ロジャー・コーマンの教訓:低予算映画の巨匠から学ぶべきこと
B級映画が持つ「工夫する面白さ」
2024年5月9日、アメリカの映画プロデューサーであり、監督・脚本家でもあるロジャー・コーマンが98歳で亡くなりました。
ロジャー・コーマンは「B級映画の帝王」と呼ばれ、低予算映画を量産したことで知られています。
監督作品は50作以上、製作または製作総指揮作品は約400作。
とんでもない作品数です。
「低予算映画=駄作」というイメージから、ロジャー・コーマン作品群を軽視する風潮もありますが、実際は映画界への貢献は大きく、2009年にアカデミー名誉賞を受賞しています。
初期の頃は、エドガー・アラン・ポーの原作小説を怪奇映画群として仕上げています。
・『アッシャー家の惨劇』(1960年)
・『恐怖の振子』(1961年)
・『姦婦の生き埋葬』(1962年)
・『黒猫の怨霊』(1962年)
・『忍者と悪女』(1963年)
・『赤死病の仮面』(1964年)
・『黒猫の棲む館』(1964年)
などで、概ね原作のイメージを上手く映像化したと評価されていますが、その後は荒唐無稽なSF映画も多く、質の悪い低予算作品を乱作した人という印象は拭えません。
私自身、ロジャー・コーマン作品と意識して観たのは、『ジュラシック・パーク』に便乗した低予算映画の『恐竜カルノザウルス』でした。
完全にからかい半分でレンタルビデオを借りてきて観たのですが、思いのほか恐竜の造形が良かったり、話も意外と面白くて、原作小説「恐竜クライシス」を買ってしまったほどです。
それ以来、私は「低予算映画を面白い作品に仕上げる人」というイメージを、ロジャー・コーマンに持っているんです。
2日後に取り壊しが決まった映画の古城セットをタダ同然で使えることになり、シナリオも無いのに急遽撮影をしてしまったエピソードは特に痛快です。
幽霊が出てくるようなホラーという事だけ決めて、気心の知れたベテラン俳優に幽霊役を依頼。
事情を話すと、怪しげに詩を朗読したり、禅問答のようなセリフを連発したりして、後から編集して使いやすいような演技を披露したそうです。
このエピソードも半分、笑い話として語られますが、プロデューサーとして空恐ろしいほどの柔軟性があるのは明らかです。
ロジャー・コーマンの自伝『私はいかにハリウッドで100本の映画をつくり、しかも10セントも損をしなかったか』のタイトルにある通り、プロとして企画を成り立たせる能力が秀でていると言えるでしょう。
ロジャー・コーマンの飛躍に大きな影響を与えたのは、ドライブインシアターの登場だと思います。
ドライブインシアターの経営者にとって必要なのは、作品1本1本のクオリティーより、新作の数です。
何週間も同じ作品を上映していては、一度見た観客は来なくなってしまうので、とにかく新しい作品が必要なんです。
誰よりも早いペースで新作を納品するロジャー・コーマンは、オーナーに歓迎された筈です。
それを理解していたロジャー・コーマンは早い制作ペースを維持するために、低予算での制作体制を維持したと思われます。
令和のロジャー・コーマンを目指すには?
私は学生時代から趣味の自主映画作りを始めて、いろいろな映画人のエピソードを楽しんできましたが、私たちが最も参考にすべきはロジャー・コーマンのエピソードではないかと思っています。
私たちの創作には資金が潤沢ではありません。
ロジャー・コーマンのモットーである「工夫して解決しろ」というメッセージと実践結果が、そのまま参考になると思うからです。
映画の需要が変化しながら増して、ドライブインシアターという形態が広まった当時の状況と、テレビ離れが進んで動画をスマホで視聴するという新しい視聴方法が激増している現代には共通点があるのではないかと思います。
スマホでの動画視聴は、年々、手軽になっています。
言い方を変えれば、動画コンテンツの消費ペースが早くなり、量産の必要性は高まっているということです。
もちろん、ストーリー映像としての映画を、YouTuberが毎日配信しているようなコンテンツに対抗するペースで生産することはできません。
でも、芸術作品としての映画ではなく、大衆娯楽としての映画は「見られてなんぼ」です。
従来のようなのんびりとした制作ペースではなく、出来る限りのハイペースで作品を量産することが大事になってくるのではないでしょうか?
ロジャー・コーマンの功績は、作品の量産によって、俳優やスタッフの卵たちに多くのチャンスを与えたことです。
私はスマホ映画(マイクロ映画)で、誰もが手軽にクリエイター側に入れることで、映画作りには、その関係者に対してさまざまな承認欲求を満たす機能があると考えています。
その中でスマホ映画(マイクロ映画)の特徴を考慮することは有効です。
大前提になるのは画面が小さいこと。
昔、テレビが登場したとき「画面が小さいから映像の撮り方そのものが変わる」と言われましたが、実際は当初言われたように「テレビは顔のアップばかりになる」という懸念は杞憂に終わり、むしろ今では映画館で見る映画もテレビ的な構図とカット割りになっています。
つまり、映像構成に差は必要なさそうです。
一方で、画面が小さいという事は、高画質の追求に意味が無いことを意味します。
どうせ小さく潰れるので、画質が低くてもそれなりに見えてしまうからです。
これは逆手に取ることが可能と考えます。
特に映像合成など、アラが出やすい映像も、物理的に画面が小さいおかげで不自然に見えにくいというメリットが生まれるわけです。
つまり、映像合成をより積極的に使いやすい前提条件を持っていると言えます。
また、スマホで動画を視聴するのは基本的に短時間と考えられます。
2時間の映画を少しずつ見ることも出来ますが、あらかじめ10分程度で一段落する作りの作品に仕上げる事も有効かもしれません。
いずれにしても、スマホならではの利点を活かし、これまでの常識を覆す低予算の作品群を量産することが、令和のロジャーコーマンを目指す私たちの取るべき方策だと思います。
参考になれば幸いです。
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