ミニチュアが広げる映像世界:低予算映画に活用すべきその魅力
私が低予算映画でミニチュアセットを多用する理由
世の中には鑑賞しきれないほどのコンテンツが溢れています。
私も、本棚にはまだ読んでいない本が何冊も並んでいますし、アマゾンプライムビデオのウォッチリストに溜まっていてまだ観ていない映画も常にたくさん残っています。
そんな中、どうしてわざわざ自分でも映像コンテンツを作るかと言えば、もちろん創作自体が楽しい事も理由ですが「こんな作品が観たい」という自分の趣味や興味とドンピシャの作品がそれほど存在していない、ということがあります。
無いのであれば自分で作ろうというシンプルな発想です。
そしてその中で現れる、撮影上の制約の多くが、私の場合、ミニチュアを多用することで克服できるので、積極的にミニチュアを使っているということです。
ミニチュアの楽しさは強制的な視点の変化
いつも不思議に思うことがあります。
これだけ価値観が多様化している中、かなりの比率の人たちがミニチュアを好きという現実があります。
私はよく書店で雑誌のコーナーを一回りして、ジャンルごとの面積を比べています。
大きな面積を取っているジャンルは需要が多いと考えられます。
その時にミニチュア関連の表紙は明らかに多いことに気付きます。
- 模型関連
- 手芸関連
- 園芸関連
は特にミニチュアと親和性が高いと言えそうです。
プラモデルなどの模型は言うまでもなくミニチュアですが、特に手芸のジャンルにおけるミニチュア工作の多彩さは異常なまでです。
わざわざコンビニの幕の内弁当のミニチュアを作る動機は説明しづらい筈ですが、確かに完成品には見入ってしまう魅力があるんです。
実物が身近にあるにもかかわらずです。
この謎の魅力はどこから来るのかと考えると、理屈抜きに視点の変化を体験できることがポイントではないでしょうか。
芥川龍之介の「河童」の世界では目に見えない「道徳」や「常識」が異なる世界の面白さを描いていましたが、小説のように文章で表現しなくても、目の前にミニチュアを見せるだけで、
- 自分が大きくなったような感覚
- 自分が小さくなってその世界に入り込む想像
が自動的に発動されてしまうのではないでしょうか?
この「視点の変化」には非日常の楽しさがあります。
「おもちゃの世界の住人」になる楽しさ
100円均一ショップや食玩のジャンルでも、異常なまでによく出来たミニチュアグッズが売られている事は、ご存じの方も多いでしょう。
この「謎のミニチュア嗜好」は本能的なものか、幼児体験から来ているのではないでしょうか?
子供の遊びのうち大きな比率を占めているのは、自分たちで想像したミニチュアの世界で、その住人となっている想定で行動そのものをシミュレーションして楽しんでいるというものです。
ミニカーを使ったり、家の模型を使ったり、砂場でトンネルを作ったりするのも、その一環です。
ミニチュアならではの多彩な世界観を味わう
- 「趣味がない」
- 「楽しいことが思いつかない」
という社会人は意外と多くいるそうです。
これは精神衛生上良くないので、楽しめることはあった方がいいと思うんですが、手っ取り早いのは子供の頃の遊びを思い出すことです。
子供は楽しむ天才です。
そして意外なことに、子供の遊びは大人がやってみても「面白い要素」があるんです。
「ごっこ遊び」の延長は「演劇」だし、「粘土遊び」の延長は「陶芸」。
「お絵描き」はそのまま「絵画」。「スポーツ」も同様です。
私にとって「映画作り」は「工作」の延長なんです。
工作模型を「作って終わり」にせずに「映像作品」として残そうとすれば、ストーリーがあった方がいい。
どうせなら面白い方が良い。
ストーリーを表現するなら芝居の要素も必要だ、という発想が元になっています。
工作の大半は「ミニチュア模型」ですから、「本能的に刷り込まれたミニチュアの楽しさ」を作品の中に最初から持っている事になります。
これはとても有利なんです。
そして、ミニチュア模型を多用する最大のメリットは、自由な発想を形にしやすい点です。
ありていに言えば、大したお金を掛けなくてもイメージに近い場面を再現できるということです。
理想的な場所を探して、何十万円も掛けてみんなでそこへ行って撮影するのも楽しいでしょうが、コストは深刻な問題です。
そもそも「理想的な場所」はほぼ存在しません。
- 建物の雰囲気はいいけどエアコンとかサッシが近代的で興ざめだな
- 窓から海が見えればなあ
など、必ず不満点は出てきます。
そしてもっと残念なことに、私たちアマチュアは、素晴らしいロケ地の魅力を十分に表現できるほどの技術が無いんです。
せっかく大金を使って遠方の地で撮影しても、割に合わないことが多い。
それに対して、ミニチュアセットを作って映像合成で場面を作る手法を使うと、「こういう状況を設定したい」という形は自由に決められます。
これは、創作にとってはとても大きな魅力と言えます。
多用な技術で錯覚を生み出す面白さを味わう
もちろん、マイナス面もたくさんあります。
役者の満足度は概ね低いでしょう。
撮影に付随した旅行感覚は楽しめませんし、リアルな場の中で演じる楽しさは、合成用のグリーンバックの前では味わえません。
合成技術の良し悪しも作品の質に直接影響します。
作り手は「ミニチュアが良いでしょう?」ではなくて、全力でミニチュアの合成映像であることを隠して観客を騙すことにエネルギーを費やす必要があります。
自分が観客の立場で作品を観る場合、たとえその場面が合成映像だと分かっても「必死になってリアルに見せよう」と頑張っている作品は好ましく感じるんです。
「このチャチなところが面白いでしょ?」という種類の特撮映画はごく一部のマニアには受けるでしょうが「創作物を馬鹿にして楽しむ」という楽しみ方は私は全然好きではありません。
私が「映画が痛快」だと思うのは、撮影現場の大嘘が完成作品だと「それらしく」見える点です。
手品を見せて観客を驚かす楽しさが、特撮を多用した映画にはあります。
そして、フルCGには出せない魅力が、ミニチュア合成にはあることが、段々と理解されてきたように思います。
アカデミー賞を受賞した「ゴジラ-1.0」もCG技術が評価されがちですが、山崎貴監督は「三丁目の夕日」からずっと、実はミニチュアセットを上手く活用してるんです。
今回のゴジラも、ミニチュアゴジラの模型を作って、そのデータをスキャンして活用することで、通常では考えられない軽さのデータで独特の深みのある皮膚表現をしていることが、アメリカの技術者を驚かせたそうです。
CG映像ももちろん素晴らしいのですが、フルCG映像に勝るとも劣らない、アナログ的なミニチュア活用映像で、独特の新世界を目指しませんか?
私の自作ミニチュア工作の様子も、下記ページで随時公開しています。
参考になれば幸いです。
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