合成前提の映像設計とは?・山崎貴監督から見習う点と真似してはいけない点
グリーンバック映像の特性を認識して効果的に応用する
2023年は山崎貴監督作品「ゴジラ -1.0」が大ヒットしました。
山崎貴は日本映画では数少ないヒットメーカーと言えますが、アンチが多いことでも知られています。
ジョージ・ルーカスが若い頃「技術小僧」呼ばわりされて、映画監督・製作者として軽く扱われていたのに似て、先端技術を応用した映像づくりを前面に出すと、保守的な映画ファンからは反感を買うのかもしれません。
私は「リターナー」もビデオでは見ていましたが、「三丁目の夕日」を劇場で観てその圧倒的な物語の構成力と映像が作り出す世界観、ベタな演出の魅力に感服しました。
映画マニアの一部は映画をたくさん見過ぎていて、オーソドックスな構造の作品にとっくに飽きてしまっているので、特に「ベタ作品」を貶す風潮があります。
映画解説者・淀川長治ですら山田洋次監督作品について「あれほどの実力があるのだから、悲しいセリフを言っている時に雨が降ってきて、悲しい曲が掛かる、というような演出はもう卒業すればいいのに」とピント外れな事を言っていました。
これは映画を見過ぎた人の特殊な感覚なんです。
珍味にしか感動出来なくなっていて、普通の定食の美味しさを喜ぶ私のような一般映画ファンをあからさまに見下す人もいます。
最近は聞かなくなりましたが、
- バックトゥザフューチャーなんかを好きな人に、映画ファンと言って欲しくない
- 自分たちはキューブリックくらいじゃないと満足できないよね
などと語り合っている「痛い映画マニア」がよくいました。
一般客が喜ぶ「ベタ作品」は映画界の土台として量産されるべき種類の映画だと私は考えます。
この種類の映画が充分に存在しないと、業界が存続出来なくなって、珍味を楽しむ余裕も当然、無くなっていくからです。
そういう意味でも山崎映画ファンを公言していくつもりです。
「ゴジラ -1.0」は山崎貴監督が得意な、エンタメ的ストーリー構成と、トップレベルのCG技術の応用を前提とした「撮影の工夫」が凝縮された作品です。
中でも特筆すべきは、グリーンバック撮影と編集の多さ・巧みさでしょう。
昔の映画は巨大なスタジオ建屋の中に大掛かりなセットを作り込んで、大量の照明を使って撮影されることが王道でした。
ところが多くの山崎作品では、オフシーズンの海水浴場・駐車場など、何の変哲もない「空き地」にグリーンバックを設置して、太陽光を使って撮影し、ミニチュアやCG映像を合成する手法が多用されます。
グリーンバック撮影時の最大のポイントは、グリーン部分にムラなく光を当てる事なので、実は野外で太陽光を使うのはとても有効なんですね。
そんなメイキングの様子は、公式のYouTube動画が公開されています。
今後、
- グリーンバックの前で撮影した俳優の映像
- 背景
を合成した映像で映画を作る手法は、大きな流れの一つになるでしょう。
その中で、山崎貴監督とそのスタッフたちは第一人者となるはずですが、山崎監督の出演したあるYouTubeの対談映像の中で興味ぶかい話がありました。
「良い合成」と「悪い合成」の違いは「足元の処理」にあるという内容です。
「悪い合成は足元の合成が甘くて不自然になっていたり、足元を隠して見えないようにしている」
「足元をきちんと処理することでレベルの高さを際立たせられる」
ということです。
私は短編の実験作品「暗黒魔獣ワニガメイーター」というB級モンスタームービーで初めて全編グリーンバックの作品を作ったのですが、まさに実感したのがこの、足元の合成の難しさでした。
地面と靴の接地面が接地しているように見えず、どうしても「合成映像」に見えてしまうんです。
影を追加したり、色々と工夫してみましたが、「ごまかし」以上の解決策は見つけられませんでした。
そこで次の実験作「精霊と河童の森」では可能な限り、靴と地面との接地面を画面に入れないことを意識しました。
それ以降、映画やドラマで
- 靴と地面の接地面が映っているか?
- 接地面を画面から切ったら不自然か?
を意識して見るようになりました。
結果、
- 思いのほか接地面は映っていないこと
- 接地面が画面から切れていても不自然に感じないこと
が分かりました。
私の作品で接地面が映っている事が多かったのは、自分で絵コンテを描くときの癖によることが多いようです。
その癖の原因は恐らく、古いレイ・ハリーハウゼン映画やブルース・リーの香港映画から来ていると思われます。
足元の映像処理が難しいことがハッキリしているのですから、私は自分の技術レベルに合わせて、あえて「特別必要がない限り足と地面の接地面は映さない」というルールを取り入れようと思います。
山崎監督によれば「悪い映画」ということになりますが、高い技術を持たずに一定レベルのエンタメ作品作りを目指す私たちにはその選択もあると思います。。
合成映像特有の構図
私は前述の実験作で紹介した通り、全編にわたって出演者と背景を別々に撮影して合成した映像で構成した作品をメインに制作しています。
単なるグリーンバック映像ではなく、出演者が決まる前に人形を使って仮映像を完成させてしまい、後に出演者と人形の映像を差し替えて最終版を作るやり方を「升田式スーパープリヴィズ法」として確立して、超短期間に作品を量産することを目論んでいます。
この「升田式スーパープリヴィズ法」を前提とすると、特に絵コンテに一部、独特のルールというか制約が生じます。
その一つは前述の「地面との接地面を見せない」ということですが、その他にも
- カメラワークを避ける
- カメラに角度を付けない
という制約をもうけた上で絵コンテを作成します。
もちろん、この制約が窮屈に感じる人もいると思います。
「自由に作ってこその自主映画でしょ?」
と思うのももっともです。
ただ、この制約の中で作ることで逆に「広がる可能性の大きさ」に私は気付いてしまいました。
従来であれば
- 撮影の許可が下りない
- 撮影にお金が掛かる
ということで諦めていた場面を含め、基本的にはどんなシーンでも実現の可能性が出てくるんです。
そのため、自分で作るMVG作品、そのスタッフ養成の意味合いもある「DIY映画倶楽部」では、映像合成前提の映画作りを中心に情報共有していくつもりです。
参考になれば幸いです。
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