生成AIの間違った使い方・そこを自動化して楽しいの?
動画の生成AIは気軽なお遊び映像づくりには最適
最近では、SNSに生成AIの短い動画を投稿する人が増えており、驚くほど高クオリティの動画を目にする機会も多くなってきました。
10年から20年前であれば、商業映画の中で「見せ場」として使用されていてもおかしくないようなクオリティの映像が、今では簡単にパソコンやスマートフォンで作られている時代です。
生成AIの動画は、「プロンプト」と呼ばれる加工命令文を入力することで、AIがそれに基づいてイメージの再現を試み、加工を行なって動画が完成するという仕組みが用いられています。
本来なら動かないはずの写真が動き出したり、ペットがまるで人間のような動きをして、アニメーション映画のキャラクターのように演技をする映像を作れるような時代になりました。
このような物作り全体を「創作」という表現でまとめた場合、新しい創作の入り口としてAIを活用できることは、非常に素晴らしいことだと思います。
専門的な知識やスキルを持たない人が、面白い映像を作ることができるのは、とても楽しいことでもあります。
しかし、AIが登場する以前から創作活動を行っていた人々の中には、AIの活用拡大について非常に懸念を抱いている方々も少なからず存在します。
映画は生成AIで作られるようになる?
映画が生成AIによって作られる時代が来るとよく言われます。
確かに、生成AI技術は急速に進化し、新しいソフトウェアが次々と開発されています。
これまでは、スタッフが知恵を絞り、多くの撮影技術や編集技術を駆使して、特定の空間やイメージを再現してきました。
しかし、生成AI技術があれば、「こんなイメージの映像が欲しい」という文章を入力するだけでそのイメージが実現するのです。
こうした技術進歩に対して「これから映画はこれで十分ではないか」という声も多く聞かれるのです。
同じような懸念はCGが登場したときにも出ました。
1980年代の終わりにアメリカで公開された映画『バットマン』では、様々な場面で非常にリアルなCG映像が使われていました。
この映画では一部、俳優の演技部分さえもCGで作られ、その部分が他の実写部分と自然に繋がる形で映像化されました。
ところが、俳優に無断でCGの映像を作成したことが訴訟問題に発展しました。
特に、リアリティを出すためにCGのキャラクターに演技としての仕草を加えたことが問題視されたんです。
こうしたCGの使い方を許すと「俳優という職業がなくなるのではないか」と懸念されたわけです。
しかし実際は、その後、映画制作において俳優を全く使わずにCGキャラクターのみで制作するような作品が主流になることはありませんでした。
私はこれと同じように、生成AI技術が映画制作に完全に取って代わることはないと考えています。
その理由として、「限界効用」という経済学の概念が挙げられます。
暑い日に飲む一杯目のビールは非常に美味しく感じられますが、二杯目、三杯目と進むにつれてその美味しさは徐々に感じられなくなる、という話です。
同じことがCGや生成AIの映像についても言えるのです。
私は『ジュラシック・パーク』を初めて観たときの衝撃を覚えています。
まるで生きている恐竜がそこにいるかのようで、本当に驚かされました。
しかし、数年後、続編『ロストワールド』を観たときには、CGの鮮度が薄れ、全く新鮮味を感じなくなっていました。
同様の現象は現在の生成AIでも起こりつつあります。
生成AIによる映画制作が主流にならない、ビジネス的な理由もあります。たとえば、アカデミー賞を受賞した『ゴジラ -1.0』は低予算で制作されましたが、同じ映画をアメリカで制作するとその予算は10倍にもなると言われています。
これは同じ映画を作る際に、アメリカでは10倍の人を養える企画であるとも言えるわけです。
つまり、生成AIによって制作費を削減できたとしても、それによって産業全体が縮小する可能性が高いので、業界自体がそれを望まないはずなんです。
以上のような理由から、生成AIが完全に映画制作を支配する時代にはならないと私は考えています。
ただし、生成AIは映画制作の中で役立つツールとして進化し、さまざまな場面で活用されていくでしょう。
AIは使いこなすべき便利な道具
私はいろんな場面で「AIは所詮道具である」と言っています。
これは決して、CGやAIを毛嫌いするという意味ではなく、「道具として上手く活用しましょう」という提案です。
従来の手作業、いわゆるアナログ作業と、AIを使った作業を組み合わせることが最適な選択だと考えています。
この考え方は、特撮の活用方法とも通じるところがあると思います。
特撮技術は非常に面白い分野であり、CGも特撮の一部と言えます。
例えば、昔の特撮映画では、俳優や実物大のものを撮影した映像と、ミニチュアや人形などの映像を組み合わせて制作していました。
現在では、実写映像とCG映像を組み合わせることが主流となっています。
ここで重要なのは、CG部分を補佐的に使うことです。
そうすることで、実写の魅力とCGの良さを最大限に引き出すことができます。
例えば、船のミニチュアが水面を走る映像を撮影すると、どうしてもミニチュア感が出てしまうことがあります。
その際、水しぶきだけをCGで作り、合成する方法が考えられます。
このようなやり方であれば、リアリティを保ちながらもミニチュアという現物の魅力を活かすことができ、結果として非常に効果的です。
ですが、この使い方を誤ると、CGの「限界効用」と呼ばれる問題に直面し、その映像に飽きてしまうことがあります。
特にAIに「作業のどの部分を任せるか」が重要になってきます。
例えば、料理が好きで、その楽しさから商売を始めた人がいたとします。
そこで、人手不足を解消するためにロボットを導入すると決めた場合、
料理は自分で行い、皿洗いのような面倒な作業をロボットに任せるのが賢明でしょう。
しかし、もし間違った使い方をすると、ロボットに料理を任せ、自分が皿洗いをしてしまって「自分は料理が楽しいから始めたのに、なぜ皿洗いをしているのだろう」と疑問を抱くことになるでしょう。
生成AIによるCG映像を使って映画が作れる状況もこれと似たようなものです。
本来楽しい部分をAIに任せてしまって意味があるのでしょうか?
結論としては、AIは面倒な部分を手伝わせるのが最も良い活用方法だということです。
例えば、シナリオのアイデア出しの場面で、適切なシーンやつなぎのアイデアを考える際、繰り返しダメ出しをする必要があります。
一人で考えるのは負担が大きく、他人に協力してもらうと気を使って頼みづらいこともあります。
その点、AIであれば気兼ねなくアイデア出しを依頼でき、何度でもやり取りが可能です。
AIは統計的な推測でアイデアを出しているだけなので、「驚くほど斬新なアイデアが出てくる」というわけではありません。
しかし、人間であれば控えてしまうような平凡なアイデアも気にせず提示してくれるため、それを目にすることで新しい発想が生まれることがあります。
このような「壁打ち」と呼ばれる方法は、直接的に革新的なアイデアを生まなくても、自分自身が新しい発想をするきっかけとなるため、非常に助かるのです。
また、作業においては個人で行うか、共同作業で行うかという2つの選択肢があります。
共同作業のメリットは、得意不得意に合わせて作業を分担できることで、質の高い成果を効率的に得られる点です。
一方で個人作業では、苦手な部分まで自分で行わなければならない場合もあります。
ここにAIを導入すると、実質的には個人作業でありながら、共同作業のメリットを一部享受することが可能になります。
例えば、映像制作において、「こういう映像が作りたい」と思ったとき、生成AIを活用することで複雑な技術や知識がなくても、手軽に目標を達成することができます。
もちろん、最初から簡単に成功するわけではないでしょうが、試行錯誤を繰り返すことで偶然にも思い描いた映像が完成することもあります。
AIを補助的に使うことで、視聴者から「AI技術ってすごいね」と言われるのではなく、「AIの使い方がいいね」といった正しい評価を得られる作品制作が可能になるのです。
生成AIは素晴らしい技術ではありますが、それによって創作の楽しさを奪われては本末転倒です。
この道具を上手く活用し、創作活動をより楽しく充実させていきましょう。
参考になれば幸いです。
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