物語創作を映像ジャンルから始めるメリット:脳の機能を利用した創作方法

映像製作コストが高かった時代の古い作業順序に縛られるな

映画をはじめとする映像作品を作る「手順」というのは古くから確立されています。

多くの物事と同じように、長い時間を掛けて作られた「手順」には意味のあることも多いんですが、技術の進歩によって変えた方が良いこともあります。

 

例えば、映像作品を作る際、従来のやり方では、下準備としての資料をガチガチに作り込んでから「撮影」するのが一般的です。

撮影の前に入念な準備が必要なのは当然なんですが、そもそも準備をしっかりしてから撮影する理由は、撮影素材を無駄にしないためです。

計画が不十分な状態で撮影すると、後から辻褄が合わなくなったりして、撮り直さなければいけなくなります。

すると、最初に撮った映像が無駄になるので、無駄なコストが発生することになるわけです。

昔は映画の撮影にはフィルムを使ってましたから、撮影した映像は出来るだけ無駄にしないように心掛けなければいけませんでした。

フィルムがとても高価だったので、1秒でも無駄にしないように、カチンコを鳴らす映像を撮影するときも、必要最低限の一瞬だけ映した後、素早くカメラの前からカチンコを引き抜く訓練をするような滑稽な技術が必要だったりしました。

 

ましてや、検討が不十分だったために撮り直すというのは、時間もフィルムも大量に無駄にします。

それを防ぐためには、必要最低限の映像内容を決定しなければならず、下準備と検討が不可欠だったんです。

 

しかし、現在、大きく事情が異なる点があります。

映像メディアが「フィルム」「ビデオテープ」を通り過ぎてSDカードなどに記録するデジタルデータになった現在、映像自体のコストは限りなくゼロに近くなりました。

そうすると、文章を中心とした資料を作って「必要最低限の映像内容」を正確に決めてから撮影することが、必ずしも効率の良い手順でない場合も出てくるんです。

 

例を挙げると、作業手順などを示す「動画マニュアル」。

昔であれば、まず紙のマニュアルを作り込んでから、その内容に沿って撮影して動画マニュアルを作るのが一般的でした。

でも、今は全く逆の手順が正しい手順と言えます。

つまり、まず最初に作業のやり方を丸ごと動画で撮影してしまい、適切に編集して「動画マニュアル」を完成させてしまいます。

昔であれば必ず発生した「実際に作業をしながら内容を伝える文章を考え、必要な写真を撮影して紙マニュアルを作る」という工程を飛ばして、いきなり分かりやすい動画マニュアルが出来ます。

 

最初の動画撮影自体はぶっつけ本番になるので、ベストな角度から撮影ができるとは限らず、「より見やすい角度から撮り直す」という追加作業が発生しがちですが、映像自体はタダですから、1度目の撮影の反省を踏まえてやり直しをしても、さほど無駄なコストが掛かることにはならないんです。

 

ちなみにその後、補足資料として紙のマニュアルを作る際も、動画マニュアルの内容をそのまま落とし込めばいいので、その作業に精通していない人でも何の問題もなく作成できます。

これも以前より格段に低コストです。

 

映画の制作においても、似ている面があって、内容によっては事前の準備をせずに「まず撮影する」ことが有効な事もあります。

メモ的素描としての映像

もちろん、作品の内容が全く白紙では難しいとは思いますが、特に天候や季節は変化しますから、「絵になる風景」などは撮れるときに先に撮っておくことをお勧めします。

フィルム代が掛からないので身軽に、しかし、撮影に組み込める状態で数秒間の安定した映像になるように撮影しておくわけです。

 

映像は小説やマンガと違って、ある意味で専門技術無しに形に出来る特徴があります。

小説としての整合性が取れていて味わいのある文章を書く技術も要らなければ、マンガとして成り立たせるためのデッサン力や線画の技術も要りません。

いくつかのコツを心掛けながら、丁寧に撮影した映像素材を編集で繋げれば、作品として成り立たせることは可能です。

つまり、0から1の階段を登りやすいのが「映像作品」と言えるんです。

 

例えば、ラフな構成だけ考えて、必要となりそうな映像を撮影し、ナレーションやモノローグと組み合わせたシンプルな作品を作ることも出来ます。

映画の教科書的には、セリフで内容を説明するのはNGですが、あえてこんな形で形にするところから始める手法もあり得ます。

ポイントは、形にしてからどんどん修正を加えていくことです。

 

「ナレーションで説明しているこの部分を、ナレーションを使わずに映像で表現するにはどうしたらいいだろう?」という具合に、少しずつ改善していくわけです。

脳が持つ思考の癖を利用する

脳には色々な「癖」があると言われています。

例えば、疑問文の形で言葉を思い浮かべると、脳は無意識にその答えを探そうとするそうです。

普段の生活の中でも、その答えのヒントになることを多く目に止めるようになるのはこの働きによるものです。

脳に得意な機能には「穴埋め」もあります。

穴埋め状態になった問題に対しては、これもほとんど無意識レベルで、正しく埋まる答えを探そうとするんです。

こういう思考の癖を利用しない手はありません。

 

物語創作はある意味、「辻褄合わせのゲーム」です。

私たちアマチュアが考えた物語は、具体的に形にしていくと、次々と「辻褄が合わない事」が出てきます。

そのたびに根本的な構造の変更を検討していては、いつまでたっても作品は完成しません。

ある程度形にしてからは、辻褄が合わない部分に対して、「辻褄が合わない理由は何かが抜けているからだ」という具合に「穴埋めの問題」として捉えます。

そうすると、「その穴に何を入れれば辻褄が合うのか?」という「問い」が明らかになるので、解決策が考えやすいんです。

 

それまでの場面は撮りやすいもので構成できますが、辻褄合わせのための映像は、いくつもの条件を兼ね備えた内容でなければいけなくなりがちです。

つまり、作り手にとっては「都合のいい映像」です。

 

ところが、そんな都合のいい映像はそうそう撮れるものではありません。

まず、実際に条件が合う撮影場所が見つからないものです。

そんな時は映像合成などを駆使した特撮映像の活用も選択肢に入れてください。

そうやって辻褄合わせの穴埋めを繰り返しながら修正を重ねることで、作品は完成に近付きます。

 

物語映像創作の基本は、もちろん

  • あらすじを考え
  • 場面の詳細を作り込み
  • 具体的な映像を設計し
  • 撮影
  • 編集

という手順で進めますが、「具体的な映像設計」の部分をラフにすることで、映像創作は他にはない手軽さでストーリー作品を完成させられる側面も持っているんです。

まずは短期間で人に見せられる「映画」という形での作品を完成させてから、詳細を作り込んで小説化する、という、従来とは逆の順番での創作も有効だと思われます。

参考になれば幸いです。

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