特撮映画としての「西遊記」
「面白い」特撮ドラマのお手本
実写の特撮テレビドラマというと、「特撮変身ヒーローもの」をイメージする人も多いと思います。
確かに、1970年代は各テレビ局からそれこそ無数の特撮変身ヒーローが生まれました。
それはさながら古生代のカンブリア爆発を思わせる大発生で、その後の定型となり、長年にわたってシリーズ化された「仮面ライダー」のような作品もあれば、「どうしてそれが子供たちに受けると思ったのか?」と理解しにくいデザイン・設定のヒーローも作られました。
もっとも、仮面ライダーもバッタの怪人ですから、受けるかどうかは紙一重と言えるかもしれません。
そんな中、1978年に日本テレビで作られたのが、今では伝説的な番組となった「西遊記」です。
実はこの1978年は日中平和友好条約が調印された年で、前年はTBSでコメディ人形劇『飛べ!孫悟空』が始まったり、フジテレビではアニメ『SF西遊記スタージンガー』が始まったりと、西遊記にまつわる企画が多かった年なんです。
日本テレビの「西遊記」では日本のテレビでは初めて中国ロケが許可され、主にオープニングやエンディングでの壮大な風景映像として使われています。
配役の妙
まず、この作品で特筆すべきなのは、配役の妙です。
三蔵法師に若手女優の夏目雅子、孫悟空に堺正章、猪八戒に西田敏行、沙悟浄に岸部シロー。
キャラクターの差別化とそこから出る面白さが秀逸なんです。
この作品以降、リメイクされた西遊記では三蔵法師役を美しい女優が演じるのが定番になりましたが、実はこの作品、当初は若山富三郎が映画として企画したものだったそうです。
そのため配役も、
- 三蔵法師:坂東玉三郎
- 悟空:若山富三郎
- 八戒:高見山大五郎
- 沙悟浄:仲代達矢
を想定していたといいます。
これはこれで凄まじい配役で魅力もありますが、テレビの連続ドラマとしては、堺正章版がやはりしっくりきます。
同年代の若い芸達者な俳優たちが、アドリブを交えながら軽妙に小競り合いをするシーンなど、楽しい仲間たちと作品を作っている感じがにじみ出ています。
実際、出演者の4人は撮影中いつも一緒に行動していて、衣装を着たまま町の食堂で食事していたりしたそうです。
散見される特撮ショット
西遊記では、いたるところに「特撮ショット」が登場します。
特撮を担当したのは円谷プロ。
(「西遊記」では円谷プロダクションが、「西遊記II」では東宝映像が協力)
特にオープニング映像では大金を掛けて中国の神話の世界を魅力的に表現しています。
ドラマ本編で使用される主な特撮は「ミニチュアワーク」と「マットペインティング」です。
ミニチュア人形は9センチくらいの人形から大きなものまで数種類用意して、いろいろなシーンに登場しています。
お馴染みの觔斗雲(きんとうん)に悟空が乗っているシーンなどで使われていますが、よく見ると芝居に合わせて手に持った棒を動かしていたりという細かいギミックが楽しませてくれます。
「まさかこの場面がミニチュアだとは気付かなかった!」という特撮の使い方ではありませんが、「登場しただけで楽しくなる」というミニチュアの使い方をしています。
私は円谷特撮の醍醐味は「大地の表現」にあると思っていて、いろいろな怪獣映画でも、特に自然の山や崖のミニチュアのリアリティは群を抜いていると感じます。
実際には存在しないのに、
「あそこを歩いてみたい」
「あの先にはなにがあるんだろう?」
と思うことがよくあります。
「西遊記」でも、岩山など、場違いに思えるほど素晴らしいミニチュアセットが登場します。
基本的にドラマシーンは室内セットで撮影しているので、室内で撮影されたこのミニチュアセットの映像と質感がぴったりあっていて、独特の世界観があるんですね。
もう一つの印象的な特撮は「マットペインティング」です。
これは、野外で撮影した映像の一部に、「風景の絵」を合成したものです。
例えば、物語の最初と最後、三蔵法師を乗せた馬とその一行が荒れた道を歩いている場面などでよく使われます。
撮影は富士山の麓とか、千葉の岩山で毎回行われているそうですが、映像の中央部分、一行が映っている範囲の道を残して、遠くの山脈や手前の崖などを絵で描き、大胆に合成しています。
これが、強烈な異世界感・異国情緒感を出しています。
作品を見直してみると、特撮ショットは思いのほか少ないんです。
にも関わらず、「西遊記と言えば特撮作品」という印象を持っているという事は、いかに特撮の使い方が効果的だったか分かります。
ちょうどこれは、「ジュラシックパーク」を見た後、恐竜の強烈な印象から、全編にわたって恐竜が活躍するイメージが残るんですが、実際に恐竜が登場している時間はわずか10数分だけという状況と似ています。
特撮やアクションは見どころではありますが、使い過ぎてしまうと途端にその効果が薄れてしまうんです。
作り手としてはせっかく手間を掛けたのに、観客はその刺激に飽きてしまってかえって逆効果になるという悲しいことになります。
改めて考えてみると、当たり前ですが、やっぱり映画は面白いことが一番であると分かります。
面白いからこそ、アクションや特撮も映えます。
では、面白さはどこから来るかというと、物語と登場するキャラクター。
つまり「素材」です。
さらに西遊記では、物語には特に目新しさはありません。
話の展開は昔ながらの時代劇と同じで、勧善懲悪+人情劇というワンパターンなんです。
この作品についてはそれでも良いんです。
特に堺正章、西田敏行の二人は役柄の設定を踏まえて、絶妙な間(ま)で楽しい芝居を見せてくれます。
その楽しさに笑いつつ、途中途中でインサートされる「本気の特撮ショット」のギャップ、それに加えてゴダイゴが担当している音楽が、この「西遊記」という作品の魅力になっています。
その後作られた数々のリメイク作品も、決して悪い出来では無いんですが、どうしてもこの作品には敵いません。
ちなみにこの「西遊記」はイギリスBBCで英語吹き替え版が作られ、世界中で人気がでましたが、本家の中国では「原作とかけ離れすぎだ」という批判から、3話で放送が中止になったそうです。
最も手軽に場面を変換する「マットペインティング」
西遊記でも効果的に使われていた、マットペインティングの手法は、私たちアマチュア映像製作者も活用を検討すべきです。
映像作品を作るときにパソコンが使えなかった当時は、合成そのものが難しかったのですが、デジタル合成が簡単な現在、西遊記と同様の効果を出す合成映像は比較的簡単に作れます。
しかも、本物のマットペインティングは絵画の技術に長けていないと作れないんですが、デジタル合成技術を使えば、別撮りした風景写真を切り貼りして、マットペインティング的な独特の風景に作り替えることが出来るんです。
私も自作の中でよく使うのが、この「風景のデジタル合成」です。
その上手い使い方のお手本として、古いドラマですが「西遊記」を見直してみてはいかがでしょうか?
参考になれば幸いです。
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