特撮映画としての「恐竜探検隊ボーンフリー」

SF設定と本格ミニチュアワークが楽しめる異色の番組

私は、8歳の時、「恐竜探検隊ボーンフリー」という番組で、ミニチュア特撮と恐竜が同時に好きになりました。

記憶は定かではありませんが、それ以前はあまり恐竜にも興味が無かったと思われます。

幼稚園の時に絵画教室で初めて描いた絵で賞をもらったときも、「好きなものを描きなさい」と言われて、画用紙一杯に「カニ」の絵を描いていたことから考えても、生き物は好きだったものの、選択肢に「恐竜」はありませんでした。

 

「恐竜探検隊ボーンフリー」は1976年10月から始まった番組で、特撮映像の専門集団「円谷プロ」が作り出した精巧なミニチュアセットと、生き生きと動き回る恐竜が見どころの、特撮番組です。

当時は物語の前提となるSF設定がよく理解できていなかったのですが、改めて調べると、「地球空洞説」という定番の設定を採用している事が分かります。

 

地球の近くを通過した彗星の影響で地殻変動が起き、地底世界に中生代から生き残っていた恐竜が大地ごと地表に現れ、その保護のため、恐竜を生け捕りにして保護区域に輸送する、という物語です。

現代の地表は恐竜の生活する環境と温度などが違うため、放っておくと死んでしまうんです。

 

ボーンフリー隊は、恐竜を出来るだけ傷つけないように追い詰めて麻酔銃で眠らせて捕獲しますが、なかなか上手く行かない事もあったり、恐竜が人里に入り込んで、住人襲ってしまったときなどは、やむなく殺処分という厳しい選択を強いられることもあります。

凶暴な恐竜も外敵として退治するのではなく、守る対象という物語は、子供向けの番組として画期的でした。

敵は、恐竜を殺して剥製を手に入れようとしている、金持ちの密猟者。

恐竜は保護動物に指定されていて、密漁は犯罪なんです。

 

私は動物のドキュメンタリー番組「野生の王国」が好きだったので、恐竜を怪獣として描かずに野生動物として描き、レンジャーが動物密漁者から守る内容に全く疑問も抵抗もありませんでしたが、多くの子供たちには「恐竜を倒さずに守る」という内容が物足りなかったようで、大ヒットとはなりませんでした。

 

ボーンフリーの誠実なところは、本気で恐竜をリアルに表現するために、古生物に関する監修を、日本の古生物学の第一人者で国立科学博物館の館長でもあった・小畠郁生に依頼しているんです。

その後、私が出会うほとんどの恐竜図鑑やその他の恐竜本に、「小畠郁生」という名前を見つけるたびに親近感を覚えていました。

 

探検隊は2台が連結された形の多機能装甲車「ボーンフリー号」でジャングルの中、恐竜を捕獲すべく探検するんですが、このボーンフリー号をはじめ、さまざまなメカは、ウルトラマンの流れをそのまま受け継いだ円谷プロのミニチュアワークで作られていて素晴らしい出来です。

この「ボーンフリー号」は玩具メーカーのトミーが担当しています。

消防庁が運用している、無限軌道災害対応車・レッドサラマンダーが、このボーンフリー号に似ていると話題になりました。

 

私は2012年に東京都現代美術館で開催された、「館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」の会場で初めて、撮影に使われた実物のミニチュアを見て感激しました。

特撮ファンとしての自分のルーツが、このボーンフリー号ですから、想像よりもずっと小さかった模型に、まるで数十年ぶりに会った幼馴染のような感覚で見入っていました。

 

本編の中でこのボーンフリー号が走り回る、密林あり崖ありの大地のミニチュア造形も見事で、贅沢なセットで撮影されている事を伺わせます。

 

肝心の恐竜は、特撮用のモデルとして、サイズが違う2種類が使用されています。

8歳当時の私は、ミニチュアセット撮影していることは分かっていましたが、もちろん特撮の知識など無くて、2種類の特撮が使われている事は知りませんでした。

 

1つ目は、顔のアップ用のマペットです。

恐らく、中に手を入れて口の開閉をしているはずです。

2つ目は、歩き回ったりする全身を見せるためのストップモーションのモデルです。

ストップモーションという技法は撮影にとても時間が掛かり、東宝映画の「ゴジラ」でも、その手間がネックでストップモーションによる表現を断念した経緯が有名です。

 

この「ボーンフリー」では、マペットでは表現できない、全身が映る映像だけ、ストップモーションを採用するなど工夫していますが、それでも、アメリカやイギリスの劇場用映画並みの細かな動きまでは表現できていません。

やや、1コマ1コマの間隔が荒いんです。

 

それでも、ダイナミックに戦う恐竜や、子供の恐竜のあどけない動きなど、「野生の王国」で動物の姿を楽しんでいた私は、同じように恐竜の動きを楽しんでいました。

 

この作品に登場する人物は「絵」のアニメーションで作成され、ミニチュアセットの実写映像と合成されているのも特徴で、こちらの方がよく話題になります。

この二重三重に異なる技法を組み合わせた、とても凝った作りの作品でした。

 

改めて鑑賞すると、やはり「ウルトラマン」の流れをくむ音響とBGMによる盛り上がりの演出も秀逸です。

音楽は、「ウルトラセブン」以降、ウルトラシリーズを手がける冬木透が担当しています。

リメイク版「新・ボーンフリー」を考える

もし今、私が「恐竜探検隊ボーンフリー」をCG無しでリメイクするとすれば、どうするかを考えてみます。

 

人物のアニメーション部分は、俳優のクロマキー合成にします。

大きな変更はこれだけでいいのではないでしょうか?

 

恐竜の表現は、低予算の恐竜映画ではシンプルなCGが主流ですが、マペットやストップモーション用モデルという「実物」がある映像はやはり実体感というか存在感が違います。

あえてリメイク版でも、マペットとコマ撮り用の全身モデルを使いましょう。

 

ただ、恐竜のデザインは大幅に変更します。

70年代のテレビ番組としてはボーンフリーの恐竜はよく出来た個性的な造形でしたが、特に2足歩行の恐竜の復元は、直立のいわゆる「ゴジラ型」となっていて、力学的に不自然です。

これは「ジュラシックパーク」以降のリアルな恐竜像に寄せて、少なくとも歩行中は前傾姿勢をとれるデザインにしましょう。

 

あとは、基本的なところですが、オリジナルの恐竜模型の最大の欠点は、マペットと全身モデルの顔に違いがあり過ぎて、映像が切り替わるたびにやや不自然に見えたんです。

ここは、見分けが付かないくらい両者を似せる必要があります。

恐らく、マペットは手の形に影響されないためには、やや大き目のモデルにする必要があるでしょう。

私もよく、材料の節約や保管スペースの事を考えて、手が入るギリギリのサイズでマペットを設計してしまいがちで、そうするとどうしてもデザインの自由度が無くなるんです。

少し大きめのモデルにすることで、リアリティも増すでしょう。

 

コマ撮り用の全身モデルの撮影は、オリジナル同様、やや荒いコマ撮りで良いと考えます。

そのままではやはりカクカクした動きに見えてしまいますが、映像をデジタル編集できる現在は、「フレーム補完」という技術が簡単に使えます。

そのままでは動きが荒い映像の場合、コマとコマの間に中間の映像を自動で生成して、動きを滑らかに見せる機能があるんです。

しかも、コマ撮り特有の「ブレ」のない不自然な映像を補正するため、動く方向を判断して、疑似的に「ブレ」を加えることも、デジタル編集では出来るんです。

 

これらの新機能を活用することで、70年代のテイストを残しつつ、格段にリアルな恐竜が登場する「新・恐竜探検隊ボーンフリー」を作れると思うんです。

短いものでも良いので、私はこういうファンムービーも作ってみたいなあと夢想しています。

もし実現する場合は、出演者やモデルアニメーターとして広く参加者を募りたいと思います。

参考になれば幸いです。

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