低予算映画におけるグリーンバック撮影・クロマキー合成の実際

グリーンなら消えるという幻想を捨てる

私は常々、特撮の手法を応用することで、イメージを優先した映像を安上がりに作ることを推奨しています。
その究極のスタイルが「升田式スーパープリヴィズ法」ですが、その基本になるグリーンバック撮影とクロマキー合成だけでも知っておいて損はありません。

恐らくこの合成手法はある程度ご存じの方が多いと思われるので、ごく簡単に解説すると、人物をグリーンのシートの前で撮影すると、編集処理で背景の入れ替えが出来るというものです。
編集ソフトの性能向上によって、かなり簡単に合成が出来るようにはなったので、ちょっとした遊びのレベルであれば、スマホアプリで合成映像が作れます。

ただ、もう少しシリアスな作品の中で、ある程度のリアリティを持って映像を合成させようとすると、ワンタップ・ワンクリックでスッキリ合成完了とはなかなか行きません。

  • 背景にグリーンシートのノイズが残ってしまう
  • 背景だけでなく人物映像の一部が消えかかってしまう

という不具合の調整が不可欠になります。

この原因はシンプルで、合成時に消えるべきグリーンバックの色にムラが生じているからです。
「映像を合成する」ということはこの場合、グリーンの部分を透明に消すことで、その後ろに用意しておいた背景映像が透けて見えるようにすることです。
PCやスマホを使ったクロマキー合成は、「この色を透明にしろ」という指示をすることで、それが簡単に実現します。
但し、「この色」というのは「シートの元々の色」ではなくて、「画面上に見えている色」です。
画面の中の「緑色100%」の部分を指定して「ここを透明にしろ」という指示を出しても、グリーンバックシートが光の加減で「黒い影」に見える部分はもちろん、「暗い緑色」に見える部分も「白っぽい緑色」も「透明にすべき緑色」とは認識されないんです。
結果、グリーンバックシートの色ムラの部分は合成時に消えてくれず、ノイズとして残ってしまいます。
このノイズを消すために、透明にしたい「この色」の範囲を広げると、その加減によっては、消えて欲しくない人物の一部が消えてしまうので作業者の頭を悩ませます。

「照明が重要」とは言うけれど

今はネットに様々な情報が溢れているので、グリーンバック撮影・クロマキー合成の情報もあるのですが、具体的・現実的なコツはあまり見つかりません。
良くあるのは「グリーンの背景にムラが出ないような照明の設定が重要です」というもので、これはもちろん正論です。
カメラから見てグリーンの背景が一定の色で映っている事は理想で、それが実現できれば「この色を透明にしろ」という指示でスカッと全部のグリーンが消えて背景がきれいに合成できるようになります。

ただ、実際にはこの「照明設置」が難しいんです。
通常、主な照明は被写体である人物に当てます。そして、被写体とのバランスを取りつつ部屋全体に当てます。
グリーンバック撮影時、グリーンバックと人物の間を2~3メートル以上空けた状態で撮影できるのであれば問題が無いのですが、狭い室内の場合は、被写体に照明を当てるとその影がグリーンバックに落ちてしまいます。つまり、照明によってわざわざグリーンバックにムラを作ってしまうことになるんです。
そのため、被写体への照明を設置後、その影を消すための照明をグリーンバックに当てる必要が出てきます。
この時点で照明用のライトが最低4つは必要になってます。
照明を使った撮影をしたことがある方は分かると思いますが、照明の設置は撮影の中で一番くらいに難しい技術を要します。下手な照明の使い方をすると不自然さだけが際立ち、「むしろライトを使わない方がマシ」という状態になります。
「ライトを買い揃えたから解決」ということには全然ならないんです。
何を隠そう私も、色々と過去に試した結果、ほとんどの撮影には照明は使わないという選択をしています。

照明を使うと第一に影響が出るのが撮影計画です。
撮影時間の大半は「照明の設定待ち」だったりするので、照明設定が面倒だと1日に撮れる分量が少なくなり、撮影期間がグンと延びてしまうんです。
「撮影期間が延びても品質の高い映像の方が良い」と思うかもしれませんが、期間が延びるとろくなことはありません。実はどんどん品質が落ちる要素の方が多いんです。
私は「グリーンバック撮影時はきちんとした照明にしましょう」というのは、低予算のDIY映画においては現実的では無いと考えます。

段階を追って綺麗に合成する方法

グリーンバックに色ムラが出ないようにする照明は面倒で難しく、なかなか理想的な状態には出来ません。
編集作業で苦労することを覚悟の上で、「ある程度のレベルの照明」で妥協するのが現実的です。
何をもって「ある程度」とするかというと、「できるだけ被写体の濃い影がグリーンバックに落ちないように、グリーンバックに最低限の照明を当てる」という感じです。
撮影のペースを一定以上に保つためには、この状態の撮影素材を編集して合成するしかありません。

でも前述のように、グリーンに色ムラがあるので、このままでは背景が綺麗には抜けません。

グリーンが消え切らず、うっすらと色ムラ部分が残っているのが分かるでしょうか?


そこで、「段階に分けて」まずは緑色を合成します。

緑の明るい部分を中間の緑にします。

緑のやや暗い部分を中間の緑にします。

暗い緑の部分を中間の緑にします。

緑色が均一になった状態で、背景と合成します。

初めの合成と比べると違いがはっきりします。

実際には動画編集ソフトの機能によって他にもやり方はあるかとは思いますが、特殊な機能に頼らない、最も原始的な手法としてこのやり方を紹介しました。

参考になれば幸いです。

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