青空文庫の古い小説を改変して脚本化してみた

題材の宝庫だが小説形式は古い

青空文庫は「インターネット上の電子図書館」と言われています。

掲載されているのは、著作権が消滅した作品が中心で、これが無料で閲覧できます。

著作権が切れた作品のことをパブリックドメインと言います。

作品そのものを公共の物にしようという考えで、自由に読めるし、自由にこれを改変して使うことも許されます。

例えば江戸川乱歩原作の小説を漫画に改変して公開・販売することも自由にできます。

 

私は常々、自分で考えた物語を映像化したいということは第一ですが、もっと頻繁に作品を作るために、このパブリックドメインになった作品を使って、映像に改変していこうという発想を前から持っていました。

 

私自身、青空文庫に載っているような時代の小説が好きです。

夢野久作とか江戸川乱歩が面白いという証明は本屋に行くと分かります。

本が売れない時代と言われている中で、夢野久作、江戸川乱歩、あるいは芥川龍之介というような古い作家たちの本も、現役の作品として本屋の棚に並んでいます。

それはなぜかというと、面白いからです。

だから本屋でまだ現役として、生きた現役の作家と肩を並べて売り上げを競っているわけです。

そういう作品が青空文庫の中にあれば、これを使わない手はありません。

 

この青空文庫に載っている作品を朗読している人たちがいます。

朗読は、読書の延長であるのに対し、オーディオドラマは映像はないのですが、映画に近い感覚で視聴することができます。

 

私はこの青空文庫にある小説作品をシナリオ化して、それを音声・映像のメディア変換に持っていくわけですが、順番として、まずはオーディオドラマというメディアに変換することが望ましいと考えます。

まずは音声ドラマとして作れば発表することができます。

映像化する際には、ここのところがちょっと描き足りないなとか、ここはもっと省略できるなというような判断を、オーディオドラマ版でできます。

そうすると、映像化する時にも、より無駄なく作業ができるのではないかという狙いがあります。

 

それで私は青空文庫からまず自分の好きな作品を選んでシナリオ化する作業に入りました。

シナリオ化する際に必要なこと

選んだ作品は海野十三という作家の作品「生きている腸(はらわた)」です。

ご存知の方も多いかもしれませんが、「宇宙戦艦ヤマト」の初代艦長「沖田十三」は、この海野十三をモデルにして命名されたと言うのは有名な話です。

この海野十三は古い時代の人ですが、実は日本のSF作品の先駆者なんですね。

 

この人は科学知識が非常に豊富な人で、当時の最新科学をどんどん作品の中に盛り込んでいるので、今見てもこのアイデアがなかなか面白いんです。

でも調べてみると、海野十三という人の小説を映画化した作品は非常に少ないんです。

確かにそのまま映像化するのは難しそうなんですが、アイデアはいいですから、私なりに改変したり、いくつかの作品を組み合わせたりして作品を作っていきたいと思っています。

 

まず必要なのは、小説のシナリオ化です。

シナリオと小説は構造が違います。

小説は、「地の文」と呼ばれる部分と「セリフ」で構成されます。

「地の文」には、いろんな要素が混じっています。

情景の描写・登場人物の心情・時代背景・場面の設定のようなものを全部説明として入れられます。

小説の「地の文」にはこれがたくさん混じっているんです。

 

一方で、脚本には「柱」と呼ばれるシーンを示す部分、それと、「セリフ」と「ト書き」の3つの要素があります。

 

実際のシナリオ化作業としては、この小説に書かれている「地の文」を分析して、「ト書き」と「柱」に分解していくわけですが、やってみるとこれは難しい事が分かります。

 

まず、古い小説特有の構造があります。

最近の新しい小説は非常に映画的な表現が多くて、シーンが変わるごとに章が変わったりしているものが多くあります。

ところが古い小説の場合は、このシーン分けがほとんどされていないことが多い印象です。

ここから別のシーンというふうに線引きができないんです。

 

そこで私は粗筋自体は大体そのまま使うとしても、登場人物の設定や場面はかなり変える必要があると早々に感じました。

それで、「この表現は面白い」というところを全部抜き出して、それをどこかに散りばめることにして、シナリオ化するために、全体の粗筋を作りなおしました。

 

古い小説にありがちな特徴に、ずっと主人公の心の葛藤や状況説明が延々と続く形式があります。

それをそのままシナリオ化すると、独り言やモノローグ、ナレーションばかりになってしまいます。

 

原作では登場人物が一人で行動しているシーンが長く続くため、セリフが少ないのですが、私は原作に出てくる登場人物二人の人間関係を変更し、会話を増やして物語がわかるように改変しました。

 

原作では主人公はちょっと頭のおかしい天才的な学生です。

脇役が、その学生に脅されている大学教授です。

その学生が生きている人間の内蔵で実験をしたいと考え、大学教授を脅して内臓を手に入れ、実験を進める話です。

私はドラマ化する際に、内容を大幅に変更し、主人公はマッドサイエンティストの大学教授、その教授に弱みを握られている学生を助手として登場させ、実験に協力せざるを得ない立場にしました。

 

シナリオはほぼ完成しました。

映画と違って音声だけで構成できるので、短期間で形にすることができます。

使うのは音声なので、DIY映画倶楽部のメンバーを中心に、遠隔地に住んでいる人にも協力していただき、近いうちにオーディオドラマとして一気に完成させる予定です。

音声メディア復活の兆しに対処せよ

今回は、まずオーディオドラマを作って、その後、映像化しようという企画ですが、私はこの「音声メディア」自体にとても注目しています。

 

音声メディアの代表例はラジオです。

実は今、ラジオの世界は再注目を集めているらしいんです。

これには色々な分析がありますが、原因の一つはコロナ騒動と言われています。

 

コロナ騒動によって外出ができなくなり、多くの人にテレビが見られた結果、「テレビ番組はつまらない」と気づいた人の多くが、ラジオをはじめとする音声メディアに流れたというんです。

同時に「ポッドキャスト」と呼ばれる音声配信が非常に伸びています。

 

私も家族に勧められて、小さなアパレルブランドの社長のポッドキャストを聴き始めたんですが、喋りや編集のプロでない人たちの番組がとにかく面白いんです。

テレビのバカバカしい虚構の面白さに対して、生活者のリアルな話の面白さが魅力なのだと思います。

私の周りでも、作業をしながらポッドキャストを聴いている人が意外と多いそうです。

 

私たち創作者としては、音声メディアの需要が多いなら、そこに合わせたコンテンツを作って見てもらい、聴いてもらうことを意識するべきだと思います。

特に映像作りをしている人は、前段階としてオーディオドラマ版を作って配信するのは良い手ではないでしょうか?

 

オーディオドラマは映像作品に比べて作るのが楽で、早くできます。

これを先に形にして配信し、それをネタにさらに協力者を募って映画化するというやり方は有効でしょう。

現在、私が製作中の作品については、完成した時にまた報告しますので、機会があったら聞いてみてください。

参考になれば幸いです。

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