「合成特撮」の新たな可能性:グリーンバック撮影ならではのストーリーを考える
グリーンバック撮影の特徴を応用する
本来、「特撮」は、シナリオに書かれたイメージを再現するために、必要に応じて採用される選択肢の1つです。
この「必要に応じて」というのが、事情によって異なるわけで、主に
- 特撮でないと描けない
- 特撮で描いた方がコストが少ない
の2つに分かれます。
私は2つ目の「特撮で描いた方がコストが少ない」という理由から、多くの場面に特撮を使うわけです。
もちろんこれには一長一短があります。
役者からすれば、現地にも行かず、相手役も別撮りの状態でグリーンバックの前で芝居をするという事自体に抵抗があるでしょうし、監督としても、合成映像ならではの制約が多いので、演出面でやれない事もあるのが事実です。
しかし、製作者の立場としては、圧倒的にコストを下げられることで、
- いろいろな場面をカットせずに入れられる
- 創作活動自体が継続できる
というメリットの方がはるかに大きいと判断できます。
そんな「特撮」ですが、今回は「必要に応じて特撮を応用する」のではなく、特撮技術を前提にしたストーリーを考えてみようと思います。
特撮にもいろいろな種類がある中で、今回は「グリーンバック撮影」に特化して考えます。
グリーンバック撮影とは、緑色のシートを背景にして人物の撮影を行い、後から背景を合成するための手法です。
この手法、光学合成の時代は撮影にも編集にも高いレベルの職人技が必要で、それでもなかなか自然な映像を作ることが難しかったんですが、パソコンを使ったデジタル合成が出来るようになって、その難易度は下がりました。
合成映像と気付かせないレベルに仕上げるのは簡単ではありませんが、さまざまな工夫によって、十分、作品を楽しめるレベルにはできると考えます。
この「グリーンバック撮影」は、人物の「背景」を自由に差し替えられるのが特徴です。
それによってロケーション撮影のコストを下げたり、天候・時間による中断が無いこと、出演者をバラバラに撮影できることで、撮影スケジュールを極端に圧縮できる利点があります。
これを応用すると、「グリーンバック撮影ならではの場面」も比較的簡単に作れるようになります。
その一例が「一人二役」です。
一人二役の場面を作る
一人の役者が扮装を変えて、別人として同じ映画の中に登場する例は昔から時々あります。
私の好きな映画の一つに「フロムダスクティルドーン」というロバート・ロドリゲス監督作品がありますが、この中の役者の一人は3つの役として別々の場面に登場しています。
こういう一人二役(三役)は特撮を使わずに実現できますが、問題は「一つの場面」にその二役が登場する場合です。
昔の映画などでも、双子や瓜二つの風貌の人物が登場する場面などで合成映像がよく使われていました。
大抵の場合、画面の左右に同じ役者が並んでいる構図の映像だったはずです。
これだけでも十分に楽しい場面ですが、グリーンバック撮影でこの場面を作ると、昔の映画では出来なかった「二人のすれ違い」という動きも自由に作れます。
ドラマシーンで一人二役の出演者が会話している場面が簡単に出来上がります。
実は私の使っている「升田式スーパープリヴィズ法」では、別々の役者も一人ずつ撮影して会話しているように合成編集するのが基本なので、一人二役の場面になっても、撮影や編集工程は全く同じなんです。
ですから、「撮影が大変になるかな?」ということは一切考えずに、一人二役が必須のストーリーを採用することが出来ます。
- 双子の話
- 他人の空似の話
- ドッペルゲンガーの話
など、この特撮前提の企画を立てても面白いと思います。
小人・巨人を登場させる
グリーンバック撮影した人物映像は、背景映像と組み合わせて初めて「縮尺」が決まります。
通常は、背景映像に対して自然な大きさに見えるように調整して合成します。
これを逆手に取って、人物と背景のバランスを崩せば、簡単に「巨人」や「小人」の映像が作れます。
「進撃の巨人」のような極端に大きい人も表現できますし、もっとリアルに「プロレスラーのように大きい人」という設定の人物も作れます。
「主人公が敵に取り囲まれる」というような場面では、主人公をやや小さめに合成すると、敵の威圧感が増す効果も出そうです。
もっと小さく合成して、ペットの犬や猫と共演する作品を企画しても面白いでしょう。
まずは自分が実験台になろう
これらは「グリーンバック撮影」というたった一つの手法だけで完結する特撮です。
ミニチュアセットを作ったりする事も不要です。
アイデア一つで、すぐに完成まで持って行ける企画が作れるはずです。
もし、グリーンバック撮影と合成作業にまだ習熟していない場合は、はじめから役者を呼んで「どうせやるなら良いものを作ろう」とするのではなく、ご自身を出演者にして実験映像を作ってみることをおススメします。
「撮影されるのは苦手だ」
「自分の姿を見るのは照れ臭い」
という人もいるかもしれませんが、初めての撮影や合成は失敗する確率が高いです。
「コツを掴めば比較的簡単」というだけで、「知識や経験が無くても失敗しない」という訳ではないんです。
まずは、失敗しても最小限のコストで済むように、自分を実験台にしてみてください。
たった一つの実験映像でも、完成させてみれば改善点がいくつも見つかるはずです。
合成編集した結果、「撮影時はこれに気を付けなければいけなかったのか!」ということに初めて気付くんです。
その貴重な判断材料をある程度持った上でないと、わざわざ協力してくれた人の時間が無駄になってしまうので注意してください。
参考になれば幸いです。
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