特撮映画としての「クロウ 飛翔伝説」・映えるCGもあえて脇役に回す

主役の死後に映像を完成させる荒業再び

この記事を書いているのは3月31日なので、今日が命日のブランドン・リーの遺作について触れたいと思います。1993年3月31日に撮影中の事故で亡くなったブランドン・リーは、大スターであるブルース・リーの息子です。

遺作になった「クロウ」の撮影時は28歳でした。

偉大な親を持つ俳優などは「七光り」と揶揄されることも多く、ブランドンも例外ではありませんでしたが、「父親と比べられたくない」という反発心を捨ててからは

リトルトウキョウ殺人課(主演:ドルフラングレン)

ラピッドファイヤー

で明るいキャラクターと父親譲りの切れのいいアクションで、ブルース・リーの大ファンである私も大いに楽しませてもらいました。

 

そして挑んだ新作はホラーアクション。

悪者に殺された主人公がカラスの呪いで生き返って復讐する話です。

残念ながら、正に主人公が撃ち殺されるシーンの撮影中、銃に何故か実弾が装てんされていて、ブランドン・リーは撃たれて死んでしまったんです。

 

テレビでニュース速報を聞いた私は、「クロウ」のあらすじも知っていましたから、宣伝用のフェイクニュースだと思いました。次の日はエイプリルフールですから、間違って1日早くニュースを出してしまったのではないか、とも考えました。

 

そんな願いも空しく、ブランドン・リーの死は事実で、最新作「クロウ」は当然、撮影中止になります。

常識的に考えれば映画はお蔵入りになるのですが、ブルース・リーファンなら誰でも知っている前例があります。

「死亡遊戯」です。

映画「死亡遊戯」

「死亡遊戯」は、ブルース・リーが遺作となった「燃えよドラゴン」の前に途中まで撮影していた作品で、「燃えよドラゴン」の撮影終了後に製作再開の準備中、にブルース・リーが急死したことで頓挫した映画です。

しかし、5年後、大幅にストーリーを書きかえ、役割別にブルース・リーのそっくりさんの出演者を集めて撮影し、完成させました。

 

本人が亡くなっているのに勝手に作品を完成させることに対して、「死者への冒涜だ」という考えがあるのは重々承知していますが、少なくとも途中まで作っていた作品であれば、公開できる形にまで仕上げる事も供養の一つとしてアリではないかと思うんです。

少なくとも、ファンにとっては、その俳優が死の直前まで心血を注いでいた作品を観たいのが正直なところです。

 

1970年代の「死亡遊戯」の時代は、映像合成のレベルは低くて、主に編集によって、亡くなった主演俳優が演じているかのように見せるのが精一杯でした。

しかし、「クロウ」を製作中の1993年は「ジュラシック・パーク」が公開された年です。

CGの本格的な活用が広がって、かなり繊細で自然な映像合成が出来る時代になっていました。

 

「クロウ」は製作再開が発表されます。

デジタル技術は裏方に回ると最強

映画「クロウ」はブランドン・リーの出演場面はほとんど撮り終わっていました。

いくつかの撮り残し場面は、別の役者が演じて顔が見える瞬間だけ、デジタル合成でブランドン・リーの顔と入れ替えたり、別の場面で使っている映像の背景だけ入れ替えて再使用したりしています。

 

元々、この作品ではCGも多用されていて、主人公が高いビルから軽々と飛び降りて走り続ける場面など、今では珍しくない表現ですが、当時は不思議な迫力がありました。

そういう「特殊な映像」がそもそも入っているので、代役俳優の顔部分を主演俳優の顔に入れ替える、というような場面は地味で、全く違和感を感じません。

 

特撮と言うと派手な見せ場を作りたくなりがちですが、違和感のない自然な特撮、特撮と気付かれない特撮こそ、最高レベルの特撮です。

そういう意味で言うと、派手な場面でなく、地味な部分を補正するようなCGやデジタル合成技術は、映像表現においては最強なのではないでしょうか。

派手な場面に比べて難易度も比較的低くなりますから、私たちも大いに参考にしたいところです。

印象に残るのは生身の魅力

私は完成した「クロウ」を劇場に3回観に行きました。

これは正直、面白かったからというより、ちゃんと完成させてくれた人たちへの感謝の気持ちからです。

(「完成させてくれたら3回は観に行く」と仲間内で公言していたのも理由です)

 

内容はスタイリッシュなB級アクションの1本、という感じの作品です。

しかし、目を見張るのはやはり、ブランドン・リーの身のこなしなんです。

走る、跳ぶ、格闘術に長けた動き、という原始的な「人間のアクション」で魅了するのは、さすがブルース・リーの血筋だと思います。

 

そして、人物のキャラクターの魅力。

 

墓から蘇った主人公と言っても感情のない単なる復讐マシーンではなくて、親しかった家族へのやさしさ、ゆかりのある警官との友情やユーモアのあるやりとりなど、「人間ドラマ」の部分とブランドン・リーのキャラクターがマッチしていてこその作品と言えます。

物語で「面白かった」と思わせたい

私は基本的に特撮などの楽しい映像づくりをしたいというのが目的で作品を作っています。

ただ、ストーリーも何もなく、単独で「映像の断片」を作っても、満足感は得られない事を知っています。

特撮作りを楽しんで、それを見て楽しませるためには、大前提として作品が面白くないと厳しいんです。

作品が面白いと感じるために不可欠なのは「人間ドラマ」。

 

もちろん、高いレベルの「人間ドラマ」を描くことは容易ではありません。私たちが作るレベルの条件では難しいかもしれません。

でも、「人間ドラマ」を描くための最低限のパーツは作品に入れ込めると思うんです。

 

例えば、いわゆるB級モンスター映画があります。このジャンルはピンからキリまであるので参考にしやすいのですが、徹底的につまらない作品には、「人間ドラマ」のパーツがほとんど無くて、ある程度の「人間ドラマ」が描かれている作品は「見ていられる」という事実があります。

予算や演出、映像のクオリティの差ではないんです。

 

映像製作者が見栄えのする映像が完成しているのを思い浮かべながら創作するのは当然で、それが楽しさの中心です。

でも、その映像を引き立たせるためにも、最低限でいいから手を抜かずに「人間ドラマ」を詰め込もう、そう自戒を込めて思うのです。

参考になれば幸いです。

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