CGを使わずに「無人の背景」を作る方法
魅力的な場所には観光客もいる
映像作品の魅力の一つは、その舞台設定です。
全く同じ内容のストーリーを語っていても、舞台がずっとレンタル会議室の中だけで展開される作品を、飽きずに最後まで鑑賞させるのは至難の業です。
もちろんストーリーに即している事が大前提ですが、やはり、景色として魅力がある場所を舞台として物語を展開した方が、プラスアルファの面白さが生まれるわけです。
そこで、クリエイターたちは外へ繰り出してその魅力的な風景を背景にし、自分たちのドラマを撮影しようと考えるわけですが、ここで問題が起きます。
それは、関係者以外が入れない私有地でない限り、無関係な人たちが映ってしまうということです。
テレビなど非常識な映像業界の人たちは実に横柄な態度で、勝手に交通整理などをして歩行者がカメラに映り込まないようにしますが、もちろんこれは決して真似をしてはいけません。
警察に道路使用の許可を取って撮影していたとしても、無関係の通行人に、通行の規制をしていいという訳では無いんです。
まして、趣味で映像を作る場合は、周りの人の迷惑にならないよう、人がいない時を見計らってサッと撮影をする、ということを繰り返す必要があるんです。
外で撮影していると、面白いことに気付きます。
「あの人が通り過ぎたら撮影しよう」と思って準備をして、いざ撮影を開始すると最悪のタイミングで別の人が現れます。
やっと人が途切れたと思ったら、何故か目の前に工事車両が停まってエンジンを切ってしまう。
まるでみんなが自分の撮影の邪魔をしているのではないか、と思いたくなる状況が続くんです。
もちろん、それは被害妄想・自意識過剰で、誰も私たちのことなど構ってはいないんです。
「我ながら自分勝手な感情だなあ」と思いつつ、こういうところで運の良い人と悪い人には差が出るんだろうなあと思います。
ただ、撮影しないと始まりませんから、例えば無人の海岸のシーンを撮影したいと思ったら、早朝にロケをしたりする必要があります。
実際、商業作品でも日常的なシーンをとんでもない早朝に撮影することもよくあるようです。
でも、全てを早朝の撮影で対応できるわけではありませんから、やはり、「人が途切れた瞬間を見計らってサッと撮る」ということも必要になります。
ところが、近年では、ちょっと見栄えのする場所は外国人観光客で溢れかえっています。
とても「人が途切れる」という状態を待って撮影することなど出来ないんです。
代替案として「場所の変更」を考える
そこで考えられる妥協案はいくつかあります。
手っ取り早いのは「理想の場所」を諦めて、撮影可能な別の場所に舞台を移すということです。
映像製作の場数を踏むと、第2案、第3案の方が、思い入れの強い第1案よりも結果的に出来が良くなることが多い、ということを経験しているので、この妥協を受け入れやすいんですが、経験が浅いと「自分の思い入れ」が捨てられず、初めのアイデアを過大評価しがちです。
「理想の場所で撮影すれば素晴らしい映像になる」と妄信してしまいがちです。
この妄信が正しくない事は、いくつか撮影して編集してみると分かるようになります。
仮にその場所が素晴らしい環境だったとしても、その素晴らしさを映像に表す技術が無いうちは、ロケの効果が出ないんです。
私はかつて、洞窟のシーンを撮影するために、重い機材を持って何度も実際の洞窟に行って撮影していたことがあります。
確かにその効果がある映像も多いんですが、「この、真っ暗の背景に立つ人物の上半身映像はわざわざ洞窟に行かなくても、夜に近所の公園でも撮れたよね?」という映像が思いのほかたくさんあることに気付きました。
その後は、
- 実際に洞窟に行って撮るショット
- 近所で夜に撮るショット
に分けて撮影計画を立て直したことで、かなり撮影が効率的になりました。
ですから、あなたが第1案として考えている、撮影困難な場所でなんとか撮影しても、あなたが思っているほどは素晴らしい映像にならない可能性が高いですし、逆に、第2案、第3案でも少なくとも同じような映像にはなるんです。
私は、映像作品は結果が全てと思っていますので、「洞窟のシーンに公園で撮影した映像が入っているから価値が下がった」などとは一切考えません。
むしろ、公園で撮影した映像をしれっと洞窟のシーンに組み込んで、観客を騙す事、騙されることが映画の面白さだとさえ思っています。
代替案として「背景合成」を考える
実際のところ、人の少ない場所で撮影すると言っても、まるっきり人がいないところはありません。
多かれ少なかれ、「人が途切れたら撮影する」という体制には変わらないんです。
そこで思い切って提案するのが、人物をグリーンバック合成することを前提に、背景を合成してしまう手法です。
「自分の作品はホームドラマだから、そんなSFじみたシーンは合わないよ」
と思う人もいるかもしれませんが、昨今の合成技術を上手く生かせば、むしろ映像合成が似合わない作品ほど、観客を自然に騙せる可能性があります。
まさかそんなところに大胆な特撮が使われるとは思っていないからです。
(私は過去作品の中で「皿に盛られた大学イモ」の分量を多く見せるために後から合成しましたが、誰にも気付かれませんでした)
ここでは簡単に、「人の映り込まない背景映像の作り方」を2つ紹介します。
静止画の加工法
背景映像は、CGで作り込んだりするのではなく、実際に撮影した素材を使います。
人が途切れた瞬間に撮影できればそれがベストです。
その瞬間を静止画の背景として使えれば、何秒でも何分でも無人の背景の場面が撮影できます。
(人物は合成用にグリーンバック撮影します)
問題は、背景映像を撮影するときに、人が途切れない場合です。
三脚でカメラを固定して同一の構図で撮影した画像を複数組み合わせることで、根気よく余計な人物を消すことは出来ます。
私も長らくこの手法を使っていました。
しかし、現在、最もシンプルなのは、フォトショップのAI機能を活用することでしょう。
映り込んでしまっている人の部分を選択して、それを自然に「消す」という機能を使うと、人が初めから居なかったような背景画像が作れます。
もちろん、完全にその場所でロケをするのとくらべ、カメラワークに制約が生じたり、水面など動いている背景は作れないので、全く同じ映像が再現できるわけではありません。
でも、やり方によっては実際にロケをするより魅力的な映像が作れます。
例えば、立ち入り禁止エリアを舞台にすることも出来ますし、縮尺を変えて人物を合成することで、普通の木の幹が実際の数倍の太さであるかのように見せることも簡単に出来るわけです。
そこに映像的な可能性の広がりが感じられませんか?
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