同じです。

 

  • 「そんな姑息な手を使うな」
  • 「創作者なら内容で勝負しろ」

という声が聞こえてくるようです。

 

でも考えてください。

姑息な手を使ってできた作品を見た当事者は

  • 自分の姿が映っている
  • 自分の名前が出ている
  • 自分のよく知っている場所が舞台になっている

というような、いくつもの要素によって「満足感」を確実に得られます。

もちろん、作品の内容が面白ければさらに満足は増すでしょう。

 

その作品を見せるということは、たとえ無料視聴だったとしても、その人から時間を奪う行為なんです。

そこを認識していますか?

それに見合う「満足感」が無ければ見ないのは当たり前なんです。

作り手は「それくらいの時間はあるでしょう?」と言いがちですが、問題は物理的な時間ではなく、見る価値が感じられるかどうか。

多くの場合は、作り手が思うほどの価値は観客には伝わりません。

騙すようにして無理やり見せても信用を失うだけ。次からは「興味ないから」と断られるのがオチです。

だから、姑息だろうが何だろうが、「時間を損したと思わせない仕組み」が不可欠なんです。

それは「内容の品質を上げる」というのとは別の次元での施策が必要ということです。

 

例えば「話を面白くする」というのは「チームを強くする」というのと同じ次元の話でしょう。

それはそれで追求しつつ、「外国人選手を増やして放映権の市場を広げる」のと同じように、

  • 関係者を増やして、見るための動機を作る
  • 見て嬉しくなる要素を入れる

ことなどまで考えた創作の方が、作り手にとっても受け手にとっても満足度の高い活動に繋がるのではないでしょうか?

 

参考になれば幸いです。

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