430_実用的邪道映画術・現場でのセリフ読み
自主映画、DIY映画の撮影時に音声をどうするかというのは選択肢がいくつかあります。
いわゆる映画の現場作業自体を体験したい、楽しみたいということであれば、録音担当の人が棒の先にマイクをつけたものを構えて録音します。
撮影の最中、映像にマイクが映り込まないように、役者の頭の上の方にマイクを掲げているあれです。
この「同時録音」は作業自体、いかにも映画撮影現場の雰囲気も味わえるし、いくつかの条件を満たすのであれば、メリットは大きいんです。
条件とは、
・マイク担当を配置できるほど人手があること
・役者の演技が達者なこと
です。
人手があることは文字通りで、出演者以外のスタッフが監督兼カメラマンの一人しかいなければ、マイクマンは使えない訳です。
演技が上手い人に出演してもらえた場合は、同時録音の効果が大きいと言えます。
その本番の時の演技が素晴らしいので、その時のセリフまわしも一緒に録音しておきたいんです。
そして大抵の場合、同時録音はその音声をカメラに入力して、映像と一緒に記録しますから、映像の編集作業をすればほぼ自動的に音声も編集できることになるんです。
つまり、編集の手間が減ることになります。
念のために言っておきますが、動画の撮影時にカメラに入るセリフの音声は、ほとんどの場合、作品の本編には使えません。
映像は、被写体の近くから撮ったり、背後から撮ったり、少し離れて撮ったりというように、いろんな種類を組み合わせますが、それに伴ってセリフは大きさもクリアさもバラバラに録音されます。
実は映画やドラマでは、映像は細かく切り替わってもセリフの音声は一定の音量・クリアさで繋がって聞こえないと、不自然で見ていられない、とてもチープなイメージになってしまうんです。
私が低予算作品で推奨するのは、もう一つの音声の収録方法「アフレコ」です。
アフレコは現場ではセリフの録音はしません。
撮影時にバラバラの音質で入っている声に合わせる形で、後日、綺麗な音声でセリフの録音をして、元の音と入れ替える手法です。
とても上手く行くと、同時録音と区別が付かない状態になりますし、やや不自然だとしても、音質さえ悪くなければ映画の「吹き替え版」のような感じの観やすい(聞きやすい)映像になるんです。
私がこれを推奨する一番大きな理由は、撮影がかなり早く済むからです。
1日で撮れる分量が増えると、スケジュール全体が短くなるというのは大きな大きなメリットです。
それから2つ目の理由として、アマチュア役者の拙い演技を、アフレコで補えることもメリットです。
表面的な演技の良し悪しは「セリフ回し」の音程で差が付いたりしますから、撮影時は棒読みセリフだったとしても、アフレコで音程の抑揚を変えただけで、演技が様になったりするんです。
一方で、アフレコの大きなデメリットは、そのためにわざわざ別の時間を費やさなければいけないということです。
私の過去の作品で、ちょっと理由があって再編集をしたものがあります。
この作品は、当時(20年前)、舞台のお芝居を撮影している中で知り合った、演技が達者な役者さんたちに出てもらえることになって、私としては珍しく同時録音で撮影したんです。
でも、全てのシーンで同時録音が出来ているかというとそうではなくて、撮影現場が非常にうるさい場合などは、ほとんど声が聞き取れなかったりするわけです。
そんなシーンは「アフレコ」を前提に撮影しました。
ところが、元々忙しい役者さんたちの都合を無理やりつけてもらって、そのスケジュールの合間の2、3ヶ月で無理やり撮影をしたので、「編集が終わってからアフレコのためにもう一回来てください」ということができなかったんです。
アフレコができずにセリフが聞き取れない場面がいくつか残ってしまったので、そんな場面については声質がちょっと似ている別の役者さんに、ものまねをしてもらいながらアフレコしました。
こんな作業で完成させられたのは例外中の例外です。
そして実は別人によるアフレコとは別に、もう一つ使った音源があるんです。
それは、いくつかのシーンだけ行った、事前のセリフ合せの時の録音音源です。
例えば手紙を朗読している声などは、この時の音声を使っています。
本格的に映画を作る際は、出演者を一堂に集めて「セリフ合せ」をやったりします。
「そこはこういう感情にしてください」というような演技プランもそこで確認をします。
もしそれが出来るのであれば、単なるイメージの確認の為だけでなく、セリフ音源のバックアップとして、綺麗な音質の状態で録音しておくことが有効だなと思いました。
ただ、私が作るようなDIY映画、自主映画では、事前にみんなが顔を合わせてセリフ合わせをする、スケジュール的な余裕がありません。
それでも、メインの出演者は、その人のバラバラのセリフだけでも録音しておくと良いと思います。
もしもの時のバックアップという意味です。
それから、これは普段私もやっていないので、単なるアイデアですが、「今日はこの場面を撮影します」という撮影の前に、セリフの確認を兼ねて通しで綺麗に録音しておいてはどうかと思います。
本当は撮影後の方が本番の演技を再現出来て良いのですが、大抵は撮影後はバタバタしてしまうので、撮影前がいいかもしれません。
もちろん、アフレコは口が合っていないとダメなんですが、これは意外と、本人の台詞回しには合うんです。
パソコンを使って編集をしますから、実際に撮影した時のセリフ(音質が悪い)の波形に合わせて、別撮りしたセリフ(音質が良い)を合わせることが比較的できます。
当然これは演技論的には全然おかしな話で、「そんなんじゃ魂がこもってないよ」という言い方はいくらでもできるんですけれども、
・セリフ音声が入ってない
・周りがうるさくて声が聞こえない
・全くの別人がアフレコで当てている
などというよりは、本人が別撮りした声がなんとなく口に合っていて、そこにはまっているという方が、はるかに「マシ」だと思いませんか?
ですから、これはもちろん次善策ですけれども、用意しておくと有効だなと思います。
私は今後はこれを実践してみます。
さらに、この事前のセリフ録音の活用法を考えてみます。
本番中の同時録音が上手く行ったり、アフレコ作業をしっかりできた場合は、この事前の録音音声は使わないことになるんですが、これを無駄にしないアイデアがあります。
この事前録音したセリフを使って、例えばオーディオドラマを別に作ろうという計画を盛り込んでおけば、おそらく映画の完成よりも早くオーディオドラマが完成します。
これはこれでコンテンツとして魅力が出るんじゃないかと思います。
「オーディオドラマ用なんです」という前提で録音をすれば、その録音作業自体もおざなりにはならずに、意味のある作業としてできるんじゃないか、そしていざというときのバックアップ音源も確保できる、というアイデアです。
ちなみに今回紹介した長編コメディ「弥生の風」は「男はつらいよ」へのオマージュ作品です。
公開していますので、宜しければご覧ください。
参考になれば幸いです。
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