特撮映画としての「ゴジラ -1.0」
ジャンル映画としての「怪獣もの」の特徴と弱点
ゴジラに代表されるような、怪獣が出てくる映画は、基本的に「ジャンル映画」に分類されると思います。
これは小説などでもそういう括りがあって、「ジャンル小説」という言い方をします。
例えばSF小説。
一般小説の中でもSFの要素が入っているものはありますが、「SF小説」という言い方をした場合は、求められる優先順位が変わってきます。
小説としての完成度より、
- SFの設定がどれだけ斬新か
- SFとしてどれだけ理にかなっているか
- SFそのものが魅力的か
これらを「物語」よりも重視する傾向があると思うんです。
「ジャンルもの」というのは、特有の観客が存在していて、極端な話をすると、SFの設定が素晴らしくて描写が素晴らしければ、小説としては破綻していたりバランスが悪くても、「これは素晴らしい」と評価されがちです。
「ジャンル映画」でも同じで、例えばアクション映画の場合、アクションシーンがどれだけリアルか、迫力があるかが第一であって、
- 話がおかしい
- 破綻してる
- 説得力がない
という部分は大目に見てしまうんです。
これがジャンルものの特徴です。
ゴジラという1955年に東宝で作られた映画から始まるゴジラシリーズは、いかにも怪獣映画、ジャンル映画です。
ただ、この一作目に限っては、ジャンル映画という見方でなく、一般映画として見ても面白いんですね。
私は2016年に公開された庵野秀明監督の「シン・ゴジラ」の公開に先立って、オリジナルのゴジラを見直してみたら面白かったので、その後のシリーズも見直そうとしたんですが、2作目「ゴジラの逆襲」を見た時点で、「怪獣映画というジャンルは自分の好みとは違うな」と感じました。
私は特撮が大好きで、ミニチュアも大好きです。
精巧なミニチュアセットがたくさん出てくる怪獣ものは、その大好物の要素がたくさん入っているはずなんですが、
怪獣もののファンになれない理由は何なのか、考えてみました。
一つ感じることは、アメリカのモンスター映画やミニチュアが出てくるような特撮映画の特撮は、本気で観客を騙そうという意識が高いと思うんです。
種明かしを聞かなければ、高い丘から撮った実景かなと思ってたら全部ミニチュアセットだったりと、本気で観客を騙しにかかる特撮が普通です。
それに対して、あくまでも私の感覚ですが、ゴジラに代表されるような日本の特撮映画のミニチュアセットは、出来自体は全くハリウッド映画に負けてないにもかかわらず、ミニチュアであることがすぐに分かってしまう。
うがった見方をすれば、「どうですか?よくできたミニチュアでしょう?」と自慢されているような気がしてしまうんですね。
それがどうも自分には共感できない部分の気がします。
面白いと思った初代ゴジラは、まだ「ゴジラ映画」というジャンルが確立する前だったので、ジャンル映画のファンに合わせた作りになっていない、「普通のドラマ」として見せていると思うんです。
それが2作目以降になると、「お待たせしました!ゴジラです!ミニチュアです!」というジャンル映画ファンがより喜ぶ作りになっていて、そのファンでない人は置いて行かれるような気になるのではないかと思いますがどうでしょうか。
初代ゴジラはヒットしました。
シリーズ化して行く上で、「これは何でヒットしたのか?」と考えたときに、
- ゴジラの造形が良かったんじゃないか?
- あの迫力が良かったんじゃないか?
- よくできたミニチュアも良かったんじゃないか?
と意見が出ると思うんです。
それは間違ってはいないと思うんですが、じゃあそこを強化した新作をどんどん作っていくと、だんだん特撮の刺激は少なくなってきますから、ジャンル映画ファン以外には受けない作品になっていくのではないでしょうか。
山崎ゴジラは何が良かったのか
「ゴジラ -1.0」は、山崎貴監督が脚本も書いた作品です。
私は劇場で鑑賞して、まず初めに「嬉しさ」を感じました。
これは紛れもない「ゴジラ」であって、怪獣映画なんですが、「ジャンル映画」の作りでは無いと感じたんです。
「怪獣ものなので、そのつもりで見てください」という言い訳なしに、普通の映画として見られる。
そこにゴジラは空前の迫力で登場しますが、あくまでも作品は「登場する人々の人間ドラマである」ところが最大の魅力と感じます。
「ゴジラ -1.0」の舞台は現代ではなく、戦中戦後という、数十年前の話です。
そういう時代背景もあって、一見、古い日本映画のような古典的雰囲気があるんですが、ストーリーの展開テンポはとても軽快です。
観客の集中力がどんどん低下している現代は、雰囲気を作るためにモタモタしていると、見ていられないんです。
冒頭で主人公が登場してすぐに、この「ゴジラ」という怪獣が現れます。
私は映画館でちょっとビックリしました。
まさかこんなに早く出し惜しみせずに出てきて大暴れすると思ってませんでした。
この展開の早さと共に秀逸だと思ったのは、作品の中にゴジラが出てくる分量の的確さです。
怪獣が画面に登場すると盛り上がりますが、これが多くなりすぎると、観客はその刺激にすぐ飽きてしまうんです。
よく例に出しますが、スピルバーグ監督の「ジュラシックパーク」も「CGの恐竜が素晴らしかった!」という印象は残っていますが、CG恐竜の場面は実は数分しかありません。
この、「作品の中で見せ場の特撮を何%にするか」という塩梅が絶妙で、「ジュラシックパーク」「ゴジラ -1.0」には「黄金比率」のようなものがあるのではないかと思っています。
「ゴジラ -1.0」はもちろん、怪獣以外の美術も素晴らしい出来だと思います。
山崎監督ならではの、グリーンバック撮影した映像と、CGを組み合わせた景色が生み出す世界観、戦後の焼け野原の映像などは絶望的な風景で、これをこんなにリアルに表現できるのは、現代の日本映画ならではのものだと思います。
軍艦の登場シーンも素晴らしいものでした。
昔の日本映画に出てくるミニチュアの戦艦なども、私は大好きではあるんですが、やはり水の表現が画面に加わってしまうと、ミニチュアはミニチュアであることがバレてしまうんです。
「よく出来たミニチュアだなあ」と感心はしますが、「ミニチュアと気付かなかった」とはなりません。
現代のリアルなCGで作られた軍艦シーンは、状況から考えてCGだと判断はしていますが、現実の映像として気持ちよく騙されながら見ることができます。
山崎監督は「駐車場さえあれば、どんな場面でも撮れる」と言われたりしますが、今回も何の変哲もない空間にグリーンバックをセットして、工夫して贅沢な映像を作っています。
ご存じのようにアメリカのアカデミー賞で、視覚効果の賞を取ったわけで、CGの技術、VFXの技術が凄いことは間違いないんですが、この映画の総合点を押し上げているのは、やっぱり外国の人にでも分かるような「ベタドラマ」の力だと思うんです。
「ジャンルもの」として特殊に認識されがちな怪獣映画にベタドラマの展開をそのまま取り入れて、最低限の面白さは担保し、特撮や映像の力で「プラスα」の魅力を加えた、というのが成功の要因だと思います。
「ゴジラ -1.0」の続編も決定したそうですが、
- 視覚効果の部分で評価されたから、もっと凄い映像を入れよう
ということだけで勝負すると、恐らく今回のように一般の観客が「ああ面白かった」とはならないと思うんですね。
裏で技術的には凄いことをやっているにしても、やっぱり表に見える部分は、古典的な人間ドラマを外さずにきっちりと構築することが、逆説的ですが、特撮を初めとする映像を引き立たせるための条件だと思います。
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