映画製作最大のコストは「撮影」・特撮技術の応用が撮影の待ち時間を減らす?
撮影で時間が掛かる意外な理由
「映画を作ってみたい」という動機は人それぞれで、微妙に違っています。
例えば、
- プロのスタッフや役者の真似事をしたい
- 自分が思い描いた作品を完成させたい
これなどは、それぞれ大変魅力的ですが、方向性が異なるので、全く両立できない場合もあるんです。
私ももちろん
- プロのスタッフや役者の真似事をしたい
という意識もあります。
いくつになっても「ごっこ遊び」は楽しいですからね。
でも、比率としては
- 自分が思い描いた作品を完成させたい
の方がずっと大きいんです。
ですから、そのために有効な方法(主に特撮ですが)を多用して、完成のための近道として利用しているわけです。
しかし、
- プロのスタッフや役者の真似事をしたい
という比率がずっと大きい人にとっては、私のやり方はちっとも優れていない事になります。
- そんな撮り方では本当の撮影技術は上達しないよ
- そんな撮り方では良い役者にはなれないよ
- そんな撮り方では芝居に心がこもらないから、見る人が見れば白けるよ
つまり、「昔ながらの映画の撮り方こそが正義」という意識が強い人にとっては、私のような撮り方で作品を作っても意味がない、という結論になるわけです。
それが間違いとは思いません。
ただ、料理を作ったこともない全くの初心者が、「どうせ作るなら最高級の食材を使わないと意味がない」と言っているように聞こえてしまうんです。
映画製作は大きく3つの工程に分けられます。
- 撮影前の準備
- 撮影
- 撮影後の処理
多くの人は、まず撮影から作品作りが本格的に始まると考えがちですが、「撮影」という工程は、スケジュール的に見ても後半戦に位置します。
イメージとしては、「話は出来た。あとは撮って繋ぐだけ」という感覚で進められることが理想です。
ですが、コスト面で考えると「撮影」がネックになるんです。
「趣味の映画作りだからコストなんて考えなくていいよ」というのは大間違い。
あなたは自分の趣味なので、週末の余暇を全部潰して撮影をしても満足の筈ですが、手伝ってくれる人はそうではありません。
もちろん、あなたの活動に賛同しているから協力してくれている筈ですが、満足度はあなたほど大きくはない筈なんです。
もし、無償で手伝ってくれているとしたらなおさら、スケジュールを圧縮して負担を少なくする意識が不可欠になります。
そして大事なことは、3つの工程のうち前後の作業は、あなた一人で出来るかもしれませんが、「撮影」の工程は通常、複数の人が同時に関わります。
人数を掛けた分のコストが掛かっているんです。
例えば5人で丸1日撮影したという事は、一人で換算すると5日分のコストが掛かったという事です。
謝礼や食費を支払う場合は実感として分かるのですが、仲間同士で無償ボランティアの形で活動する場合はこの意識を忘れがちになります。気を付けてください。
プロのやりかたを真似するな
実際に、撮影は予想以上に時間が掛かります。
30年以上もこの趣味を続けている私でも、いつも予定より時間が掛かってバタバタしています。
もっとも、私の場合は、当初に比べて2~3倍のペースで撮影する予定を組んでいます。
手際が良くなっても、その分撮影量を増やしてしまうので、撮影現場に余裕は生まれません。
その分、全体のスケジュールを短くすることを優先しているわけです。
通常、撮影で時間が掛かる要素は2つあります。
- セッティングと段取り確認
- 状況が整うのを待つ
1つ目は明確です。
「こういう映像にしたい」という状況をカメラの前に再現するため、
- カメラの位置を決め
- 役者の立ち位置を決め
- 映像の画角を決め
- 役者の芝居を決める
という作業です。
言ってみれば、この作業が楽しくて映画作りをするわけなので、この手間は省けません。
問題は2つ目「状況が整うのを待つ」という要素です。
実は撮影時間の大半はこれに使ってしまう、という場合が多くあります。
例を挙げてみましょう。
- 太陽に雲がかかって暗くなったので、雲が晴れるまで待つ
- 雨が降ってきたので止むまで待つ
- 空に飛行機が映り込むので去るまで待つ
- 画面の奥に歩行者が映り込むので去るまで待つ
- 街宣車の声が入るので去るまで待つ
- 演出上必要な夕焼けが出るまで待つ
ざっと挙げてみましたが、どれも実際によくある状況です。
天候に関わる「待ち」は、日本で野外撮影をする以上、ある程度受け入れるしかありません。
ハリウッドのように、いつも天気が良くて一定の撮影条件が保たれる土地ではないので仕方ありません。
しかし、その他はどうでしょうか?
もちろん、プロの現場では全て待つのが基本です。
「映画俳優の仕事は待つことだ」ともよく言われます。
- プロのスタッフや役者の真似事をしたい
としても、この部分まで馬鹿正直に真似をするべきでしょうか?
私は経験上、待てば待つほど満足感は少なくなると思っています。
スタッフや出演者は、待っている間もどんどん疲れていきますから、1日かけて撮影した内容を見せると「え?これだけしか撮れてないの?」とがっかりするんです。
「映画ってそういうものだから」という常套句はよく使われますが、結果、スタッフや出演者が「じゃあ大変だからもう関わりたくないや」と離れていってしまえば、活動の継続が困難になります。
私は、ここはプロを真似せず、撮影時間を大幅に短縮すべきだと思うんです。
特撮の選択肢を頭に入れておくと便利
具体的にどうやって待ち時間を短くするかというと、ここで特撮の技術を応用するんです。
- 空に飛行機が映り込むので去るまで待つ
>編集時に飛行機を消すことにして待たずに撮る
- 画面の奥に歩行者が映り込むので去るまで待つ
>編集時に歩行者を消すことにして待たずに撮る
- 街宣車の声が入るので去るまで待つ
>撮影時の音は使わない事にして待たずに撮る
- 演出上必要な夕焼けが出るまで待つ
>編集時に夕焼けを合成することにして待たずに撮る
実際には簡単な事と、やや面倒な事がありますが、要は、複数の人を待たせるという無駄は極力省いて、コスト的に安上がりな一人作業である「編集」で画面を整えようという発想です。
昔ながらの撮影にこだわる人は「そんなのは邪道だよ」と笑いますが、この邪道なやりかたで遜色なく作品が完成するのなら悪くないと思いませんか?
「この映像は後から背景の歩行者を消しているから、作品全体が台無しだ」なんてことになるはずが無いと、私は考えます。
実際の撮影ポイントと編集方法の例
「なるほど。待たずに撮るやり方を採用しよう」という方には、ポイントをお教えします。
大事なことは、
- 撮影時、三脚を使って映像を固定すること
- 合成しやすい構図にすること
です。
「編集時に~を消す」と言いましたが、正確に言うと、「消えて見えるような映像を上から合成する」ということです。
空を飛んでいる飛行機を消すために、飛行機の部分の上に、飛行機がいない空の映像を貼り付けるんです。
これは、デジタル編集が得意な作業です。
その際、前提になるのが、画面が固定されていることです。
固定画面であれば、空の映像を、シールを貼るように貼り付けても不自然にはなりません。
もし、カメラが動いていた場合は、シールの部分だけ動かないので不自然になってしまうんです。
そのために、撮影時はカメラを三脚に固定して、パーンなども使わない事にします。
次に大事なことが
- 合成しやすい構図にすること
で、これは是非、養ってほしい感覚です。
具体的に言うと、映像合成は常に「前面に」シールを貼り重ねる感覚で行なうので、「シールで隠したいものと被写体を重ねない」という事が重要なんです。
例えば、画面の奥を通る歩行者を消したい場合、構図を工夫して、歩行者と被写体が重ならないように撮るんです。
ぎりぎり重なってさえいなければ、画面にがっつりと映り込んでしまっていても問題ありません。
撮影時にモニターを見て、被写体の輪郭に触れずに、シールを貼れば余計なものが隠せる、という確認をしながら構図を決めれば大丈夫です。
隠したいものに貼り付けるシールとしてのデータは、静止画から作ります。
ここでは簡単に説明します。
- 該当する動画の一部から静止画を書き出す
- 静止画の中で消したい部分を消す
(手作業で塗りつぶす、フォトショップのAI機能を使って消す等)
- 被写体に被らない形で静止画を切り抜く(シールを作る)
- 動画編集ソフト上で、撮影映像の上に切り抜いた静止画(シール)を重ねる
慣れればそれほど時間は掛かりません。
撮影時の膨大な待ち時間を減らすことで、1日の撮れ高を増やし、作品の完成時期が早まります。
それともう一つ、副産物として生まれる「加工前」「加工後」のメイキング映像は、作り手が思っている以上に関係者や観客を楽しませることも忘れてはいけません。大いに活用しましょう。
参考になれば幸いです。
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