ロケハンにおける特撮視点の必要性とその活用法
撮影したままの映像を使うのは贅沢?
映画の撮影と言うと、大昔はほぼ100%撮影所のセットの中で行っていました。
カメラが進化して小さくなったころから、「アパートの部屋のシーンは実際のアパートの部屋で撮ったら安上がりじゃない?」という発想で、撮影場所が撮影所から外に移っていきます。
当時は「そんなものは映画じゃない!映画は撮影用のセットの中でしっかり撮らないと!」という声が主流だったそうです。
映画セットを使わない映画は邪道と言われたわけです。
現在では、風景などを伴う場面は野外ロケをして、時間が掛かる室内シーンは映画用のセットの中で撮影するのが一般的です。
リアリティとコストの面から丁度いい塩梅だからでしょう。
でも、私たちが作るような低予算映画は、制作費の桁が全く違います。
さらにさらに工夫を重ねないと、場面を成り立たせることができないんです。
ですから、
「黒澤明は映り込む邪魔な屋根を取り払った」
「スピルバーグは時代に合わないテレビアンテナを全部外した」
「山田洋次は足元に彼岸花を植えた」
というような、いかにも王道の映画撮影の手法は真似しようと思ってはいけないんです。
びっくりするくらいコストが跳ね上がるのに対して、観客の満足度には影響がありません。
もちろん、作り手としての願望は大切です。
絵的に納得のいく映像にしたいというところを捨ててしまっては、そもそも映画を作る楽しさが半減します。
ただ、「納得のいく映像」を「カメラから見た撮影時」ではなく「編集後の完成形」で実現させましょう、というのが私からの提案です。
それでも「撮影こそが映画の醍醐味だ。映像処理をして場面を作るのは邪道だ」という人もいるでしょう。
私は邪道で一向に構いません。
そんな邪道な視点で場面を作る前提であれば、撮影時に見えるものだけでなく、創造力を使って風景を眺める必要が出てきます。
具体的にどんな創造力を使うかというと、主に次の3つです。
- 何かを隠せば成り立つ
- 何かを追加すれば成り立つ
- 縮尺を変えると成り立つ
一つ一つ見ていきます。
【何かを隠せば成り立つ】
これは一番多いケースかもしれません。
撮影したい対象があって、自分なりに理想と思う構図で映像を考えたときに「余計なものも写ってしまう」という状態です。
例えば、寺の境内全景を見せたいときに敷地内に作業中の軽トラックが停まっているようなことはよくあります。
こんな時、「済みません。撮影に邪魔なので移動してもらえませんか?」というのはそもそも勝手な話ですし、これをやっているとキリが無いんです。
現実的な解決策として、「編集時に軽トラックを消す」という前提で撮影します。
同様に、時代劇なのに高圧線が映ってしまう、というのも消す前提で撮影します。
「写って欲しくないものを避けた構図」より「不要なものを消した構図」の方が大幅に魅力的な場合はおススメの考え方です。
【何かを追加すれば成り立つ】
前述の「彼岸花を追加する」というような場合は最も手軽です。編集時に大きさや位置、量を調整しながら簡単に追加できます。
この手法は季節感を出す事にも大いに役立ちます。
少し大掛かりにすると、普通の街なかで撮った映像に近未来的な乗り物が走り回ったりしている様子を追加することで、SF作品の舞台にすることも出来るでしょう。
【縮尺を変えると成り立つ】
これはやや特殊な場面に使う手法です。
自然が舞台になっている場合、視点を下げるとそのまま「ミニチュアの景色」として成り立つことを利用した撮り方です。
私は自然の地形がそのまま見える場面が特に好きで、自分の作品にもよく登場させるので、この手法をよく利用します。
少し詳しく解説してみます。
足元の景色をミニチュアのオープンセットに見立てて撮影場所を探す
考え方の基本はミニチュア撮影です。
通常はミニチュアセットを作って撮影するような場面を、足元に存在する天然の地形をそのままミニチュアセットに見立てて撮影してしまうということです。
これが最も効果的なのは「岩場の場面」です。
岩は、スケール感が最も麻痺しやすい外観だからです。
「例えば高さ10メートルの崖」という設定の場面が欲しいとします。
これを、天然のミニチュアセットから探すと実際の高さは1メートルもあれば十分なので、海岸などに行けば選択肢がたくさん見つかるんです。
ミニチュアセットを大きく見せる基本ですが、カメラの位置は低くします。地面に置くような高さから撮ることで見ている人のスケール感を狂わせることができます。
ここで注意べきことは、スケール感を出してしまうものが映り込まないことです。
主なものは、草や木の葉です。
せっかく10メートルの崖に見える構図で撮影しても、下に木の葉があると、「実際は1メートルくらいだな」と無意識に判断できてしまいます。
撮影時に簡単に取り除けるようであれば取り除き、取り除けない場合は【何かを隠せば成り立つ】で紹介したように、編集時に消してしまう手法を組み合わせます。
以上のような邪道な手法を何故使うかというと、コストは掛けられなくても、あくまでも創作者としての「イメージ」をできるだけ忠実に再現した場面を作品に反映させたいからです。
実際、こういう工夫を凝らせばそれなりに「なかなか凝ってるなあ」という作品になることは保証できます。
参考になれば幸いです。
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