映画作りの逆転思考・撮影場所優先のストーリー創作術

ロケーション映像は映画の彩り

小説や舞台と違って、本物の風景を挿入できるのは映画ならではのメリットです。

小説ではかなりの文字数を使って、読者がその風景をイメージできるような描写をする必要がありますし、舞台の場合は簡略されたセットを見せて、「ここはこういう場面です」という劇場ならではのお約束を観客に示して納得してもらわなければいけません。

 

それに対して映画は映像で表現しますから、ほんの2秒、ある土地の風景を見せることで、物語の舞台を観客に理解させることができるんです。これが「映像」の持つ情報量の多さの最大の特徴です。

しかも、文章の表現力が必要な小説と違い、見せるだけで最低限のことは伝えられますし、舞台のセットと違って、お金を使ってその疑似的世界を作る必要もありません。文字通り「撮るだけ」でいいんです。

 

そんな映像で構成される「映画」ですが、実にさまざまな種類の作品があります。
中でも魅力なのは、例えば普段暮らしている土地とは全然違う場所が舞台となっている物語です。

普段、見慣れている風景とは違う風景の中で展開される物語を表現するときに有効なのが、「ロケーション映像」ではないでしょうか。

古びた建物が並ぶ田舎の町の風景が映し出されると、観客は自動的にその土地の中に自分が入り込んだような感覚になり、登場人物と一緒にその世界に浸ることになります。

これが、ロケーションを含んだ作品の大きな魅力です。

2種類のロケハン

一般に、ロケーション撮影には下見が必要です。

下見もせずにスタッフや出演者を現地へ連れて行って、必要な映像を撮影できるのは、臨機応変の対処の天才たちのチームだけです。

ですから普通は、「この場面はここで撮れる」ということの確認のために下見をして、メモとして写真や映像をラフに撮ってくるということをします。

 

登場人物が登場しない「単独の風景」などであれば、ロケハンの時に本編で使用する映像を撮影してしまうことも一般的です。

こういう「別撮り」を増やすことで、出演者を交えた撮影のスケジュールを短縮させることが出来ます。

これが1種類目のロケハンです。

 

2種類目のロケハンは極めて邪道なもので、一般的ではありません。

ただ、私は「升田式スーパープリヴィズ法」としてこれを多用することを提唱していますから紹介します。

 

このロケハンの特徴は、「単独の風景」はもちろん、本来、出演者をそこに立たせて撮影すべき映像の「背景だけ」を撮影してきてしまうというものです。

人物はその背景に合わせて後から合成する手法です。

 

このやり方にはもちろん、メリット・デメリットがあって、他の記事、電子書籍、オンライン講座、ワークショップなどでも詳しく解説していますが、簡単にいうと「圧倒的にコストが掛からない」ということに尽きます。

オーソドックスなやり方の数分の一から数十分の一のコストで、ほぼ想定した通りの映像が手に入って、作品を作れるなら、選択肢に入れても良いと考えています。

ですから、2種類目のロケハンは下見であると同時に、本番撮影の一部であるとも言えます。

ストーリー作りから始める定石を覆す

「映画作り」というと多くの人は、メインの作業として「撮影」を思い浮かべると思います。

でも実際は、「撮影」は映画製作全体から言うと後半戦の作業で、撮影の前に

  • ストーリー作り
  • 撮影準備

という膨大な作業があるんです。

 

私も普段、講座などでは「ストーリー作りこそが大事ですよ」と伝えていますが、これは実は「趣味として映画作りを楽しむ」という上では、大きな足かせになっています。
端的に言って、ストーリー作りは頭を使う作業で「面倒」です。

もちろん、この「面倒」と向き合うこと自体、とても楽しい創作活動ではあるのですが、それを理解している私でも作業が滞りがちになるんです。そして

  • このストーリーは果たして面白いのか?
  • 自分がやりたいのはこのストーリーの作品なのか?

という自問自答を繰り返すことになります。

 

一方で、映画作りにルールはありません。
完成品を鑑賞するだけでなく、制作過程を楽しむのも目的ですから、「楽しく作品が作れればOK」という側面もあります。

そう考えると、「ストーリーを考えてから撮影場所を探す」という順番ではなく、「いい場所があったからそこを舞台にした作品を考える」という逆の順番で映画を作ってももちろん良いわけです。

 

私の敬愛するB級映画の帝王「ロジャー・コーマン」には数々の伝説があります。
中でも凄いのは、3日で取り壊される予定の古城のセットがタダで使えることを知り、急遽、ホラー映画を撮影したエピソードです。
これの何が凄いかというと、ストーリーが決まっていないのに撮影をしてしまったという点です。

 

ベテラン俳優に古城に住む謎の紳士に扮してもらい、「それらしい芝居をしてくれ」という無茶な指示を出して撮影したといいます。
ベテラン俳優も状況を楽しみながら、即興でいわくありげな詩を不気味に朗読したりして演技したそうですが、結果、3日間で古城のセット撮影を終え、それから辻褄合わせでシナリオを作成して、必要な追加撮影をする、という離れ業で作品を完成させたといいます。
驚くべきなのは、この作品が「それなりに成り立っていた」ということです。

 

もちろん、こんな邪道なやり方で名画が出来るはずはありません。
ただ、「週末のドライブインシアターで上映して観客を楽しませる」という需要には応えることが十分出来ていたんです。
「この作品は見世物になればいい」と割り切ってしっかり完成させられる点で、ロジャー・コーマンは偉大なプロデューサーだと思います。

 

脱線しましたが、私たちも、必ずしも「ストーリー作り」から創作をスタートさせることに拘らず、「見栄えのする場所」を見つけるところから創作をスタートさせてはどうでしょうか?

休日にストック映像を収集しまくれ

休日に旅行をする人も多いでしょう。

非日常の風景や背景映像の収集に、旅行を利用するのはとても有効です。

大げさな準備も要りませんし、1箇所で1~2分の時間しか掛けずに撮影をすることも可能です。

カメラはもちろんスマホで十分です。

主なポイントは2つ。

  • 絵になると感じた映像を撮る
  • 絵にならない向きの映像も撮る

ということです。

「絵になると感じた映像」は全くそのままです。絵葉書的に見栄えのする景色と思ってください。

これを3~4秒、動画で撮影します。本編で使うのは2秒程度ですが、画面が揺れていない部分を使えるようにやや長めに撮っておきます。

動きのない風景であれば写真でも構いません。

これは主に場所を示す「シーン初めの映像」として使います。

単独の風景として使ったり、登場人物を合成して使ったりします。

「絵にならない向きの映像」は忘れがちですが必要な背景映像です。

登場人物がその場所にいるように錯覚させるために、映像合成をしますが、その時に人物の背景になるのは大抵「絵葉書的景色」ではない方向の風景になるんです。

背景映像はピントをぼかして使ったりするので、その場にふさわしければ何でもいいのですが、一番手っ取り早いのは、その場で数パターン撮ってしまう事です。

これも、動きが無い景色であれば写真で構いません。

スマホを水平に構えて、45度ずつ角度を変えて180度~360度分の写真を撮ります。

ロケ地1箇所について

  • 絵になると感じた映像
  • 絵にならない向きの映像

をセットで保管すれば、その場所でのシーンが後から合成で作れます。

撮影が1~2分で完了することもイメージできるのではないでしょうか?

これらの映像を「ストック映像」として保管しつつ、その場所を舞台にしたシーンを考えるところからストーリー作りを始めるという順番で映画作りを楽しむのも一つの手だと思います。

ここで疑問が湧くかもしれません。

「どんなストーリーかも決まっていないのに、人物をどう登場させるかなど分からない」というものです。

非常にレベルの高い、作家性の強い映像であれば、それはもっともです。

映像はその場や内容、登場人物の状態に合わせて設計されるものだからです。

ただ、私が気付いたのは、ほとんどの場面において、映像展開は定型化されたオーソドックスな数パターンで構成されるという事実です。

舞台が同じであれば、ホラーだろうが喜劇だろうが「撮り方のパターン」は限られているということです。

そのパターンを外れた「プラスアルファの魅力」は、一通り作品を完成させられるようになった、次の段階から追求すればいいのではないでしょうか?

私は、まず短期間で作品を完成させられるこの手法を使って「完成させることの達成感」を味わってもらうのが先だと感じています。

参考になれば幸いです。

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