疑似ドキュメンタリー映画の魅力「トロール・ハンター」
作り込みを最低限にしてリアリティーを増す手法
「トロール・ハンター」は、2010年のノルウェーの擬似ドキュメンタリー(モキュメンタリー)映画です。
簡単なあらすじを紹介すると、ノルウェー政府に雇われてトロールを狩りつつ、その存在を隠蔽しているトロール・ハンターを半信半疑で取材してドキュメンタリー映画を撮影している学生がトロールに遭遇するという話です。
「ブレアウィッチ・プロジェクト」の成功から疑似ドキュメンタリー形式の映画はかなり量産されてまして、中には面白いものもあるんですが、私はこの「トロール・ハンター」が群を抜いてよく出来ていると思います。
「CGがいかにもCG」というような評価も見ますが、そういう表面的なレベルの話ではなく、「これぞ自主映画が見習うべき大法螺の吹き方」だと思うんです。
トロールと呼ばれる、色々な種類の怪物がいて、それがなかなか姿を現さないんですが、トロールハンターは目の前の風景のそこかしこに「トロールの痕跡」を見つけるんです。
折れた大木があれば、「トロールがこの方向からなぎ倒した」と分かるし、大きな岩が動いていないことから「最近はここを通っていない」と分かるわけです。
その解説を聞いていると、言っている事はまるで子供のごっこ遊びの中の妄想なんですが、大の大人が大真面目に語ることで、だんだんもっともらしく聞こえて来るんです。
もちろん観客としてはトロールの存在を信じてませんから、その妄想じみた話しぶりを楽しく聞いているんですが、私は途中、うっかりと「ああこれは撮影のために木を倒したんだろうな。よくやったなあ」などと騙されてしまいました。
恐らく、撮影のために木を倒したり、地面に何かの痕を付けたりということは一切していなくて、現場の風景に合わせて「これはトロールの仕業だ」とこじつけているだけなんです。
それに気付いた時の「やられた感」が実に痛快で、「これぞ映画の楽しい嘘」と嬉しくなりました。
残念ながら私の周りではこの映画を面白がる人は少ないです。
「過小評価されているなあ」と感じますが、まあ、好みはそれぞれなので仕方ありません。
懸念事項があるとすれば、私はこの映画がとても秀逸と思っていて、そんな私が面白いはずと思って作った映画は他の人に全く理解されない可能性がある、ということです。
ただそれも、私は第一に「自分が観たい作品を作る」のが目的ですから、理解されなくても仕方ないと諦めてます。
実在する物をどう解釈するか・子供の頃のごっこ遊びを思い出せ
この「トロール・ハンター」が参考になる点は、作り込みを最低限に抑えることで、観客にリアリティーを感じさせていることです。
私たちは創作する際、ついつい1から10まで世界を自分の手で作り上げようとしてしまいます。
小説やコミック、舞台などはもちろん、作者が全てを作り上げる必要があるんですが、映像作品は「実際にそこにあるもの」をそのまま利用できるんです。
これを最大限に利用しない手はありません。
特に、美術面でお金を掛けられない低予算映画では、自然な環境や実際の風景を活用することで、物語の信憑性を高めることを意識すべきだと思います。
その時に有効なのが、子供時代の「探検ごっこ遊び」の時に使っていた妄想力です。
地面の窪みを怪物の足跡に見立てたり、草むらの中のスジを獣道に見立てたり、道路に書かれた何かの数字をひみつの暗号に見立てたり、というように、「そこにあるもの」だけを使って物語を膨らませていく訓練としても、「トロール・ハンター」を真似た映画を作るのは楽しい気がします。
それは全て「仕込み」で嘘を作りこむより予算の節約に繋がるのはもちろんですが、何よりも、半分は本当にある現状なんですから、リアリティーがあるわけです。
私はドキュメンタリー的な要素を入れた探検シリーズを作っているので分かりますが、実際にごっこ遊びモードに入ると、目にするものを容易にこじつけやすくなるんです。
古代遺跡に見立てた石切り場で、小人が描いた壁画を探している芝居をしていると、なんだか本当にどこかに壁画があるのではないかという錯覚が起きてきて楽しかったのを憶えています。
この感覚は脳の仕組みに由来するものなんだろうと思いますが、これをぜひ利用すべきです。
POVはもう古い・徹底してカメラマンの存在を消す提案
映画「トロール・ハンター」の映像は、100%、ドキュメンタリーのカメラマンが撮影した映像しか使っていない設定です。
ですから、いわゆる「神の視点」というような映像は無いんです。
実はこの映像にもすごく凝っていて、映画の前半は学生カメラマンが撮影している、という設定で、後半になると事情をよく知らないプロのカメラマンに交代する、という設定になっているのですが、これが非常にリアルなんです。
前半は学生カメラマンとは言っても、撮影の勉強もしている設定なので、全くの素人のような映像の乱れがあるわけではありません。
十分に「観ていられる映像」なんですが、後半のプロの映像になると、安定感が段違いなんです。
撮影しながら対象を探すにしても余計な迷いがない点など、とてもリアルなんです。
とかく疑似ドキュメンタリーものの作品では、カメラが不安定に荒々しく乱れたりすることで「リアリティ」を表現しようとしますが、「トロール・ハンター」ではアマチュアの映像とプロの映像の差を表現するあたり、「レベルの高い演出だな」と感心します。
それでは、もし私たちが疑似ドキュメンタリー形式で作品を作る場合は、カメラの位置づけをどうするか、という課題があります。
一つには、これまでの疑似ドキュメンタリーに多用されてきた、POVという手法が考えられます。
つまり、「これはカメラマンが取った映像ですよ」という宣言をしてしまって、構図の不自然さも、映像の乱れも全てリアリティだと言い張ってしまうやりかたです。
それももちろん使える手ではあるんですが、私は観客として個人的には、その手法にはもう飽きています。
それと重要な事として、手持ちカメラや体に取り付けたウェアラブルカメラのようなカメラで撮影した映像は、見ていて疲れるんです。
画面に酔ってしまって見ていられない、という人も多くいます。
そこで私は、いっそのこと、設定上、カメラマンの存在を全く無くして、つまりごく普通の映画と同じ撮り方で疑似ドキュメンタリーを作ってはどうかと思うんです。
多くの疑似ドキュメンタリーは「ドキュメンタリー番組を作っています」という状況が大前提にありますが、その設定を無くして、「大真面目に何かを追い求めている人」を神の視点からこっそり見ているというオーソドックスなやり方で物語を進めるという事です。
実は、やや反則気味ではありますが、疑似ドキュメンタリーには、物語を展開するうえで、非常に有利というか、特殊な特徴があります。
それは、「無駄も味になる」ということです。
完全なフィクションのドラマの場合、基本的に全ての要素に無駄がありません。
無駄は無い方が良いとされます。
思わせぶりな行動をしていた場合、それが何かの伏線になっていないと「カットすべき無駄なシーン」と認識されます。
でも、ドキュメンタリーはちょっと違います。
その時にこういう事をした、という記録の積み重ねがドキュメンタリーなので、最終的には物語進行に貢献していない要素も、リアルな状況の表現として有効です。
疑似ドキュメンタリーにおいても、例えば撮影時に起きたちょっとした出来事を利用して、即興的に芝居を膨らませようとして、結果、上手く収拾が付かなかったとしても、逆にリアリティーが感じられる、ということが多いんです。
もちろん、そのためにはカメラマンも演技者も即興的に行動できる必要があります。
これは本来、とても難しい、レベルの高い実力が必要にはなるんですが、ここで自主映画ならではの邪道な裏技を使ってください。
それは、演技者であれば「演技を捨てる」ということです。
実は、素人役者がプロの役者に最も近く見える、つまり上手な演技に「見える」方法は、全く演技をせずに淡々と行動することだったりします。
最大の難点はセリフ回しなんですが、理想は「誰に何を伝えるか」だけを考えて、言い回しは考えずに話してしまうことです。
通常、ドラマの中では「ドラマ的な言い回し」があった方がそれっぽく聞こえて楽しいのですが、ドキュメンタリータッチの作品では、ドラマ的言い回しはかえって不自然に聞こえるので、むしろ素人役者の方がリアルに見えたりします。
カメラマンも絵コンテに従って1カットずつ丁寧に撮る、という感覚ではいけません。
動物園や運動会の撮影のように、早目早目にカメラを回すようにして、何か動きがあったら邪魔をしないように、かつ、行動が分かりやすい撮影位置に回り込み、必要な情報を記録するようにします。
このスキルが身に付くと、ドキュメンタリー撮影が出来るようになるでしょうから、メイキング撮影カメラマンなどの仕事が来るかもしれません。
ドキュメンタリーカメラマンが目指すのは、演じている人にも観客にも、カメラマンの存在を感じさせない事です。
現場では、とにかく常に何かを撮影している形にして、出演者に「今撮られている」という感覚を麻痺してもらうしかありません。
観客に対してカメラの存在を消すためには、カッコいいと思われる映像ではなくて、とにかくストレスの少ない映像、つまり、
- 映像の乱れが少ないこと
- 見たいものが見えていること
であることが大事です。
私は普段、「どうすれば面白い物語を創作できるのか?」ということばかり考えています。
疑似ドキュメンタリー作品は、一見、作り込んだ物語創作を否定するジャンルに見えるかもしれませんが、ぶっつけ本番でしか生まれない、偶然の要素の魅力などを感じることも、物語創作をする上での刺激や発見になると思うんです。
慣れれば、最も早く作品が完成させられる可能性がある、この疑似ドキュメンタリー映画製作を一度は試してみてはいかがでしょうか?
参考になれば幸いです。
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🎥 The Charm of Mockumentary Filmmaking: Lessons from Trollhunter
🎭 Minimal Setup, Maximum Believability
Trollhunter is a 2010 Norwegian mockumentary that blends folklore, deadpan humor, and documentary-style realism. The premise: a group of student filmmakers investigates a mysterious man hired by the Norwegian government to hunt trolls and cover up their existence. What begins as skeptical curiosity turns into a wild encounter with creatures straight out of myth.
Since the success of The Blair Witch Project, mockumentaries have become a popular format—some brilliant, others forgettable. But Trollhunter stands out as a masterclass in how to tell a big story with minimal fabrication.
Yes, some viewers say “the CGI looks like CGI,” but that’s missing the point. The film isn’t trying to fool you with hyperreal effects—it’s showing how to spin a grand, cinematic lie with just enough conviction to make you lean in.
🐾 The Art of Suggestion
The trolls in Trollhunter rarely appear outright. Instead, the hunter points to broken trees, scattered rocks, and subtle environmental clues. “This tree was knocked down from the east,” he says. “This boulder hasn’t moved—no troll passed here recently.”
It’s pure childhood imagination—like pretending a dent in the ground is a monster’s footprint. But because it’s delivered with adult seriousness, it starts to feel plausible. At one point, I even caught myself thinking, “Nice job faking that fallen tree for the shot.” But then I realized: they probably didn’t fake anything. They just interpreted the existing landscape as evidence.
That moment of realization—of being playfully duped—is what makes Trollhunter so delightful. It’s the joy of cinematic deception done right.
🧠 Underappreciated, But Brilliant
Sadly, few people around me seem to appreciate this film. I think it’s underrated. But tastes vary, and that’s okay.
What concerns me more is this: if I make a film inspired by Trollhunter, will anyone else get it? Maybe not. But I’ve made peace with that. My goal is to create the kind of work I want to watch—even if it’s misunderstood.
🌍 Use What’s Already There
One of Trollhunter’s greatest lessons is that realism doesn’t require elaborate sets. In novels, comics, and theater, creators must build everything from scratch. But in film, you can use what’s already in the world.
For low-budget productions, this is gold. Natural environments and real locations can lend authenticity without costing a dime. The trick is to interpret them creatively—just like we did as kids playing pretend.
Think of:
- A patch of flattened grass as a creature’s trail
- A random number on a road as a secret code
- A quarry as an ancient ruin
This kind of imaginative framing is not only budget-friendly—it’s inherently believable.
🧒 Childhood Imagination as a Filmmaking Tool
I’ve made documentary-style adventure films myself, and I’ve felt how easily the mind slips into “make-believe mode.” Once, while pretending to search for ancient cave paintings in a quarry, I genuinely started to believe they might be there. That illusion is powerful—and worth harnessing.
🎥 Rethinking the Camera’s Role
Trollhunter sticks to a strict format: every shot is supposedly captured by the documentary crew. There’s no omniscient “cinematic” perspective.
What’s clever is how the film transitions from student-shot footage to professional camerawork. Early scenes are stable but slightly rough—believable for a film student. Later, when a pro takes over, the footage becomes noticeably smoother and more confident. That contrast adds realism without resorting to shaky chaos.
Many mockumentaries rely on erratic handheld footage to simulate authenticity. But Trollhunter shows that subtle differences in camera style can be more effective—and less exhausting for viewers.
🚫 Moving Beyond POV
The POV approach—“this is what the cameraman saw”—has been overused. It often leads to disorienting visuals that make audiences feel motion-sick.
So here’s a radical idea: ditch the cameraman entirely.
Instead of pretending to shoot a documentary, why not film a mockumentary like a regular movie? Let the audience observe the characters from a neutral, invisible perspective. It’s a bit of a cheat, but it opens up new possibilities.
🧂 Embracing the “Flavor of Waste”
In traditional fiction, every scene must serve a purpose. Anything that doesn’t advance the plot is considered waste.
But in documentaries—and mockumentaries—waste can be flavor.
Moments that don’t lead anywhere still feel real. A failed improvisation, a spontaneous reaction, even a scene that fizzles out—these can add texture and authenticity.
To pull this off, actors and camera operators need improvisational instincts. That’s hard. But here’s a shortcut for indie filmmakers:
- Actors: Stop acting. Just behave naturally.
- Dialogue: Focus on what needs to be communicated, not how it’s phrased.
- Camerawork: Don’t follow a storyboard rigidly. React like you’re filming a zoo or a sports event—anticipate movement, stay out of the way, and capture what matters.
This approach can even lead to real documentary gigs, like behind-the-scenes shoots. The goal is to make the camera invisible—to both the actors and the audience.
📺 Less Style, More Clarity
Forget stylish shots. What matters is:
- Minimal visual disruption
- Clear visibility of what the audience wants to see
That’s what makes mockumentary footage feel real.
✨ The Joy of Accidental Discovery
I’m always thinking about how to tell better stories. Mockumentaries might seem like the opposite of crafted narrative, but they offer something unique: the thrill of spontaneity.
If you’re looking for a fast, flexible way to create compelling content, mockumentary filmmaking might be worth a try.
Hope this sparks something useful.