特撮を駆使して自主映画の撮影スケジュールを最適化するための実践ガイド
特撮映画の影響と自主映画の製作期間
私は元々、ハリーハウゼンのミニチュア特撮映画などが好きだったことがあって、バラバラに撮影した映像を組み合わせて、繋がったストーリーに見せることへの抵抗が全くありません。
ですから、演劇のように役者の気持ちから表現される演技を最優先した撮影などは、「贅沢だなあ」と感じます。
基本的には、演技初心者の知り合いなどと一緒に作品を作り上げることが多かったため、役者の表現力に頼らなくても成り立つような映像を組み立てる癖がついているんです。
そこでの最大の課題は、できるだけ短期間に作品を完成させることです。
理由は常々お伝えしている通り、製作期間を短くしようと意識しないと、結局作品が完成しないからです。
これは私にとっては、いまだに恐怖感を伴う要素で、完成させることの難しさから逃れられません。
でも、実際に映画作りをしていない人からは「仕事のように納期が決まってないんだから、ゆっくりと時間を掛けて良いものを作ればいいじゃないか」と言われます。
これは一見正しく聞こえますが、実際には時間を掛ければ掛けるほど相対的に品質が落ちていく要素がたくさんあることを知らない意見です。
撮影期間の短縮には様々な工夫を駆使する必要があります。
1日当たりの撮影量を増やすために、撮影の順番を変えることはもっとも一般的です。
もう一つの工夫は、シナリオの段階から、撮影が効率的に出来るような工夫をすることです。
自主映画・DIY映画は監督自らが脚本を書いて進行全体を管理する製作を兼ねている事が多いので、調整はしやすい筈です。
具体的にどういう工夫をするかの一例を紹介します。
ひとり芝居を多くする
撮影がもっともスピーディーに進むのは、登場人物が一人の場面です。
撮影する際、監督が役者やスタッフに伝えたイメージを再現しようとします。
もちろん、注文が難しければそれなりに時間が掛かるんですが、登場人物が1人の場合は、その人の演技さえクリアすればOKとなります。
登場人物が2人いると、それぞれの演技がOKで、2人の「間合い」もOKで初めて撮影完了となります。
チェックポイントが格段に増えるので、同じ長さの1ショットに使う撮影時間は倍増するんです。
同じ場面に登場する人物が増えれば増えるほど、撮影時間は長引きます。
ここから考えられる、撮影時間を短くするコツは、「できるだけ画面にひとりずつ映る映像を多くする」ということです。
これは、簡単なのはカット割りによって1ショットの映像を増やすことでも実現します。
2人が登場するシーンでは普通、2ショットとそれぞれの人物の1ショットを組み合わせます。
カット割りして2ショットの数を減らせば、2人の間合いが課題になる映像はその2ショット映像だけになります。
1ショットの映像は少なくとも芝居上、間合いを考慮しなくていいので撮影は早く進みます。
もっと根本的に2ショットを減らすには、そもそも2人での行動を減らす手があります。
例えば2人の刑事がコンビで捜査をしている話だとします。
これを表現するときに、常に2人がくっ付いて会話しながら物語を進めようとすると、当然、時間のかかる2ショットの場面が多くなります。
それよりも、基本は二手に分かれてそれぞれが捜査をして、時々合流して情報交換をして、またそれぞれの単独行動に戻る、という展開にすると、撮影がスムーズな1ショット映像を多くできます。
その映像設計が出来ると、撮影スケジュールそのものを効率的に組み直せます。
1人の役者しか参加できない日でも、撮影量を稼げるからです。
スケジュール合わせの難易度は人数で激変する
全体的な撮影量が少ない短編作品で、1日~3日で全ての撮影が完了するスケールの作品であれば、工夫は「1日当たりの撮影量を増やす」だけで事足りますが、通常は撮影回数は数回~十数回に及びます。
もちろん長編作品になれば数十日を撮影に費やします。
撮影回数が多い作品であれば、スケジュール調整の工夫の効果はとても大きくなります。
逆に言うと、工夫をしないと何日分も無駄にします。
基本的な事ですが、撮影するためには、スタッフと出演者の都合を合わせる必要があります。
主役は毎週撮影可能だとしても、ヒロイン役の役者が隔週でのみ撮影可能であれば、普通は撮影は隔週で行います。
でも、映像の中には、主役しか映らない場面もたくさんあるはずです。
その撮影の間、せっかく参加しているヒロインはただ時間をつぶすことになるんです。
私はこれが非常な無駄だと思うんです。
主役しか映らない場面は、できるだけヒロインが参加できない日にまとめて撮影できないか、そういう視点でスケジュールを立てます。
ヒロインが参加する日は、とにかくヒロインが映らなければ成り立たない場面だけ撮影するようにすれば、撮影期間の短縮に繋がります。
さらに特撮要素を加えてスケジュールを短縮する
映画は舞台と違って、死角がたくさんあります。
死角の無い舞台劇では3人が議論しているシーンは必ず3人が立っている必要がありますが、映画の画面の中で1人の顔がアップになっている瞬間は、その役者の前に必ずしも他の2人が存在していなくても、物語は成り立つんです。
この特徴を利用しない手はありません。
馬鹿正直に芝居そのものを分割して撮影するだけが選択肢ではないんです。
また、映画では人物の位置関係を把握しやすくするために、登場人物の肩越しに別の登場人物の姿を撮る映像を多用します。
この時、「肩しか映らないのなら、わざわざその役者にスケジュール調整してもらわなくてもいいんじゃないか?」という疑問を持ってもらいたいんです。
もっと言えば、「肩しか映らないのであれば、映像合成でも行けるんじゃないのか?」という、特撮的発想を持ってもらいたいんです。
実際、私は「男はつらいよ」のオマージュ的長編映画を作った際、スケジュール調整の工夫として、色々な場面で映像合成を採用しました。
基本的にはホームドラマですから、普通は特撮とは最も縁遠いと思うでしょう。
怪獣映画と違って「これは特撮だな」と気付かれると良くない、本来は特撮とは相性が良くないと思われるジャンルです。
しかし、静止画合成や2画面合成を多用して、実際には共演していない役者同士が会話していたりする場面があちこちにあるのですが、その場面が特撮だと気付いた人はほとんどいませんでした。
特撮が上手く使えた例だと思います。
現実的に、この作品はギリギリのスケジュールで撮影したので、もし特撮場面を採用していなければ、大幅に脚本からエピソードを削除することになって、最悪、完成させることはできませんでした。
映画製作は、結局のところ、時間との戦いです。
その戦いに勝って初めて作品は完成します。
「映画というのは時間が掛かるもの」と最初からあきらめずに、撮影時間の短縮のために有効な工夫をしてみてください。
参考になれば幸いです。
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