多重構造の映画を作るメリット:効果的な手法と実践ガイド
最近の映画の構成は複雑
小説をはじめ、マンガ、映画など、ストーリー系の創作物はいろいろありますが、最近、特に感じるのが「構成の複雑化」です。
二重、三重に張られた伏線や、複雑な人物関係、当然それを表現するためにはより多くの登場人物が必要になって、作品の構造が非常にややこしくなっています。
私はアマゾンプライムで映画を見ることが多いのですが、見ていて「面白い」という印象は持ちつつも、実のところ、ストーリーが良く分からなくなりつつ見ていることもあります。
集中力を使わずに見ていたり、そもそも理解力が落ちている可能性も否定は出来ませんが、多くの作品において、ストーリーの枝葉が大きくなりすぎて、どれが幹なのか分かりにくくなっているのではないかとも思えます。
これは、観客の鑑賞力が高まっていけば当然起こることです。
観客が求める様々な形の欲求に応えようと思えば、複雑な話にせざるを得ません。
中には、シンプルな構造でも興行的にしっかりと成り立っている、イーストウッド映画のような作品もありますが、これは有名なクリント・イーストウッドの監督主演作品だから見るのであって、仮に充分面白い作品に仕上がっているとしても、無名の作者・出演者の作品だった場合は、わざわざ見るリストには入りにくいでしょう。
京極夏彦「魍魎の匣」の二重構造
物語の作り手としても、実はシンプルな構造の物語で魅力を出すことは簡単ではありません。
例えば、登場人物が一人しかいない作品より、二人登場する作品の方が、シーンを考えやすいんです。
仮に技術的に拙い作家の作品の場合、シンプルな構造にしてしまうと、退屈な印象になってしまいますし、ある意味、出演者の魅力に頼り切った作りなので、突出した魅力がある出演者でない限り、観客を繋ぎとめることが出来ません。
でも、複雑な構造のストーリーを作ろうとすると、物語の設計も飛躍的に難しくなります。
私がお勧めだと思うのは、シンプルな二重構造です。
2023年9月にシリーズ最新刊「鵼の碑(ぬえのいしぶみ)」が刊行される京極夏彦氏の過去作品に「魍魎の匣」があります。
私はこの作品の中の二重構造が好きで、色々と参考にしています。
どういう二重構造かというと、事件を描く物語の途中途中で、不思議な幻想小説の章が挟まるんです。
その幻想小説がとても魅力的なんですが、実はそれも事件に深く関わるものだということが最後に分かります。
言ってみれば劇中劇の手法なんですが、大抵の劇中劇が、劇の部分部分しか見せないのに対して、「魍魎の匣」の中の劇中劇というか、小説中小説は、それだけ切り取っても作品として完結している形になっているんです。
実際、この「「魍魎の匣」の中の幻想小説だけを抜き出して短編小説として本か冊子になっていました。
この二重構造の作品は、作りを真似る価値があると考えています。
創作の順番
「物語を鑑賞する順番」と「物語を作る順番」は全く異なります。
これは、文章の形の創作物でもそうですし、映像作品でもそうです。
文章の場合、実際の執筆は冒頭からラストまで一気に書き上げるとは思いますが、少なくともその筋を考える順番は「冒頭からラストまでの順番」ではありません。
そして、全ての創作物や製造物について言えることですが、「作る順番」によって、手間が大きく異なります。
ですから順番が大事なんです。
もし、私たちが映画作品に「劇中劇」の手法を取り入れたとしましょう。
その際は、どの順番で作るのが正解でしょうか。
最終的に完成すれば、どの順番でも構わないのでしょうか。
私はこのあと説明するメリットを考えても、断然、劇中劇から作り始めるのが正解だと思います。
劇中劇を単独で完成させるのが最優先です。
劇中劇を単独で先に作るメリット
ここでは「魍魎の匣」のように、劇中劇がそれだけでも完結した体裁になっている事が前提です。
「Wの悲劇」のように、劇中劇がほんの一部分だけ登場する場合は、最終的に使用するのは一部だとしても、一応、それだけで鑑賞できる形にします。
例えば、最終的に使わないシーンはダイジェスト的な見せ方をするなどです。
まずは、この劇中劇の撮影を優先的に完了させましょう。
すると、全体の撮影がまだ進行中でも、「劇中劇」の部分の編集を進めて、短編映像を完成させることが出来ます。
すると、作品の完成はまだまだ先なのに、第一弾として、「関連短編作品の公開」というイベントが作れます。
映画作りには時間が掛かります。
特に長編作品になると、製作期間が長期にわたるので、プロデューサーと監督以外は根気が続かなくなるんです。
他の関係者はもっと根気が無いので、早々に作品を忘れてしまいます。
そんな時に「劇中劇部分」だけを作品として見られるようにすると、俄然、モチベーションが上がります。
新たな協力者を集めるためのプレゼンにもなります。
作り手としては「途中のものを見せたくない」という意識もあるでしょう。
立派なものを完成させて驚かせたい気持ちもあります。
しかし、長期の空白期間を経て完成作品で驚かせようとしても、関係者はとっくに関心が薄れているのが現実なんです。
関係も薄れていて、連絡もつかない事さえよくあります。
それを防ぐのが、この「劇中劇先行公開」です。
最終作品では、この劇中劇が作品中にバラバラに配置されて、より効果的に使われるでしょう。
その時に、「なるほど。あの劇中劇はこういう使われ方をしているのか」という別の面白さも出るんです。
もし順番を間違って、全体を完成させてから劇中劇を切り出すやり方をしてしまうと、モチベーション維持や再構成の面白さを感じさせることができません。
また、不幸にして途中で作品制作が頓挫しても、「少なくとも劇中劇部分の成果物は残る」という保険にもなります。
商業作品でも劇中劇部分を別コンテンツとして公開しているものがあります。
岩井俊二監督の「四月物語」では、主人公の松たか子が映画館で見ている時代劇「生きていた信長」の「オリジナル全長版」がDVDの特典映像として収録されています。
せっかく映画を作るのであれば、1本で何度でも楽しめるような工夫も、企画の中に盛り込んではどうでしょうか?
参考になれば幸いです。
DIY映画倶楽部のご案内
創作活動としての映画製作は最高に楽しいものです。
昔はネックだった撮影・編集環境も、現代では簡単に手に入ります。スマホをお持ちの時点で最低限の環境はすでに揃っているとも言えます。
- 趣味がない人。新しい趣味で楽しみたい人
- 自分の創作がしたい人
- 映像作品に出演して目立ちたい人、目立つ必要がある人
にとっては最適の趣味であることに間違いありません。
ただ、実際の映画製作には多くの工程があり、全てのノウハウを一人で身に付けて実践しようとすると大きな労力と長い時間が必要になります。
DIY映画倶楽部は入会費無料の映画作り同好会です。
広い意味でのストーリー映像を作るためのノウハウを共有し、必要であれば技術的な支援もしながら、あなたの創作活動をお手伝いします。
詳しくは以下の案内ページをご確認ください。