自主映画制作の新たな道:グリーンバック撮影の魅力と実践的なコツ
トリック無しの撮影は高くつく
昔ながらのシンプルな映画の撮り方は実は贅沢です。
それは、カメラの前に理想的な状況を再現して、あとはそれを撮れば「映像素材完成」となるやり方です。
背景に「焼け落ちる城」が映っていれば、そこに城のセットを建築して、本番で火を放ち手前で演技をしているところを撮影する。
絶景ポイントで夕焼けが出るのを待って撮影する。
イベントとしては大変に魅力的であることは確かです。
そんな昔の撮影エピソードを読んだり聞いたりするのは私も大好きです。
ただ、創作者としての私は、それと真逆な手法を実践します。
それは、昔の手法で自分の創作物を作ろうとするとあまりに高くついて実現不可能なことが多いから。
同じ手法のまま実現可能なレベルにするにはスケールを縮小することになりますが、そうするとあまりにもこじんまりと(貧乏くさく)なってしまって、「わざわざエネルギーを使って作る価値があるかなあ?」と思ってしまいます。
私たちが作るような自主映画、DIY映画の魅力は自由な大風呂敷を拡げられること。
アパートの一室の話でも、宇宙ステーションの話でも、ほとんど同じ規模のプロジェクトとして作品を作れる。
そこで非常に大きな武器になるのが「映像合成の応用」だと思います。
その中でも、人物を映像に合成するときに重宝するのが「グリーンバック撮影」です。
映画がフィルムで撮影され、写真の現像技術を応用して合成されていた時代から、グリーンバック(またはブルーバック)撮影は存在していますが、撮影した映像を処理能力が高いパソコンで編集できるようになった現在、グリーンバック撮影を使った映像合成はとても精度が高くなっています。
仕組みはともかく、グリーンバック撮影をして何が出来るかというと、編集時にパソコンで「この色を透明にしなさい」という指示を出すと、指定した色が透明になり、あらかじめ用意しておいた背景映像が透けて見えるようになります。
そうすると、被写体である人物があたかも背景が撮られた場所にいるような合成映像が作れるというものです。
実は撮影時の背景をグリーンやブルーにしていますが、その「色」自体に意味はありません。
赤でも黄色でも、編集時にパソコンで「この色を透明にしなさい」という指示を出せば透明にはなります。
ただし、「この色」と赤を指定しても、実際に撮影された赤い背景は、「明るい赤」から「暗い赤」までさまざまな色に映っていて、けっして1色ではないんです。
パソコン操作で透明にする「赤」の範囲をある程度広げることで、赤い背景を完全に透明にする訳ですが、赤の範囲を広げると、人体の肌に含まれる赤味のある部分も、透明にする対象として認識されてしまうという問題が起きます。
すると、合成映像では、人の肌の一部が透明になって背景が透けてしまうというおかしな失敗映像になってしまうんです。
背景をグリーンやブルーにすると、パソコンでの編集時に透明にするグリーンやブルーの範囲を広げても、通常の人の肌の色には比較的影響が少ないので都合がいいというだけです。
「照明が大事」なのは分かっているが
グリーンバック撮影のやり方の解説はあまり多く出回っていません。
ただ、例外なく言われるのが「しっかりとした照明がポイント」ということです。
全ての映像撮影において、光が最重要の要素であることは確かです。
光が当たることによって出来る「影」を「撮」っているのが「撮影」なわけです。
商業映画の撮影において、圧倒的に時間が掛かるのが実は「照明の準備」です。
10秒の映像を撮って、次のカットのための照明セットで30分待ち、なんてことはザラにあります。
そして、グリーンバック撮影にはそれらの照明とは別の技術が必要です。
それは、被写体に影響しないように、背景のグリーン部分がフラットな色に見えるように光を当てることです。
やってみれば分かりますが、グリーン単色の布を使っても室内撮影すると、布の部分によって驚くほど色が違って映ります。
ライトが強く当たっているところは白っぽいグリーン、ライトから遠いところは黒っぽいグリーン。
被写体の影が落ちてしまったりすると、影はほとんど黒に映ります。
編集時に「グリーンを透明にしなさい」とパソコンに指示をしても、「グリーン」の範囲が広いと被写体だけを綺麗に浮かび上がらせることは出来ない事になります。
そうならないために「しっかりとした照明」を推奨されるわけです。
具体的には照明の数がたくさん必要になります。
通常、被写体には最低2つのライトで光を当てることで狙った印象を作ります。
グリーンバック撮影では、それとは無関係に、とにかく背景全体が一定の色に見えるように、別のライトで光を当てます。
一定の色に見えるかどうかは肉眼だけではなかなか判断できません。
例えば、カメラの設定のうち、絞りの値を変えて少しずつ画面を暗くしていくことで、背景が均等に暗くなるかどうかを見て確認したりします。
理想的な照明なら、全体がムラなく暗くなっていきますが、光が偏っていると、背景の上部はまだ見えているのに、背景下部は真っ暗で何も見えないという状態になったりします。
それを見ながら、少し下の方に光を分けるように変更を繰り返すことになるでしょう。
できれば、人物は出来るだけ背景から離れて撮影することで、人物に当てた照明の影響を背景に出さずに済みます。
ただ、人物とカメラも一定の距離を保たないと撮影できないので、最低でも5~6メートルの撮影スペースが必要になります。(全身を撮る場合)
スペースが狭い場合はなかなか理想的な照明の設置は難しくなります。
下手な照明を当てるより照明無しの方が大失敗が少ない事実
照明は被写体を明るくするものですが、照明を当てると影も出ます。
被写体を綺麗に映そうと思って知識や技術が無い状態で照明で照らすと、単に不自然な影が発生するだけだったりします。
これはかなり見苦しい失敗映像になります。
グリーンバックに濃い影が落ちると、映像合成も失敗します。
映像作品において照明は確かに重要ですが、下手にライトを使うくらいなら、ライトを使わない方がずっとマシ、という悲しい事実があります。
もちろん、上手く照明を使った映像が100点だとしたら、照明を使わない映像は70点にしかならないかもしれません。
でも、下手な照明を使うと40点くらいまで映像の質は落ちてしまうんです。
専門家でなくても「なんか変な照明だな」と感じて興ざめするからです。
そうであれば、思い切って撮影用の照明を使わずに、室内の天井にある光を有効に使うことを意識して撮影することも選択肢としてあり得ます。
これは昔のフィルム撮影の時代には出来なかった撮影です。
デメリットは、
- 光によって被写体に効果的な演出が付けられない
- 背景の方が暗くなる(編集がやや困難)
というものがあります。
でも、メリットもあります。
- 設置が楽で撮影自体が早く進む
このメリットは低予算映画においてとても大きな魅力です。
次善策として、
- 被写体には照明を当てない
- グリーンバックの下半分にだけうっすらと照明を当てる
というのが最も簡易な現実的方法だと思います。
少なくとも上半身や顔のアップの映像については、それほど不自然にはならない合成映像が作れます。
私は以前、実験作として、照明を使わずに全編グリーンバック撮影をした作品を作ってみました。
その結果を踏まえて、自分の作品はほぼ全て、「全編合成映像で作る」という選択をしているわけです。
参考になれば幸いです。
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