ヒッチコック映画の中に特撮を探せ!・トリック撮影映像活用のお手本教材
実は特殊撮影映像の宝庫であるクラシック映画
映画が誕生してから100年以上経っています。
写真技術を応用して、動く情報を記録できると知った人々は、ものすごい勢いで映画技術を発展させましたが、ほぼ同時に特殊撮影のアイデアと技術も発展させているんです。
ですから、大げさでもなんでもなく、映画は特撮映像技術と共に発展してきたと言えるんです。
1970年代後半から80年代にかけて、いわゆる特撮映画というのがブームになって、大掛かりな特撮映画が量産されたので、その辺りから本格的に登場したのではないかと勘違いしがちですが、はるか前から、もっと「リアル系」の特撮映像は活用されていたんです。
「ジョーズ」や「スターウォーズ」に代表されるような「特撮映画」は特撮そのものが見どころになっていて、その種明かしと共に宣伝されています。
つまり、劇場で作品を観るときに、観客は既にそれが特撮映像であることを知っていて、「待ってました!」と喜んでいるわけです。
怪獣映画などは特にそれが顕著で、スクリーンの中でビルを壊す怪獣が実在すると思って見ている人は誰もいません。
「お約束」としてその特撮映像を楽しんでいるわけです。
それはそれで一つの特撮文化と言えるんですが、見方を変えると、その映像が特撮映像であるとバレることに対して初めから諦めてしまっている一派とも言えるわけです。
もちろん、怪獣がビルを壊している時点で特撮であることは隠しようがないのですから仕方ないんですが、その流れで作られた特撮は、怪獣が出ていなくてもミニチュア感が丸出しであることが多いんです。
特撮にはもう一つの一派があります。
それは、最初から最後まで、本気で観客を騙して、あわよくばその映像が特撮であると気付かせないことを目指している特撮です。
この種類の特撮は派手さは無いものの、とても丁寧な作り方をしていて、大きな魅力があります。
そしてクラシック映画の中にも頻繁に登場している事を知ると、さらっと自然に使われている特撮映像を探すことが楽しくなるんです。
まず間違いなく色々な特撮映像を活用しているのが、ヒッチコック映画です。
アルフレッド・ヒッチコック監督は電気系の技術者やデザイナーを経て監督になった経歴も関係しているのか、色々な技術を応用して作った特撮映像に理解があるというか、自分自身で手法を考案して採用することも多いんです。
有名な「めまいカット」の撮影法を考案しただけでなく、その手法で撮影する螺旋階段を、「ミニチュアを使って撮影すればいい」と撮影監督にアドバイスして、伝説的なショットを作ったことは有名です。
ヒッチコック映画は基本的にストーリーも面白いので、私はprime videoで古い作品を良く見ます。
そして、お決まりの「監督がちらっと映っている場面」を探すのはもちろん、自然に組み込まれた特撮映像を見つけては楽しんでいます。
「第3逃亡者」に隠された特撮場面
例えば「第3逃亡者」(1938)。
殺人犯の濡れ衣を着せられた男が、裁判所から逃亡して、協力してくれた警察署長の娘と一緒に真犯人を探す、ヒッチコックお得意のサスペンスムービーです。
この作品にも秀逸なミニチュア特撮場面がいくつか使われていました。
その一つが、50分50秒あたりに登場する、追手を巻いた二人が汽車の車庫にオープンカーを乗り入れて、車両と車両の間に隠れている場面。
住宅が並ぶ街の中にある汽車の車庫をカメラがゆっくり移動しながら映して、やがて隠れているオープンカーと人物の背中が映り、次のショットで二人がオープンカーの中で話している映像に切り替わるのですが、私は再生を一旦停止して、その映像を思わず観直してしまいました。
そうやって確認しなければ確信できないくらい、このミニチュアセットがよく出来ているんです。
「よく出来たミニチュアセット」をひけらかすような特撮映像と違って、本気で観客を騙そうとしている種類の特撮なんですね。
なぜ、この場面に特撮を使っているかといえば、当然、イメージを優先するための筈です。
設定に合う場所で撮影できなかったか、そもそも理想的な場所が実在しなかったかは分かりませんが、選択肢としては「ごまかし」の映像を組み合わせることも出来るんです。
実在する汽車の車庫の遠景を用意して、次に線路わきに停めたオープンカーのショットに繋げれば、状況的には辻褄は合います。
でも、ここで手間をかけてミニチュアセットを作って、「車庫に並ぶ汽車の間にちらっと見えるオープンカーと人影」という一続きの映像が入っている事で、主人公たちがそこにいる感じが段違いに際立つんです。
とても効果的でレベルの高いミニチュアシーンです。
私は元々、80年代のハリウッド特撮映画が大好きですから、「レイダース」のようにリアルと荒唐無稽がミックスされた特撮場面を参考にすることが多いんですが、最近ではクラシック映画の方が参考に適している気がしています。
その理由は、80年代の特撮映画ブーム以前の映画、特にクラシック映画の特撮の方が、普通のドラマシーンの中に自然に溶け込ませた「自然な特撮映像」が多く使われているからです。
デジタル編集で映像が加工できる現在ですが、あえてクラシック映画にあるような手法を手本にすることで、よりリアルで自然な場面を特撮で作れると思うんです。
クラシック映画を参考にした特撮のアイデア
例えば、定番ともいえる車の運転シーン。
現代の映画では大抵、実際に走らせた車の中で撮影します。
ただ、実際に運転しながらの撮影は危険なので、レッカー車に牽引させながら撮影したりするのが一般的です。
クラシック映画では運転シーンは「リアプロジェクション」という手法を使って撮影されます。
これは、走る車から撮影した背景映像をスクリーンの後から映写し、スクリーンの前に置いた車の人物と一緒に撮影してしまうものです。
私たちがシンプルな方法で運転シーンを作る場合、クラシック映画のように、背景映像を合成するのが安全で手軽です。
車の窓の部分に外からグリーンシートを被せて撮影することで、別撮りした背景映像が綺麗に合成できるはずです。
そしてミニチュアセット。
これをリアルに見せる一番のコツは、ミニチュアセットの中に小さく、人物の映像を合成することです。
例えば歩道橋のミニチュアセットを撮影すると、実際にはかなり精巧に作られた模型だとしても、「よく出来たミニチュアセット」という印象はどうしても拭えません。
ただ、その歩道橋にグリーンバック撮影した「歩く人物」をちらっと合成するだけで、圧倒的に「ミニチュア感」が消えるんです。
本物の動く人物が映っているだけで、錯覚をさせることが簡単にできるんです。
クラシック映画では出来なかった、人物映像のデジタル合成という技術を加えることで、「リアル系」の上質な特撮映像が作れます。
クラシック映画を参考にしながら、「普通の映画」の中に自然な特撮を入れる感覚を身に付ければ、「本来ならこういう構図の映像を入れたい」というイメージを優先して作品が作れるようになります。
これは素晴らしいことではないでしょうか?
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