日本のドラマに映像合成が向いている可能性・隠れた特撮で伝統的画面を作る

特撮映画と一般映画の境界線は?

「特撮映画」というと特定のジャンルの作品をイメージすると思います。

「私は特撮映画を作りたいわけではないので、あなたの話は参考になりません」と言われがちなんですが、もしかしたらそれはちょっと勘違いしているかもしれません。

 

もちろん私は特撮映画も大好きです。

ただ、観客には特撮映画と認識されていない作品の中で、さりげなく使われている「特撮技術」の方がむしろ好きなんです。

 

分かりやすい例で言うと、怪獣映画。

これはまず間違いなく特撮映画です。

明らかに撮影不可能な場面のオンパレードで、それこそが特撮の醍醐味と感じる人も多いでしょう。

 

では、サスペンスの巨匠、ヒッチコックの映画は特撮映画でしょうか?

特撮の技術や歴史に詳しい方ならご存じでしょうが、ヒッチコック監督は特撮にも造詣が深く、非常に効果的に特撮技術を画面作りに応用しています。

 

中でも「めまいカット」という撮影技法の名称にもなった有名な「めまい」というサスペンス映画。

 

これの螺旋階段を撮影した伝説の「めまいカット」は、実は実物の螺旋階段を撮影したものではなくて、ミニチュアの螺旋階段セットを横向きに倒して撮影したという、まぎれもない「特撮映像」なんです。

しかも、セッティングに苦労しているカメラマンに向かって、「馬鹿正直に螺旋階段を真上から撮らなくたって、ミニチュアセットを横向きに置いて撮ればいいじゃないか」と指示したのはヒッチコック自身だそうですから、映像設計に対する柔軟性のある発想が出来た人なんだなあ、とつくづく感心します。

 

ヒッチコック映画には、他にも随所に特撮技術が使われていますが、けっして「特撮映画」とは呼ばれません。

(唯一、「鳥」は特撮映画に近い扱いのこともあります)

 

私が思うに、特撮映画と一般映画の境界線は、とても曖昧です。

あえて言えば「特撮がバレるのが前提なのが特撮映画」という事でしょうか?

どこからどう見ても本物の恐竜が登場したとしても、私たちは知識として「その恐竜は本物ではない」と知っています。

そうするとその作品は「特撮映画」と言われるのではないでしょうか。

 

いくら特撮技術をふんだんに使っていても、観客がそれに気付かない場合は「特撮映画」とは言われません。

もちろん、そちらの方が特撮としては上質であると思います。

グリーンバック特有の映像設計と日本人

特撮は80年代に以下のようにカテゴリーが分類されています。

  • ミニチュア
  • CG
  • 特殊メイク
  • モデルアニメーション
  • スタント
  • ダミー
  • 合成 他

私は元々、ミニチュアとストップモーションが作りたくて、映画作りを始めたくらいの特撮好きです。

 

近年ではパソコンの性能が上がって、以前では再現が出来なかったレベルの「合成」が可能になったことで、「グリーンバック撮影」+「クロマキー合成」の手法をメインに活用しています。

この手法では背景映像を合成できるので、そのシーンのセット自体をミニチュアで作ることによって、かなりイメージ通りのシーンを再現できるのが最大のメリットです。

 

一方で、もちろん色々と弱点もあります。

例えば、複数の人物の撮影をバラバラに出来るので撮影スケジュールを立てやすく、進行が速い反面、役者同士が接触する場面が撮れないんです。

肩を組んだり握手をしたりという接触です。

位置や角度・速度を合わせて再現しようとすれば、実際に握手をする10倍もの手間が掛かってしまいます。

 

ところが、私が再現したいと思っている、やや古いタイプの日本映画の多くでは、人物の接触があまり無いんです。

犬神家の一族」(市川崑監督)などを思い浮かべてみると、非常に印象的なシーンが多いのですが、カメラがどっしりと固定されていて、やや暗く、人物同士が接触せずに並んでいる場面がほとんどです。

 

つまり、その多くは合成特撮で再現しやすい映像であることに気付きます。

これは、日本人がやたらと体を接触させない生活習慣であることも幸いしています。

 

日本映画は全体的に低予算であると言われ、それを逆手に取ったような、全編手持ちカメラで撮影した疑似ドキュメンタリー風の作品も多くあります。

昔、話題になった「ブレアウィッチ・プロジェクト」の流れの作品です。

 

それも手ではあるんですが、その種類の作品の場合、撮影自体は昔ながらの「現場を再現して1カットずつ撮る」というやり方以上の工夫のしようが無いんです。

 

私はむしろ、カメラが大きかった時代の重厚な画面設計を、特撮合成で再現した作品を作ることでカラーを出していきたいなと思っています。

ミニチュアセットを使うことで低予算化し、画面自体はオーソドックスなデザインにすることで、あえて「ミニチュアっぽさ」を隠すことも出来そうです。

 

そうすると、古い日本映画はお手本にすべき画面の宝庫であることが分かるんです。

プライムビデオで古いモノクロの映画を見ても純粋に「カッコいい画面」が多くて驚きます。

  • この場面はミニチュアで再現できる
  • この場面はこういう合成で再現できる

という見方をすると、思いのほか実現できる映像が多いことに気付くと思いますよ。

 

参考になれば幸いです。

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