古い名作映画の伝道師としての庵野秀明・「オリジナリティの必要性」とは?
オリジナリティーを追求するのは無駄なこと?
創作の醍醐味は「自分だけの物語」を生み出せることです。この魅力はやってみないと実感できません。
ただ、「オリジナリティー」を「全く新しいもの」と考えてしまうと、色々と問題が生じます。
創作に時間が掛かるのはもちろん、せっかく時間を掛けて作った物語が、観客にとって全く面白味を感じられない作品になる確率が高くなるんです。
古典文学の時代から「どうしたら物語を面白く感じられるか」という事を追求しながら膨大な作品が生み出されており、長い時間を掛けて「面白い作品」だけが生き残っているわけです。
そこには「面白いと感じられるいくつかのパターン」があるんです。
もちろん、数百年の常識を打ち破る、全く新しい物語のパターンを開発することを目指すのは自由ですが、恐らくはその研究だけで一生を終えてしまうでしょう。
「新しいアイデアとは、既存のアイデアの新しい組み合わせに過ぎない」という言葉があります。
「面白い物語パターン」に「自分の好みの要素を掛け合わせる」だけで、十分に新しい物語として名乗って良いと私は思います。
コラージュが持つ可能性
そう考えると、有効なのは「コラージュ」という手法ではないでしょうか?
映画原理主義の人たちから常に非難される、山崎貴という脚本家・監督がいます。
私は映画「三丁目の夕日」を観て、その後、映画に使われている原作マンガのエピソード集を購入して愕然としました。
原作はほのぼのとした1話読み切りのマンガなんです。
確かに映画に使われているエピソードがそのまま入っているんですが、本来は関係のないエピソードが映画の中では有機的に結びついて、原作マンガではクスっと笑う程度のエピソードなのにも関わらず、映画では人情味にあふれて感動するシーンに生まれ変わっているんです。
私は「これがプロの脚本家というものか!」と感服しました。
以来、私は山崎貴ファンを公言しています。
完全なオリジナリティを求めるのであれば、そもそも原作ものは作れなくなります。
しかし、新しい組み合わせによって新しい感動も生み出す可能性があること、そしてそれは完全なオリジナリティーを求めるよりはるかに高い確率で「面白い物語」を作れることは認識しておくべきでしょう。
オマージュの魔術師・庵野秀明のオリジナル愛
コラージュと共に効果的な手法がオマージュです。
オマージュを駆使した作品を生み出している作家と言えば、庵野秀明監督です。
私は、アニメーションはあまり詳しくなくて、ドラマ「アオイホノオ」を観て、主人公の宿敵「アンノ」の活躍を楽しみ、直後に公開された「シン・ゴジラ」を観て、その独特の思想を楽しむようになりました。
「独特の思想」と私が感じる点は、庵野監督が先人たちに持つ、異常なまでの尊敬の念です。
普通は先人たちの否定をエネルギーにして、「自分ならではの新しさ」をアピールするものですが、庵野作品の大きな特徴は、過去の映画、過去の監督の演出法を意識的に大量にちりばめている点です。
対象となっている過去作が、多くの観客にとっては馴染みのないものなので「斬新な映像」と映るんですが、そこで庵野監督は惜しげもなく、元となった作品や監督を紹介して「古い作品ですが素晴らしいので是非見てください」と宣伝するわけです。
古い名作への橋渡しのために自分の作品を作っているのではないか?と思えるほどです。
結果、庵野作品の若いファンたちは、庵野監督に紹介される形で古い作品も観て、そちらも「新しい作品」として楽しめることになります。
つまり、庵野秀明という人は「日本映画の伝道師」の一人になっていると言えます。
昔はテレビで放送する洋画劇場の映画解説者の人たちが、伝道師の役割を担っていましたが、それがなくなった今、貴重な存在と言えるでしょう。
やや脱線しましたが、この庵野秀明監督の活躍を支えているのは「作品が面白い」という事実です。
批判する際の意見としては、「古い作品のオマージュばかりでオリジナリティーがない」というものですが、これは「作家たるものオリジナリティーを求めなければならない」という間違った考えから来るものでしょう。
観客に見せることを前提にしたプロの創作は、第一にその観客に満足感を与えなければいけません。
「ああ面白かった」という引き換えに料金を払うことで創作作業が成り立ちます。
スピルバーグやタランティーノといった有名監督も、古い作品などからの引用やオマージュが多いことを批判する声も多くありますが、映画製作の目的が「自分のオリジナリティーを追求すること」ではなく「面白い映画を作ること」としていることが成功の理由だと思います。
オリジナリティーは自然に出るもの
才能にあふれていてプロになった人たちでさえ、「面白い作品」にするために、オマージュやコラージュを利用するのですから、アマチュア作家の創作活動で過度なオリジナリティーの追求はメリットが期待できません。
では、「常に誰かの真似ばかりをした作品を作れというのか?」と言われればもちろん違います。
あなたのお気に入りの作品があるとします。
「こんな感じの作品を作りたいなあ」というものはあるはずです。
でも、仮にその手法をかなり真似て作ったつもりでも、結果的に作品の雰囲気は大分違うはずなんです。
理由は色々ですが、私が思うに、創作者は良くも悪くも、無意識レベルでオリジナリティーを求めているんです。
ですから、元の作品をコピーして作り始めたとしても、けっしてそっくりに作れるわけではなく、良い具合に「独自のカラー」が出ます。
それがあなたのオリジナリティーに繋がっていくはずです。
特に創作初心者の段階では、創作ペースが上がりません。
場数をこなさなければ上達しない技術も多いので、まずは意識してオマージュ作品から製作していくことをおススメします。
先に、「観客に見せることを前提にしたプロの創作は、第一にその観客に満足感を与えなければいけません」と書きましたが、実はこれはアマチュア作家でも変わりません。
あなたの作品を鑑賞するために、自分の時間やエネルギーを費やしてもらうからには、それに見合った満足感がなければ、「創作者」と「観客」という関係が成り立たないんです。
「タダで見せるから良いでしょ」というわけではありません。そこを勘違いすると誰にも応援されない孤独な創作者になってしまうので注意が必要です。
参考になれば幸いです。
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