時間と効率を重視!DIY映画制作のための京都太秦流撮影テクニック
優先順位:空腹を満たすことが最も重要
食事に例えると、「食事は人が生きて行く上でもっとも大事なものだから、高い意識を持つべきです。皿も高級なものを使うべきだし、材料にもこだわるべき。ハーブにも凝りましょう」という考え自体は間違っていないでしょう。
しかし、食事で最優先にすべきは「空腹を満たすこと」です。
それが達成できていない人が、先に皿やハーブにこだわっても滑稽ですよね?
映画に置き換えると、面白味があって誰にでも意見が言える「演出」の部分は「ハーブ」に当たるのかもしれません。
そこにこだわりたい気持ちは分かりますが、優先順位は低い筈です。
最低限のレベルをクリアできるようになってから、つまり、作品を完成までこぎつけられるようになってから、ようやく手を付けていい領域なんです。
理由は簡単で、完成させる実力もないのに「演出」にこだわると、時間が掛かりすぎて製作が頓挫する危険性が高まるからです。
演出にも大いに関係しますが、私は「演技」の優先順位も低くすることをおすすめします。
商業映画の素晴らしい演技を見てあこがれるのは当然ですし、役者が「いい演技」を出来る環境を求める気持ちは分かります。
ただ、その環境づくりにも余分な時間が掛かるんです。
作品を完成させるためには、基本的に時間が掛かることは出来るだけ避けることを意識してください。
「そんな味気ない映画は作りたくない」と思うかもしれません。
でも、味気ない映画すら完成させられないうちは、他の要素に凝ろうとしてはいけません。
それとも、あっさりと味気ない完成品より、凝りに凝って中途半端に終わった未完成品の方がマシですか?
そんなバカな話はありません。
効率的な創作プロセス:こだわりと時間節約のバランス
創作活動には必ず制約があります。
中でも大きな制約は「時間」です。
時間節約のための工夫はとても大事です。
勘違いして欲しくないのは、「時間が掛かるからこだわりは全て捨てろ」と言っているわけではないということです。
むしろ逆で、「ここにはこだわりたい」というポイントを守るために、それ以外の部分は効率を優先して時間を作りましょう、ということです。
製作期間短縮の最大のポイントは、「いかに撮影を早く進めるか」です。
撮影期間の短縮には、
- 1日当たりの撮影量を増やす
- 撮影日の間隔を短くする
の二面があります。
今回は「1日当たりの撮影量を増やす工夫」について話します。
参考になるのは、京都・太秦撮影所の撮影スタイルです。
最適化された伝統的撮影手法
太秦撮影所といえば時代劇の撮影で有名です。
現在ではほとんどなくなりましたが、連続テレビドラマで週に何本も新作時代劇が放送されていた頃などは、もの凄いペースで撮影が行われていました。
当然、映画のように役者の気持ちが整うのを待って、午前中に3カット、午後に10カットというように丁寧な撮り方をしていては全然間に合いません。
ハイペースで撮影をするために、独特の工夫があるといいます。
例えば、主要登場人物の撮影。
これは、「水戸黄門」に主演した武田鉄矢氏がラジオで披露していた話です。
例えば、その日の撮影で、
- 黄門
- 助さん
- 格さん
- 悪代官
の4人がメインで登場するとします。
まずは、4人が全てカメラに映る映像を全部撮ります。
次に黄門の顔が映る映像を全部撮ります。
次は黄門の後姿や肩がカメラに映り込む映像を全部撮ります。
それが終わると、黄門役の役者は終了で現場から去ります。
次は同様に悪代官の顔が映る映像を撮ります。
悪代官が映り込む映像を撮ります。
ここで悪代官役の役者も解放。
このようにして、忙しい役者からどんどん開放する撮り方をするそうです。
もちろん、撮影する順番は全くバラバラになります。
助さんが話しかけている黄門は、もう現場にいないんです。
多分、カメラに映らないので別の人が黄門の位置に立っていて、その人に話しかけているのでしょう。
役作りをして、気持ちを整えながら演じることは不可能です。
まさにモンタージュ理論の実践現場です。
演技第一主義の人にとっては「そんなものは演技でもなんでもない!」と怒るでしょうが、優先順位を「撮影ペース」に置くとこれが正解の一つになります。
伝統ある京都太秦撮影所がこれをやっていると知ると、勇気が湧いてきます。
必要なのは周到な準備
私たちが作るDIY映画にも、作品完成を邪魔する様々な制約があります。
そのもっとも大きな制約の一つ、「撮影時間が十分に確保できない」という部分は、この「順番をバラバラにして効率優先で撮影する」という手法がとても参考になります。
バラバラに撮影するためには、綿密な映像設計と撮影計画が必要です。
バラバラに撮影すると、充分に準備していても、編集後に「繋がって見えない」という危険は高くはなります。
でも、何度か経験を積むと、万が一映像が繋がらなかったときのための対処として「念のために追加で撮っておく映像」も分かるようになります。
こうやって撮影の工夫をすることで、予定時間内に全ての撮影を終えられるようになるのが第一段階。
予定時間に若干の余裕が生まれて初めて、その時間をこだわり追及の時間に充てるのが正しい順番でしょう。
参考になれば幸いです。
参考文献:時代劇は死なず! 完全版: 京都太秦の「職人」たち (河出文庫 か 27-1) 文庫 – 2015/2/6
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