映画音声の重要性とその工夫

音声の歴史と撮影現場の工夫

映画などの作品は「映像作品」と言われる通り、もっとも意識すべきは映像面の工夫だと思われています。

でも、私たちが普段見ている「商業作品」において、当たり前のものとして鑑賞している「音」の部分は、実はとてもとてもレベルの高いものなんです。

 

フィルムで映像を撮影していた昔の映像作品などは、音声を全く別のテープレコーダーに録音してましたから、その職人がいないと同時録音さえできなかったんです。

撮影の効率を優先する場合は、現場で録音をせずに、あとからセリフや情景音を映像に加える作業も一般的でした。

 

ちなみに、フィルムのカメラは撮影時、シュルシュルという小さな音が出るので、同時録音の作品の場合、静かなシーンではその音がかすかに残っていたりします。

テレビドラマ「探偵物語」など、場面によってはそれが聞こえるので、作品を楽しむのとは別に、現場でスタッフが息を殺してその演技を撮影している様子を想像してしまいます。

 

ビデオカメラは映像はもちろん、音声も同時に録音できる機能がセットになっています。

しかも、撮影時にカメラから音が生じませんから、とても便利なものです。

 

ところが、忘れてはならないポイントがあります。

それは、撮影時のマイクの位置です。

マイクがカメラの位置にあるということです。

 

単なる記録映像の撮影であれば、音は入ってさえいればいいでしょう。

人の話も、聞き取りさえできれば問題ないと考えることも出来ます。

 

でも、映画などの映像作品は同じやり方をするとほとんど成り立たないんです。

音声と映像の調和の重要性

映像は意図をもって「カット割り」と呼ばれるように色々な角度から、または違うサイズで撮影したものを編集して一連の出来事として錯覚させますが、その時の「音」は映像に連動するとおかしいんです。

分かりやすくするために極端な例を作ると、

 

1. 離れたところで話している2人の遠景

2. やや近くで話している2人の全身(一人は後ろ姿)

3. 話している1人の顔のアップ

4. 話しながら移動を始める2人を離れたところから撮る

 

という一連の映像を想像してください。

 

もし、この映像と、ビデオカメラのマイクで録音した音声で構成するとどうなるでしょう?

 

1. 離れたところで話している2人の遠景

>セリフは小さくて聞き取れない

2. やや近くで話している2人の全身(一人は後ろ姿)

>こちらを向いている人のセリフはややクリア

>後姿の人のセリフは聞き取りにくい

3. 話している1人の顔のアップ

>セリフはクリア

4. 話しながら移動を始める2人を離れたところから撮る

>セリフは小さくて聞き取れない

 

という具合になります。

「実際にそういう録音になるという事は、それがリアルだから良いんじゃないの?」

という発想もあるかもしれませんが、もしそれがリアルで良いとしたら、リアリティーを重視する映画やアニメ作品で、あえてそういう録音にしているはずです。

もちろん、そんなことはされていません。

観客から見て不自然だからです。

 

後からボリュームを調整すればいいじゃないか、と思うかもしれませんが、セリフのボリュームを合わせようとすると、一緒に録音されている環境音の音量がバラバラになる上、声の「遠さ」「近さ」の不自然さは隠せないんです。

 

そのため、昔から一手間かけて、長い竿の先にマイクを付けて、カメラに映り込まないように苦労して顔の近くで録音したり、顔の近くにピンマイクを付けて録音したり、という手法がとられている訳です。

 

その実情を知らず、常にクリアな音声で構成されている完成品を「当たり前」と思って鑑賞している私たちは、ついつい「音声」を軽視してしまう傾向があるんです。

 

実は、音の効果は絶大です。

簡単に言えば、音がチープだと、つまり、カメラのマイクで直接録音した音声が使われていると、途端に作品全体がチープになるんです。

これは、映像のチープさよりも強力に足を引っ張ってしまう要素です。

実は「音」の悪さによるストレスはとても大きくて、「聞いていればそのうち慣れて気にならなくなる」ということが無いんです。

 

それを始めて感じたのは、私が2本目の作品を作った時です。

実は1本目の作品は、海岸の岩場で「山奥の岩場」というシーンを撮ったりする関係もあって、初めから撮影時に同時録音することを諦めて、ほぼ全編、アフレコにしているんです。

そのため、逆に「撮りっぱなしのチープさ」を隠すことが出来たんですが、2本目は普通のドラマだったので、試しにカメラマイクの音声を使ったんです。

すると、映像が切り替わるたびに音声も切り替わってしまって、「ああ、ぶつ切りで撮影した映像を編集してるんだなあ」ということを強調する出来になってしまったんです。

もちろん、ぶつ切り撮影は事実で、リアルな状況ですが、映画は編集によって、ぶつ切りでなく一連の状況と錯覚してもらわないと鑑賞してられるもんじゃないんです。

 

カメラのマイクでセリフなども録音してしまう、という手法は、主に予算の関係で、商業作品でも行われることがあります。

あえてそれを演出に利用できていない場合は、やはりチープに見えます。

 

私は以前、有名な映画俳優が出演している、低予算のVシネマを見て「こんな大御所が重厚な演技をしてても、音だけでこんなに安っぽくなるのか」と驚いたことがあります。

クリアな音声を得るための工夫

解決策は2つ考えられます。

 

1つは、標準的な商業作品と同様、マイクマンを活躍させてクリアな音声で同時録音するということ。

ただ、これは技術的に難しいことに加え、撮影に時間を食うことになります。

つまり、撮影期間が長くなって、実質的にコストが高くつくんです。

 

私は2つ目の選択肢として、やはりアフレコをお勧めします。

セリフのアフレコを前提とした撮影であれば、撮影現場ではカメラマンが「映像」だけを決めて撮れます。

現場の横で救急車の音が聞こえようが、ヘリコプターが飛んで来ようが、静かになるのを待つことなく撮影はサクサク進みます。

 

問題として「アフレコって難しいでしょ?」ということはあります。

確かに、同時録音のように口の動きにぴったりと合わせてアフレコするのは難しいです。

「男はつらいよ」の渥美清ですら、アフレコのショットでは口の動きとあんまりあってませんからね。

 

ただ、それで作品が台無しになるでしょうか?

下手な同時録音で音質がバラバラな状態よりも、多少口の動きとセリフがちょっとずれていても、音が綺麗でストレスを感じさせない作品の方が、ずっとしっかりしていて魅力的に思えます。

 

私は発想を変えて、アフレコ作品ではあえて撮影時のセリフとは言葉の順番を変えたりして、はじめから口の動きにぴったりと合わないアフレコをしようとさえ考えています。

音声と口の動きがわずかにずれると気持ちが悪いものですが、初めから全然違うセリフであれば、通常の吹き替え映画風になるはず、という発想です。

まあ、そこまでしなくても、パソコンの動画編集ソフトを使ってアフレコの音声を映像に当てる作業は、結構うまく出来ます。

音の波形を見ながら微調整が出来るからです。

 

そして、実感する機会がある人は少ないと思うんですが、例えば私のような素人が出演者になった場合、アフレコというのはとてもありがたい武器になるんです。

どういう事かというと、実力以上に演技がサマになって見えるということです。

理由は簡単です。

多くの場合、「演技が上手いな」と感じる要素はセリフ回しです。

いわゆる「顔芸」じゃないんです。

私たち素人役者はカメラの前で、必要最低限の動きをしてセリフを言うことで精一杯。

正直、演技なんて出来てません。

セリフはいわゆる「棒セリフ」。

これを「味」に昇華できるのは、「相棒」の水谷豊や岸部一徳だけです。

 

素人役者がセリフで「音程」を使えれば、それだけで格段に演技は上手く見えます。

アフレコ時はエネルギーを声にだけ集中できるので、その「音程」を付けやすいんです。

 

これが、素人役者がセリフをアフレコするメリットです。

 

また、アフレコ作品では、その映像に合わせた情景音も後から加えます。

必要な音が録れる場所に行って録音してきたり、自分で音を作ったりする作業は、単独でやってもかなり楽しいです。

その録音も、パソコンで編集する現在、昔とは様変わりしています。

つまり、画面を見ながらぴったりのタイミングで録音する必要が無いんです。

 

例えば

・「落ち葉のある道を歩く足音」

・「砂利の上を歩く足音」

など、昔は画面を見ながら録音する必要があったので、部屋の中に落ち葉や砂利を持ち込み、家族から顰蹙を買っていましたが、今はそんな必要がありません。

 

実際にそういう音がする場所で自分の足音を録音してきて、編集時に映像に合わせて調整すればいいからです。

この「音の収集」も楽しい作業です。

 

今回は映像に隠れがちな「音声」の重要性と工夫の楽しさを紹介しました。

 

参考になれば幸いです。

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🎧 The Importance of Sound in Film—and How to Make It Work

🎬 Sound Is Invisible, But It’s Everything

When we talk about “films,” we often focus on the visual side—camera angles, lighting, editing. But in commercial productions, the sound we take for granted is actually crafted with incredible precision and skill.

In the days of film cameras, audio was recorded separately on tape recorders. Without a dedicated sound technician, simultaneous recording wasn’t even possible. To save time, many productions skipped on-location sound entirely, adding dialogue and ambient noise later.

Film cameras also made subtle mechanical noises while rolling. In quiet scenes, you can sometimes hear that faint whir—like in the Japanese TV drama Detective Story. It’s fun to imagine the crew holding their breath to capture the perfect take.

Modern video cameras record both image and sound simultaneously—and silently. That’s a huge convenience. But there’s a catch: the microphone is built into the camera.

For documentary footage or casual recordings, that’s fine. As long as speech is audible, it works. But for narrative filmmaking, this setup falls short.

🎥 Why Sound Needs to Be Independent of the Camera

Let’s imagine a simple sequence:

  1. A wide shot of two people talking from a distance
  2. A medium shot of their full bodies, one facing away
  3. A close-up of one speaker’s face
  4. A wide shot of both walking away while talking

If you use the camera’s built-in mic for all of this, here’s what happens:

  • In the wide shots, dialogue is faint or unintelligible
  • In the medium shot, one voice is clearer than the other
  • In the close-up, the voice is crisp
  • In the final wide shot, the voices fade again

You might think, “Isn’t that realistic?” But realism isn’t the goal. If it were, films and anime that strive for authenticity would intentionally record sound this way. They don’t—because it feels unnatural to the audience.

You can’t just adjust the volume later. Boosting dialogue also boosts inconsistent ambient noise. And the sense of “distance” in the voice remains jarring.

That’s why filmmakers use boom mics, lavalier mics, and other techniques to record clean audio close to the actor’s mouth—without appearing in the shot.

🧠 Why We Underestimate Sound

Because we’re used to polished audio in finished films, we tend to overlook its importance. But poor sound instantly cheapens a production—often more than poor visuals.

Bad audio creates stress. Unlike visuals, we don’t “get used to it.” It nags at us throughout the viewing experience.

I learned this the hard way on my second film.

My first project was shot on rocky coastal terrain, standing in for a mountain setting. I knew from the start that on-location sound would be impossible, so I planned for full ADR (post-dubbed dialogue). Ironically, this helped mask the roughness of the footage.

On my second film—a more conventional drama—I tried using the camera’s mic. The result? Every cut in the video was matched by a jarring shift in sound. It screamed “choppy editing,” breaking the illusion of continuity.

Even commercial films sometimes rely on camera mics due to budget constraints. But unless it’s a deliberate stylistic choice, it usually feels cheap.

I once watched a low-budget V-cinema film starring a legendary actor. Despite his powerful performance, the poor sound made the entire production feel amateurish.

🎙️ Two Solutions for Better Sound

There are two main approaches:

  1. Use a dedicated sound crew to record clean audio on set
    • This is ideal, but time-consuming and technically demanding
    • It extends the shoot and increases costs
  2. Use ADR (Automated Dialogue Replacement)
  • This is my preferred method for indie projects
  • It allows the camera crew to focus solely on visuals
  • You can shoot without worrying about helicopters, sirens, or noisy neighbors

Some say ADR is difficult. And yes, syncing dialogue to lip movements is tricky—even seasoned actors like Kiyoshi Atsumi in It’s Tough Being a Man sometimes miss the mark.

But does that ruin the film?

Not at all. A clean, consistent soundtrack—even if slightly out of sync—is far more pleasant than noisy, inconsistent audio.

In fact, I’ve started experimenting with intentionally mismatched ADR—changing the word order from the original shoot. If the dialogue is clearly different, it feels more like a dubbed foreign film, and the mismatch becomes less distracting.

Modern editing software makes this easier than ever. You can fine-tune audio placement by looking at waveforms and adjusting timing precisely.

🎭 ADR Is a Gift for Amateur Actors

If you’re acting in your own film, ADR can be a lifesaver.

Why? Because most of what we perceive as “good acting” comes from vocal delivery—not facial expressions.

Amateur actors often struggle to perform naturally on camera. Their movements are stiff, and their lines sound flat. Only a few professionals—like Yutaka Mizutani or Ittoku Kishibe—can turn “wooden” delivery into a stylistic strength.

But if you can add vocal inflection during ADR, your performance instantly improves. You’re no longer juggling movement and speech—you can focus entirely on voice.

That’s the magic of ADR.

🌳 Sound Effects: A Joyful Solo Task

ADR also lets you add ambient sounds later. You can record footsteps on gravel, rustling leaves, or other effects separately—without needing to sync them live.

In the past, I’d bring leaves and gravel into my room to record foley, much to my family’s dismay. Now, I just record sounds outdoors and sync them during editing.

Collecting sounds is fun. Editing them is even more satisfying.

 

This article was a deep dive into the hidden power of sound in filmmaking—and the creative joy of crafting it well.

Hope it helps you make your next project sing.

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