映画作りの楽しさは達成感と承認欲求の充足:作品テーマは後付けでも良い理由
人の行動は感情に支配されている
「映画を作ってどうするの?」
学生時代、夢中で絵コンテ作りや撮影に明け暮れていた頃、よく言われたことです。
「それで儲かると思ってるの?」
「映像のプロになれると思ってるの?」
という悪意を持った質問ではなかったと思います。
質問してきた人たちは単純に、何故私がそれほどまでに映画作りにエネルギーを注げるのか、不思議だったんだと思います。
何故、映画をはじめとする「面倒な創作」に打ち込んでしまうのか。
理由は感情にあります。
一つ一つの工程を経て作品が具体的な形に近づいていくたびに味わう「達成感」。
完成作品を人に見せることで満たされる「承認欲求」。
ここから得られる満足感を求めて、寸暇を惜しんで創作しているのが実態です。
この満足感の力は強烈で、50代半ばになった現在でも、創作意欲が衰えないどころか、40代の終わりにサラリーマンを辞めて映像製作のフリーランスになっているほどです。
(ちなみに仕事で扱う映像は、販売用講座などのビジネス向け動画がほとんどです)
「表現したい事があるかどうか」と「創作意欲」は別問題
映画作りは、ストーリー系の創作と言えます。
マンガ、小説などが近いジャンルです。
前述のような「創作する理由」を把握していないと、このようなストーリー系の創作をする場合におかしな問題が生じます。
例えば、小説家による小説講座があるとします。
その講師は小説家で、自分の主義主張を社会に向けて問いかけるタイプの作風だとしましょう。
そこで受講者からの質疑応答を繰り返すうち、「そもそもあなたは小説で何を読者に伝えたいんですか?」という話になりがちす。
その質問が小説執筆において「本質的でない」と感じるからです。
受講生の動機は「小説を書くことで達成感を味わいたい」というものです。
講師である作家の先生とは創作の理由が全く違うんです。
当然、特に世に問うようなテーマを持っていませんから、「何を伝えたいという事は無いです」と答えるでしょう。
「何を書けばいいんでしょうか?」
という一見、滑稽な質問が出たりします。
ここで
- 書きたい事が特にないのなら小説など書かなくても良いじゃないか
- まずはテーマを探してください
という話になったとしたら、それは「的外れなアドバイス」と言わざるを得ません。
「小説を書くことで達成感を味わいたい」という受講生が、その目的を達成するために「何を書けばいいんでしょうか?」というのは、ある意味、筋の通った質問だからです。
選択肢が無制限にある「自由」はむしろ難しい
創作の趣味でまず最初につまづくのは「自由」による混乱です。
小さな子供に画用紙を渡して「自由に絵を描いていいよ」というと、すぐに好き勝手に描き始めます。
私は大抵、小動物や恐竜を描きました。
何の迷いもなく、お姫様を描き出す子供も多くいました。
でも、同じことを大人にさせようとすると、驚くほど出来ないんです。
「何を描くか指示してください」
となります。
それだけ、「自分で決める力」が弱っているという事ではないでしょうか?
でも、何かは描きたい。
達成感は欲しいからです。
そこで、あえて「縛り」を設けるために「テーマ」を決めるのは有効だと思います。
「自由」では範囲が広すぎるので、テーマによって選択肢を狭めるわけです。
作者にとってテーマは何でも良いのであれば、読者の興味を引くようなテーマにすることも有効でしょう。
「プロじゃないんだからニーズに合わせるんじゃなくて、自分が書きたい事を書くべきだ」
という批判も、ここでは「的外れ」と分かりますよね?
書くことはしたいけど、書きたい事があるわけではないんですから。
難しいことは後回しで映画を形にしてみる
映画作りでも全く同じことが言えます。
基本的に、映像設計をして撮影・編集をすることで、細切れに用意した素材がドラマになっていく過程は面白いです。
そこから得られる満足感は間違いなく魅力です。
伝えたいテーマがあるかどうかとは、全く別問題なんです。
ですから、既に用意されたシナリオに沿って、映画作りをしてもかなりの達成感は得られます。
「ゼロからあなただけのオリジナルの作品を作りましょう」
という高望みをする前に、何かのパロディー作品、コピー作品を作ってみることはとても有効だと思われます。
映画作りは時間が掛かります。
ついつい高望みして、作品が完成させられないという失敗を冒します。
そこでおススメするのが、昔のパソコンゲーム画面のような映像を作ってみることです。
一つのシーンに一つの背景があって、そこに出てきた登場人物が会話をして、次の場面に変わる、という紙芝居のような映像です。
もちろん、映画ならではの映像づくりの面白さ全てを味わうことはできません。
でも、「物語を映像に変換して観客に見せられる」という最大の承認欲求を満たすことは出来るわけです。
しかも、「パソコンゲーム風の画面」と割り切れば、背景を別撮りしてきて、人物は室内のグリーンバック撮影で行うという手法が使えます。
この手法の最大のメリットは、圧倒的に撮影期間が短縮されるということです。
シンプルな短編作品であれば、1日で人物撮影を終了させられるでしょう。
そうして完成させた作品を仲間同士で鑑賞して楽しみながら、新作ごとに徐々にレベルを上げていくことが、映画作りという創作の趣味を楽しむための実践的な手法かもしれません。
私の主宰する「DIY映画倶楽部」でも、初心者監督のために、このやり方を積極的に取り入れてみようかと思います。
参考になれば幸いです。
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