実は敷居は低い?自主映画の世界戦略


私が自主映画を作り始めたのは、1980年代の後半です。
家庭用のビデオが非常に普及し始めて、映像作りが個人でもできるようになってきた頃です。
その当時、私が仲間と一緒に見た夢というのがあって、それはレンタルビデオの棚に「自主映画」というコーナーを作らせて、そこに自分たちが作った自主映画が並んでいる状態。
それを実現させていたのが後に知った、レンタルビデオ用映画専門のメーカー「アサイラム」です。
超低予算で年間に12本くらい映画を作るというような、馬鹿げた量産体制をとっている会社です。
倉庫のような場所をオフィスにしていて、そこには事務所のほかに、いろんな撮影セットがあるんです。
ベニヤ板とかダンボールで作ったようなチープなセットですが、例えば撮り方によってはコックピットに見えないこともないと。
SF作品では宇宙船のコクピットになるし、パニック映画では旅客機のコックピットとしても使う。
会議室にアメリカの国旗を立てかければ、大統領執務室にもなるという、子供のごっこ遊びのような撮影場所を社内に持っているんです。

量産した作品をどうやって販売するかがアサイラムというメーカーの一番の強みなんですが、世界中に販売網があるんです。
それは世界中のレンタルビデオ店です。
店では回転率の高い作品を望んでいますから、すでにファンが確立しているアサイラムの作品は大歓迎なわけです。
正直、アサイラム映画のレベルは高いとは言えません。
それでも独特の大風呂敷の広げ方に中毒性があって、癖になるんでしょう。
友達同士でアラを突っ込みながら見て、「ああ、馬鹿馬鹿しかった」ということで、次の新作もまた同じように借りるというファンがたくさんいるというわけです。

時代が流れて、台頭しているのが配信サービスですが、アサイラムは独自の配信システムを作って、相変わらずファンが喜ぶモンスターシリーズなどを作り続けています。
作品の品質はともかくとして、このアサイラムの生産力の強さ、販売力の強さは魅力で、見習うところはたくさんあると思います。

私が何十年か前に夢見た、自分の作品の市場を世界規模に広げたいという状況は、今では夢物語では無いんです。
インターネットを利用することで、単に世界中の人に無料で作品を見せるだけでなく、レンタルビデオのように料金をとる事も可能です。

私が以前、実験的に挑戦したアマゾンプライムの活用もその一つです。
アマゾンのプライムビデオは私も契約しているので、よく映画を見ます。
あまり知られていませんが、実は私たちのようなアマチュアが作った映画も、プライムビデオとしてそこに並べることができるんです。
それはアマゾンの電子書籍出版とよく似ています。
手続きもほぼ同じです。

所定の手続きとチェックを経て「OK」ということになれば、そこで販売が始まります。
1回の視聴でいくらという値段も付けられますし、プライム会員なら見放題という設定にもなります。
レンタルされた回数や視聴時間に応じて、その発信者にはお金が入ってくるという仕組みを、私たちも利用できるんです。
実際、何年も前にはなりますが、テスト的に自分が作った作品をアップして公開してみました。

ただアマゾンビデオは、YouTube動画のように「何でもいいからアップロードしてください」と言う姿勢ではないんです。
レベルの低い作品をアップロードされると、アマゾンとしても信用が下がってしまうわけです。
だから「一定の品質はクリアしてください」という制約がある。
それから、基本的には長編作品が欲しい。
画質をはじめとしてクオリティも高いことが望まれる。
音が悪いということももちろん減点対象です。
アップロードをした時点で「これは条件を満たしてません」ということで弾かれちゃうんです。

アップロード後も、著しく人気がないもの、誰からも見られないものは削除されます。
それらはサーバーを占拠しているだけアマゾンにとっては無駄ですから当然です。
私がテスト的にアップした作品のうち、今残っているのはモンスター映画のパロディーのようなショートムービーの英語版だけです。
アメリカ在住の人のみ見られる、という設定で、「プライム会員なら見放題」という設定から「見たいのであればレンタル料金を払ってください」というカテゴリーに変わっています。
この辺はアマゾンの判断で変わっていくんだと思います。

そういった制約は多いんですけれども、アマゾンという巨大なシステムを利用した、このプライムビデオという可能性は意識したいところです。

興味がある方のために、私が実際にアップロードしたときの体験を少し話します。
動画データをアップすると、まず「どこで公開するのか」という市場の選択肢が初めにあります。
一つの動画に対して、「これは日本市場だけで見せます」とか「アメリカ市場」あるいは「ヨーロッパ市場」で公開するのかということを選択するんですね。
これは何年か前の情報なので、少し変わっているかもしれません。

一番簡単なのは日本市場にだけ出しますという設定なんですが、これには重大な問題があります。
ご存じかどうかはわかりませんが、アマゾンのプライム会員の年会費は、日本は世界基準から見ると格安なんです。
アマゾンからみると日本市場はお金にならないんです。
そういうことも当然関係しているんでしょうが、日本市場を設定すると、他のアメリカ、ヨーロッパ市場で公開した場合と比べて、見放題で発生する料金が格安なんです。
もしかしたら10分の1ぐらいかもしれません。

日本以外の世界市場を目指そうとすると、作品にしっかりと字幕が入っていないといけません。
これは動画とは別にファイルを準備して、アップロードする必要があります。
当時の私は、作品を一旦、YouTubeにアップして自動で字幕を生成し、そのデータを書き出してから日本語部分を英語に打ち換えていました。
この字幕作成はかなり面倒です。
実際にはセリフ以外の字幕も必要になります。
特に意味をなさない声に対して字幕を省略すると、「この部分の字幕が抜けています」とエラーになります。
セリフがない無音のシーンには「無音」というような字幕テロップを入れたり、不気味な曲が流れ始めるシーンでは「不気味な曲が流れる」というテロップも入れなきゃいけないんです。
これはなぜかというと、アメリカ、ヨーロッパでは、耳が聞こえない人向けの配慮が条件だからです。
字幕は世界標準語として英語を使えばいいでしょう。
私は英語ができませんから、苦労して機械翻訳をして作ってみたわけですが、実際にはどこまで正しい英語になっているか怪しいところです。

アップロード後、どれだけお金になったかということを先に言うと、一番多い時でも、1か月100円くらいにしかなりませんでした。
ファンもゼロの状態で、人に見つけてもらうだけで奇跡のようなものですから、これくらいの金額にしかならないのは当然でしょう。
ただ、自分が作った映画を、どこかの国の人が見て、酷評する人や面白かったと喜んでくれる人もいる。
そして、わずかだとしても、自分の作品がお金を生み出した事実はなかなか痛快です。

当時から何年も経って、今一番進歩しているのはAIです。
AIを道具として使えば、英語版の字幕も精度の高いものが簡単に作れるんじゃないかと思います。
そういう点でも、アマゾンビデオに作品を投入しやすい状況がありそうです。

収益自体は期待はできません。
何かをきっかけに大きく跳ね上がるという可能性もなくはないですが、それを期待するより、「自分は世界市場に作品を投入している」「少数でもそこにはファンもいる」というような状況を作り出す事の価値の方が大きいんじゃないかなと思います。
そこに価値を見いだせるのであれば、この世界戦略はなかなか痛快で面白いはずです。

私たちはだいぶ麻痺してますけども、今、環境的にも技術的にもこれが簡単にできる、夢のような世の中なんです。
これは本当に数十年前から見たら夢の状況です。
それができるのも巨大なプラットフォームであるグーグルやアマゾンのネットワークを無料で利用できるからです。

「製品は製造と販売が大事」です。
映画も全く同じで、「製造」は作家ですから、ほっといても作るわけです。
でも、それをどう活用するか、どうやって多くの人に見せるかという、いわば「販売」の部分は皆、あまり積極的には動かない傾向にあると思います。
私も基本的にはそうですけれども、せっかく作ったものなんですから、大きな市場に出しましょう。
また、大きな市場に出すという前提で作ると、作るモチベーションも変わりますよという話です。

参考になれば幸いです。

(ブログ記事一覧)

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🎬 Indie Film’s Global Strategy: Surprisingly Accessible?

I began making independent films in the late 1980s, just as consumer video technology was becoming widespread. Back then, my friends and I shared a dream: to have a “Indie Film” section on the shelves of rental video stores, filled with our own creations.

Years later, I discovered that this dream had already been realized—by a company called The Asylum. Known for producing a dozen ultra-low-budget films per year, The Asylum operated out of a warehouse-like office filled with makeshift sets. These sets, built from plywood and cardboard, could be repurposed endlessly: a cockpit for a spaceship in sci-fi, a passenger jet in a disaster film, or even the Oval Office with just a flag and a conference table. It was like a child’s playroom turned into a film studio.

 

The Asylum’s Secret Weapon: Global Distribution

What truly set The Asylum apart was its distribution network. Their films were sold to rental stores around the world. These stores wanted fast-moving titles, and Asylum’s quirky, over-the-top productions had a loyal fanbase. The films weren’t high-quality by traditional standards, but their outrageous premises had addictive charm. Fans would watch them with friends, laugh at the flaws, and eagerly await the next release.

Even as streaming services took over, The Asylum adapted, launching its own platform and continuing to churn out monster movies and other fan favorites. Their production and sales power is something indie creators can learn from.

 

From Dream to Reality: Global Reach Is Possible

The dream of distributing your own film globally is no longer fantasy. Thanks to the internet, you can not only share your work for free—you can also monetize it, just like traditional rentals.

One experiment I tried was uploading my film to Amazon Prime Video. Most people don’t realize that even amateur filmmakers can publish their work there, much like self-publishing an eBook on Amazon. The process is surprisingly similar.

Once your film passes Amazon’s review process, it can be listed for rental or included in the Prime membership catalog. You earn revenue based on views and watch time. Years ago, I uploaded a test film and gave it a try.

 

The Catch: Quality Standards Matter

Unlike YouTube, Amazon doesn’t accept just anything. Low-quality uploads can damage their reputation, so they enforce minimum standards. They prefer feature-length films with good image and sound quality. If your video doesn’t meet the criteria, it gets rejected.

Even after approval, unpopular titles may be removed. Amazon doesn’t want its servers filled with content no one watches. Of the films I uploaded, only one remains—a short parody monster movie in English, available only to U.S. viewers. It was originally free for Prime members, but Amazon later reclassified it as a rental-only title. These decisions are made at Amazon’s discretion.

Despite the hurdles, Prime Video is a powerful platform worth considering.

 

Behind the Scenes: My Upload Experience

When uploading, you first choose your target market: Japan, the U.S., Europe, etc. This may have changed since I last used it, but here’s what I learned:

The easiest option is to release in Japan only. But there’s a catch—Japan’s Prime membership fees are much lower than in other countries, which means your earnings per view are significantly reduced. Possibly as little as one-tenth compared to the U.S. or Europe.

To reach international audiences, your film must include proper subtitles. These are uploaded as separate files. I used YouTube’s auto-captioning to generate Japanese subtitles, then manually translated them into English. It was a tedious process.

Subtitles must cover everything—not just dialogue. If you skip ambient sounds or silent scenes, Amazon flags it as an error. You need captions like “silence” or “ominous music begins” to meet accessibility standards, especially in the U.S. and Europe.

I don’t speak English fluently, so I relied on machine translation. Whether the final subtitles were accurate is anyone’s guess.

 

The Reality of Revenue

At its peak, my film earned about 100 yen ($1) per month. With zero fanbase, getting discovered is a miracle. Still, knowing that someone, somewhere watched my film—and even paid for it—is a thrilling feeling.

Today, AI has advanced dramatically. With the right tools, creating accurate English subtitles is much easier. That alone makes Amazon Video more accessible than ever.

 

It’s Not About the Money—It’s About the Reach

You probably won’t make much money. But the real value lies in saying, “My film is available globally,” and knowing that even a few fans are out there. That’s a powerful motivator.

We’re living in a dream world compared to decades ago. Platforms like Google and Amazon offer global distribution—for free. It’s astonishing.

 

Creation Is Only Half the Battle

As the saying goes, “Production and distribution are both essential.” Creators naturally focus on making the work. But few take the next step: getting it seen. I’m guilty of that too. Still, if you’ve made something, why not share it with the world?

And when you create with a global audience in mind, your motivation shifts. You start thinking bigger.

 

I hope this inspires you to take your indie film beyond borders.

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