撮影用クリーチャーの造型素材を考える

工作系映画の華:モンスターを作る

今回は撮影用のクリーチャー造形の工作についての話です。
ここで言う「クリーチャー」というのは、映画に登場する異形の生物と思ってください。
恐竜も怪物も含めて考えます。

私は、特撮こそが映像作品ならではの楽しさを多く含んでいるストーリー創作だと思っています。
目の前に実物大の物体を用意して全体像を見せてしまう舞台演劇などと違って、映像作品には「画面」が存在します。
画面の中だけ異世界・異空間を再現すれば成り立つところが、映画の面白いところです。
例えば、「宇宙船の中で凶悪なエイリアンが追ってくる」という場面も、画面にエイリアンの上半身しか映らないのであれば、足は動きやすいスニーカーを履いていた方が俊敏な動作を表現できるメリットがあります。
撮影現場は滑稽な風景になりますが、そのギャップもまた、映画作りの強烈な面白さだと、私は思っています。

さらに映像の特徴を活かすと、縮尺を変えた「ミニチュア」が使えるという大きなメリットがあります。

ミニチュアと言うと、巨大な怪獣が建物を壊すシーンのためのものと思われがちですが、基本的には「制約」の中でイメージにできるだけ近い映像を作るための手法です。
私は自分のイメージに近い室内シーンを再現するため、ごく普通のシーンでも室内のミニチュアセットを作って、人物を合成する手法を多用します。

当然、クリーチャーもミニチュアを利用して撮影が可能です。

ミニチュアクリーチャーを駆使した特撮映画の最初の成功例は「キング・コング(1933)」と言われています。
巨大なゴリラと恐竜が登場して、縦横無尽に暴れまわり、その後の様々な映画に影響を与えた魅力的な映画です。
この作品では、ほとんどのクリーチャーをミニチュアで作り、それをミニチュアセットの中で1コマ1コマ、少しずつ動かしながら撮影する「ストップモーション」という技術が使われました。

その模型の作り方はシンプルで、金属製の関節がある骨組みに、ウレタンや布など柔らかい素材で肉付けし、表面にゴムを塗って皮膚を表現しています。(コングは体表に毛皮を貼っています)

80年代以降は、粘土で作った原型の石膏型を取り、その中に金属の骨組みをセットして、間に発泡させた液体状のウレタンを流し込んで、ケーキのように焼いて仕上げる、という作り方が主流になります。

工作の実際・私の場合

私も長いこと、この石膏型を使った工作を目指してきましたが、最近は石膏型を使わない、より実践的な手法に落ち着きつつあります。
キング・コング時代のやり方同様、骨組みに肉付けをして体表を手作業で造型するというものです。
石膏型を用意するのは手間もかかり、工作の失敗もしやすくなります。
そして型の大きなメリットである複製が、実際の作業ではほとんど不要という現実があります。
撮影に使うのは大抵、「一点物」で、同じ形のものをたくさん使うわけではないからです。

撮影用でない場合、彫刻などの工作には、基本的には硬くなる材料を使うものです。
硬化するタイプの粘土で造型して、乾燥後に削ったりして整えていくのが一般的です。
これが最も細かな造型の作り込みが出来ます。

一方、撮影用のクリーチャーは動くことが前提ですから、ゴムなどの柔らかい素材を使う必要があります。
これは、粘土のように細かい造型をしにくいものなので、どうしても造型レベルとしては妥協を余儀なくされます。

そこで、頭部や背中など、動きが不要な部分は造型がしやすい素材を使って見映えのする細工を施すことで注目させ、動きのある部分はあくまで「動き」という見映えを担当させるというメリハリを付ける工夫が有効になります。

また、表面の表現に凝ろうとすると、ゴムの塗り込みがどうしても多くなります。
ゴムの塗り込みが多くなればなるほど、皮膚の柔軟性は無くなり、全体の動きが悪くなります。
動きが必要な部分の造型は、出来るだけ少なくするのがコツです。

私が工作する場合は、骨組みにウレタンなどで肉付けをしてシルエットを整えた後、表面に小さく切った布を当てて、糸で縫い繋げていきます。
布は肌着など柔らかいものが向いていると思います。
布を小さく切る理由は、なるべくシルエットに即した状態でツギハギするためです。
この時、接着剤を使わない事が、少しでも柔らかさを保つコツになります。

布の組み合わせ方にもコツがあって、ぬいぐるみのように無駄なくきれいなツギハギにしてしまうと、体を動かそうとしたときにあちこちが突っ張ってしまって上手く動きません。
体に必要な動きを加えた状態を想定して、皮膚を伸ばした側に必要な面積を考えながら布をツギハギしていきます。
布を縫い付けた後、可動部分を動かしてみて、皮膚が突っ張ってしまう場合は、修正を加えます。
突っ張る箇所の布に切り込みを加えて、充分な可動範囲を確保した状態で、別の布を足す形で縫い付けます。

必然的に動きを加えたときに皮膚に皺が発生することになります。
工夫すべきは、このシワをいかに自然に見せるかということです。
犬や猫は毛が長いので良く分かりませんが、象やサイなどを観察すると、皮膚自体の伸びはほとんど無くて、分厚くて硬い皮膚に上手くシワを入れることで、スムーズに体を動かしていることが分かります。
これらを参考に、シワ自体をデザインしながら布を縫い付けます。

体の表面を布で覆ったら、布にゴム製の樹脂を塗り付けていきます。
映画のクリーチャー造形で良く使われる液体ゴム・ラテックスはお勧めしません。
使い勝手はともかく、ラテックスは天然ゴムなので劣化するんです。
特に湿気を吸うと溶けてべとべとになり、収拾が付かなくなります。

私は色々と試した結果、ホームセンターなどで売られている、水性のアクリル充填剤に辿り着きました。
チューブから絞り出して、少量の水で溶くことで布にも塗りやすくなります。
それ自体はベトベトとしたペースト状なので、決して造型がしやすい訳ではありませんが、片栗粉を振りかけてからヘラで押さえるなどの工夫をすれば、ある程度のモールドは付けられます。

最初に布全体に薄く塗り込むことで布の目や糸の縫い目を隠します。
次に、皺を活かしながら、皮膚表面のモールドを付けていきます。
恐竜などの場合は鱗の模様などを付けることでリアリティが出ます。

乾燥後の塗装はアクリル絵の具が適しています。
絵の具が乾いても弾力性があるからです。

撮影用の「動くクリーチャー」は、飾り物の模型と違って、耐久性は低いものとして割り切ります。
動かしているうちに樹脂にひびが入ってはがれたりすることは覚悟の上で、作って、撮影に使用するものと思ってください。
一番良い状態で撮影できれば、その作品の中で、いつまでも生き生きと暴れまわります。

クリーチャー模型に限らず、撮影用の模型は「映像化されて完成」という意識を持つ事が大切です。
そう意識することによって、実現させる項目の優先度が変わってくることが分かると思います。

参考になれば幸いです。

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