ストック映像の効率的収集法・SP法による背景合成技術解説と映像制作のカギ

背景を全て合成するSP法のおさらい

表題にあります「ストック映像」は、非常識なほど短期間に映画を完成させるために私が採用している「升田式スーパープリヴィズ方式(SP法)」にとても有効な要素です。

私が主宰する「DIY映画倶楽部」の会員の皆さんには、毎度くりかえしの説明になってしまいますが、ここではまずSP法の基本をおさらいします。

 

通常の映画では、登場人物は主に

  • スタジオ
  • ロケ地

に行って撮影をします。目的はもちろん、設定に即した「背景」と一緒に人物を撮影するためです。

 

実際に撮影をしてみると分かりますが、相当に綿密な無駄のない計画を立てたとしても、1日で撮影できる分量は僅かです。

例えば、朝から晩まで撮影しても正味2~3分の映像しか手に入らないのが普通です。

それに加えて「ロケ撮影」には「移動時間」が掛かります。

 

滝つぼの前に立っている主人公の映像をほんの5秒使いたいとしても、イメージに合う場所まで行って撮影すると、丸1日費やしてしまいます。

しかも、スケジュールを立ててロケ地に行く日に雨が降ったりすれば、撮影は中止となり、さらに時間を費やすことになります。

 

「こんなやり方では時間もお金も掛かって仕方がない」という事で、私が実験し採用しているSP法では、全ての人物撮影を室内のグリーンバックの前で行います。

あらかじめ設計しておいた構図通りに撮影した、人物のグリーンバック映像に、別撮りした背景映像を合成することで、出演者がその場所に行って撮影した映像とほぼ同じ映像を作るわけです。

 

撮影は室内ですから、天候や時刻に左右されない上、現地までの「移動時間」を最小限に押さえられます。

登場人物の撮影スケジュールを押さえる日数で言うと、5分の1前後に短縮できるんです。

 

「でも背景映像を撮りには行くんでしょ?じゃあ同じじゃない?」と言う人がいますが、実は全然違います。

  • スタッフや出演者と共に現地へ行って
  • 段取りを指示して
  • 芝居がうまくいくまでやり直す

という事には、凄い労力と時間が掛かります。

 

一方で、合成用の背景撮影であれば、監督自らがカメラを持って、一人で現地に行き、必要な動画や写真をテキパキと撮影することが出来ます。

1つのシーンのための背景映像は、大抵、数分で撮影を完了できるので、同じ日に撮影場所を転々と移動しながら、いくつものシーンの背景撮影を終えられるんです。

 

さらに重要な利点は、背景映像には人物が映っていないので、別の場面や別の作品にも再利用が出来る事です。

山奥の滝つぼに行って、いくつものパターンの背景映像を撮影することで、別の作品で滝つぼのシーンを作りたいときは、改めて撮影に行かなくていいんです。

 

このように、「改めて撮影しなくてもいいように貯めておく映像」を「ストック映像」と呼んでいます。

 

基本的には全ての撮影場所がストック映像の対象になり得ます。

特殊な機材も不要で、スマホ1台で撮影できますが、機械的に撮影しないとついつい撮り残しをしてしまいがちで、後から「こういう映像も撮っておけばよかった」と後悔することになります。

 

以降で、簡単な背景映像の撮影のコツを説明します。

乗り物編

登場人物の移動を示すために、乗り物のシーンは良く使われます。

SP法では高額な「貸し切り撮影」や違法な「ゲリラ撮影」をせず、乗り物の座席の映像を撮影して背景映像にします。

他の撮影でも言えることですが、第一に考えなければいけない事は、周囲の人に迷惑を掛けない事です。

「勝手に撮影されている」という不審を与えないためにも、出来れば無人の状態で撮影したいところです。

 

そういう意味では、通勤電車や通勤バスの車内の撮影は難しいでしょう。

私は交通博物館で、乗れる状態で展示している車両の撮影を計画しています。

 

新幹線や旅客機は、意識して無人になる瞬間を狙って撮影します。

乗り物の座席については、撮影できる構図がかなり限られます。

基本は「窓際に座っている人物を通路側から撮る」という構図で我慢します。

そこに人物が座っていると想定して、バランスの良い構図を意識して撮影します。

 

作品の中で使うかどうかはともかく、その乗り物の中にいる事を分かりやすく示すために、全体映像も撮っておきたいところです。

 

私は先日、出張で飛行機に乗ったときは、撮影を考えて最後尾に座席を取り、降りるとき、一番最後に、空になった座席を撮影しながら出口に向かいました。

最後に後を振り向くと、空席になった全体も撮影できました。

ここでの撮影は手短に行なう必要があるため、静止画でなく動画にします。

撮影しっぱなしで移動して、一瞬でも使える部分から静止画書き出しして、背景映像として使用します。

座れる場所

室内や公園のベンチなどは、会話シーンを作りやすい場所と言えます。

「そこに登場人物がいたらこっちから撮るだろうなあ」ということを想像しながら撮影するのですが、ストック映像を撮る段階では、どういう場面にするかまだ決まっていません。

汎用性のある撮り方をしておく必要があるんです。

そこでおススメなのは、人物がいるであろう場所を中心に、その周りを360度歩いて移動しながら撮影することです。

ここでも、撮影は動画ですることをおススメします。

そうすることで、人物をどの向きから撮影するにしても、対応する背景がどこかに映っていることになります。

 

室内の場合は、壁際にぴったりくっ付いて対角線の向きで撮影することを、ぐるっと一周分繰り返します。

風景メイン

観光地や海、自然の中なども、「ここに人物を配置する」という選択肢はそれほど多くはありませんから、それを想定して、やはり360度、周囲を撮ります。

特に観光地では、「絵になる景色」がはっきりしているため、特定の方向だけ撮りがちですが、映画作品の中で複数の人物が会話しているシーンなどにする場合は、「絵になる景色」とは逆側の背景が無いと、映像が繋がらなくなる危険があります。

ですから、使えるかどうかは後の判断という事にして、ぐるっと周囲を撮っておきます。

注意点

最後に、技術的な注意点を挙げておきます。

1. 画角は出来るだけ広くする

そのカメラで撮影できる、一番広角の状態で撮影してください。

仮に人物をズームアップで合成する場合でも、背景を拡大トリミングすればズームアップ時の背景映像を再現できます。逆に「背景の映像が狭すぎる」という場合は、対応ができなくなります。

私はハンディカムにワイドコンバージョンレンズを付けた状態で、背景撮影をするようにしています。

2. カメラの高さは登場人物の顔の高さ

背景とグリーンバック撮影した人物の「角度」を合わせないと不自然な映像になります。

最も安全な方法として、「カメラは人物の顔の高さ」というルールにして、常にカメラは水平にすることをおススメします。

演出的には、下からあおった映像や上から見下ろした映像は魅力的ですが、合成の難易度が跳ね上がってしまいます。

もちろん、景色として使う映像については、合成とは関係ないので自由に撮影して構いません。

3. 手振れに注意する

背景は動画と静止画が考えられます。

風に揺れる木の葉や海の波、街中の車など、動くものが背景に映る場合は、背景は動画にします。

背景に動くものが無い場合は、静止画にします。その方が作業性が良いからです。

動画の場合は三脚を使って固定して撮影します。三脚を使えない状況の場合は、極力カメラを動かさないように注意して撮影します。

静止画を使う場合、前述のように動画で撮影しておいて、適切な瞬間を静止画書き出しして使用しますが、撮影時にカメラを早く動かしてしまうと手振れが発生してしまって、ブレた静止画しか書き出せません。

撮影時は、手振れが発生しないよう、早い動きは避けます。

 

ストック映像を充実させると、少ない労力で映画作品が作れるようになります。

まだ、具体的な作品の企画が無かったとしても、「ここを舞台に何かのシーンが作れそう」と思ったら、ほんの1~数分しか掛からないので、背景用のストック映像を撮影する習慣を付けることをおススメします。

参考になれば幸いです。

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