シナリオ検討は捜査会議・刑事の筋読み式で物語を推理せよ
「面白さ」の最低条件は「辻褄合わせ」
物語映像の中には、「内容は良く分からないがなんだか面白い」という作品があります。
観客としてはそういう作品が好みということもあるでしょう。
ただ、「良く分からない」というのは本来マイナスで、それすら魅力に感じさせる理由は、別の要素、多くは映像センスの力でねじ伏せているんです。
そういう才能がある場合は、風変わりな興味深い作品が作れます。
実は私も観客としてこういう作品が結構好きだったりするので、自分でも作ってみたいと思って挑戦したこともあります。
その上でいつも痛感するのは、やはりまずはオーソドックスな形の物語を作れるようになるべきだ、ということです。
例えば、狙いで不条理な物語を作っても、映像技術をはじめ、未熟な点が多いと、単に完成度が低い未熟な作品としか見えないからです。
特に若い人は既存のエンタメストーリーのパターンにはまらない、新しい形を模索したいと思うかもしれません。
それはよく理解できます。
でも、50代半ばを過ぎると、つくづく「オーソドックスな物語の力」を痛感するんです。
オーソドックスな物語とは、奇をてらわず辻褄が合っている話と思ってください。
若いときはこの予定調和的な「よくある展開」がつまらないと感じてしまうんですが、実は「面白い映画」の多くは、本質はオーソドックスな物語で、外見の部分を真新しいものにしているだけだったりするんです。
「辻褄」は、合ってさえいれば面白いという「十分条件」ではありませんが、面白いと感じさせる前提の「必要条件」と考えた方が良いかもしれません。
辻褄はいつ合わせるべきか?
作業には「手順」というものがあります。
よく勘違いされるのが、「単純な作業は手順書に出来るが、複雑な作業は手順書に出来ない」というものです。
「私の作業は、あれこれと色んな要素を同時に考慮しながら、経験と勘で判断しつつ進める必要がある。例外も多いので手順書に落とし込みようがない」という勘違いです。
結論を言うと、全ての作業は手順書に落とし込めます。
複雑な作業であればなおさら他の人でもその作業が出来るように、手順書を作る必要があるんです。
その時に考慮するのは、作業を十分に分解することです。
「~を考慮しながら~する」というように、行動を含めたり、判断基準を曖昧にしない事が重要なんです。
- まず~する
- 次に~する
- Aがxxだったら~する
という形で、シンプルに何の面白味もなくまとめるのがポイントです。
どんなに複雑に見える作業もこの形でまとめられるんです。
物語づくりの場合も、普段から自分が興味を持っている事と何かが、頭の中で繋がってストーリーが自然と湧いてくると感じるかもしれませんが、実は無意識で何らかの手順を踏んでいるはずです。
その無意識の手順書が明確でよく出来ている人は作品を量産できるし、手順を持たない人はなかなか作品が形になりません。
機械的に進められる部分は手順書を元に効率的に進めて、出来るだけ多くのエネルギーを、作家性が色濃く出る「プラスαの演出的要素」に注ぎたいとは思いませんか?
問題は辻褄合わせをどの時点で行うかです。
私は一つのやり方として、初めは辻褄を考えずに楽しく大風呂敷を広げて、その後で辻褄合わせという手順に入ることを提案します。
ゼロから物語を作るにはエネルギーが必要で、なかなか大変です。
辻褄合わせも考慮しながらやろうとすると前に進めないんです。
やはり楽しいのは
- こういう場面があると良いよね
- ここでこういう展開になるとハラハラするよね
- こんな人を登場させたい
というように、「使いたい要素」を先に出して、それを組み合わせて話を作る、というのが、少なくとも私の好みなんです。
使いたい要素を組み合わせて一応のストーリーにした後の段階で、次は辻褄合わせだけに集中する、という切り替えが作業としても効率が良いと思われます。
手順としては
- 展開が唐突に思えるところをピックアップする
- ピックアップした箇所に隠された要素を想像する(筋読み)
という項目を後ろに加えるわけです。
刑事の推理力で辻褄を合わせる
作りたい場面からスタートする場合、創作のモチベーションは上がるんですが、どうしても「物語の繋がり」が不自然になりがちです。
ここでストーリーを見直すわけですが、客観的にアドバイスを貰ったりすると、
「むしろこの物語にするなら、怪物は恐竜の生き残りではなくて、悪者が作ったロボットだった、という設定にしたら?」
とか
「主人公の職業は刑事ではなくスーパーの店長にした方が面白いんじゃない?」
とか、大前提を変えたり、そもそも自分の創作の動機になっている要素が無くなってしまうような提案をされることがあるんです。
確かにその方が面白い作品になるのかもしれませんが、私は、自分がやりたかった要素が無くなるのであれば、その作品を完成させる意欲は湧きません。
そこで活用できそうだと思うのが、刑事の推理「筋読み」なんです。
ドラマなどで刑事同士で「お前の筋読みを聞かせろ」みたいな場面を良く見ます。
- 事実として起きた事件
- 関係者
という要素を並べて、それがどういう経緯で起きたのか、辻褄の合うストーリーを想像するというものです。
それが正しそうな場合、想像部分を裏付けるような証拠を集めて物語を立証していくわけですが、このやり方の良い所は「選択肢が限られる」ということです。
- 新たな関係者の登場
- 新たな事件の発生
はあり得ますが、起きてしまった事件の内容を変更するという選択肢はありません。
創作活動でこの「選択肢を絞る」というのはとても大事なんです。
正解の可能性がありすぎると収拾がつかないからです。
その点、この「筋読み法」だと、「やりたい場面」は変更しません。
人物の設定も変えません。
ただ、現状のストーリーだと、
- この人物の行動は唐突に思える
- この場面の登場が唐突に見える
という「唐突さ」が残りがちです。
そこを、刑事になったつもりで「どうしてそうなったか」という「繋がり部分」を想像するのがこのやり方です。
「唐突さ」は「つまらない」に直結する要素ですから、最初はこじつけのような形でもいいので「どうしてそうなったか」の説明が付く理由を考えるんです。
刑事になりきって「実際はどうしてだったんだろう?」と考えると、他人事のような感覚になって、アイデアを出しやすいことに気付きました。
一見、唐突に見える主人公の行動も、実は以前にこういう出来事があったことの後悔から生まれている、というような事情が想像できれば、当初の想定を超えた人間ドラマを発見できる可能性が膨らむんです。
私は「物語づくり」において、この「筋読み工程」はかなり楽しい作業になるのではないかと期待しています。
参考になれば幸いです。
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