1枚の画像で多層的に合成する方法
日常シーン以外は撮影が難しいという現実
映画撮影の基本は、主に2つあります。
まずは、「撮影所に全ての場面のセットを作り込んで、その中で撮影する」というものです。
昔はこれが当たり前でした。
理由は色々とありますが撮影機材が大きくて、あちこち持ち歩いて撮影するのが大変だったこともあるでしょう。
また、セットを作ると天候や時間にとらわれず、撮影に集中できるので効率もよくなります。
しかし、撮影機材が小型化した頃から、「もっと映画をフットワーク良く撮影しよう」という流れが出始めて、シーンに合わせてわざわざセットを作り込むのではなく、学校のシーンなら実際の学校で、アパートのシーンなら実際のアパートで撮影するのが一般的になっていきます。
これがもう一つの基本です。
あなたも、「映画撮影」というと、そういう撮影現場を想像するのではないでしょうか?
一般的には、実際にその場所に出演者を連れて行って撮影します。
ほとんどの映画はそうやって作られます。
普段の生活と関わりのある、日常的な場面であれば、これが一番手っ取り早いんです。
学生さんであれば、校舎の中の場面は比較的自由に撮影できるでしょうし、実家が寺であれば、寺のシーンもそのまま撮影してしまうことも出来るでしょう。
ただ、実際は、
- 想定したイメージの場所が存在しない
- イメージ通りの場所はあるが撮影が出来ない
- セットを作ると大金が掛かる
- 撮影許可が降りた時間では撮りきれない
など、さまざまな問題が出てきます。
先程挙げた、「学校」「寺」という場面も、関係者以外にとっては「撮影できない場面」になってしまうんです。
どんなシチュエーションでも再現してしまうのが「特撮」
私はこれらの問題を一挙に解決する手段として特撮手法を使います。
イメージを優先させるため、理想的な場所を、「ミニチュアセット」として作ってしまい、その映像と人物を合成してしまおうという訳です。
利点は
- イメージ通りの雰囲気の映像が再現できる
- 自由に、時間制限なく撮影が出来る
- ミニチュアセットなのでそれほどお金が掛からない
など、数多くあります。
もちろん、合成映像であるということから、その合成が不自然になる危険とは隣り合わせです。
観客の中には合成映像であることに気付いて、「不自然で見ていられない」という人もいるでしょう。
それでも「特撮の方がメリットが多い」と総合的に判断しているわけです。
私が多用する、最もシンプルな映像合成に、「1枚の画像」と「1人の人物のグリーンバック撮影映像」を組み合わせたものがあります。
ご存じのように、グリーンバック前で撮影した人物映像は、「クロマキー合成」という処理を行うことで、緑色の部分を透明にすることが出来るので、背景として用意しておいた別の画像と入れ替えることが出来るわけです。
ただし、全ての合成がこれだけだと、「この舞台はどこか」という説明や雰囲気作りには役立ちますが、映像は全て「書き割りの前で人が動いている」という学芸会のようなものになってしまいます。
つまり、リアリティーが足りないんです。
どうすればリアリティーが増すか、というと「人物の手前にも物を合成する」と有効です。
例えば、「部屋の中でイスに座っている人物の手前に机がある」という映像です。
映像要素の階層で言うと、奥から順に
- 部屋の映像(背景)
- イス
- 人物
- 机
というように重なっているんです。
この重なりを表現することで、単に「人物が部屋の映像の前で座っている」よりもリアルに、その場に存在する感じが強調されます。
今回は、こういう種類の映像を作る際の、最もシンプルな合成手順を紹介します。
合成手順の実際
先程の「イスに座っている人物」の撮影と合成手順を、私が今、製作中の作品を使って解説しましょう。
この作品では、古い木造小学校を流用した設定の「村役場」が出てきます。
そもそもそんな建物で撮影できるツテはありませんから、外観も室内も全て、ミニチュアセットで製作しています。
室内のミニチュアセット自体は、とてもシンプルなものです。
床と壁を数パターン用意して、その組み合わせを変えることでいくつかの部屋を表現します。
大事なのは机やイス、ソファーなどで、それを配置することで、違う部屋であることを示しています。
例えば会議室のシーンでは、机を前に座っている人物の映像があります。
撮影はシンプルです。「人物抜きの状態」で写真を撮ります。
この写真画像を、フォトショップを使って加工します。
まずフォトショップで画像を開き、保存形式を「JPG」などから「PSD」に変更します。
これによって、画像データの中に「レイヤー」と呼ばれる「階層」の情報を持てるようになります。
そのレイヤー機能を使って、同じ画像を2つに複製します。
1つは撮影したままの「背景」。
もう一つは、背景から、「机」の部分だけ切り抜いた画像です。
切り抜きは、大抵の場合、原始的な手作業で行います。
フォトショップのペンツールを使って輪郭に線を描き、その線で囲んだ部分以外が選択範囲になるように設定して、机以外の部分を消してしまいます。
これによって、
- 机込みの背景画像
- 机のみの画像
が用意できます。
あとはこれを動画編集ソフト(私の場合はプレミアプロ)に読み込んで、まず、
- 背景画像の前に座っている人を合成する
という処理を行います。
この時点では、机と人が重なっている、なんだかへんてこな映像にはなりますが、それは気にせず、大きさのバランスや合成位置を調整します。
それが終わったら、さらにその上から
- 机だけの画像
を合成します。
そうすることで、「人物が机の向こうに座っている」という状況が立体的に表現されます。
書き割りの前にいる人物とは違って、人物がより背景映像に溶け込んでいる状態に感じられると思います。
この手法をマスターすると、基本的には思いついた映像のほとんどを再現できます。
別にミニチュアセットを使わなくても手法は同じです。
よりリアルな映像にするには、細かな調整や他の手法と組み合わせたりしますが、ベースになるのはこの手法です。
実際には細かなコツがたくさん存在しますが、そちらについてはDIY映画倶楽部などで解説したいと思います。
参考になれば幸いです。
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