演技が上手い下手について考える

演技が下手な俳優ランキングが記事になっていました。

記事を面白がる分には何ら問題も無いのですが、そもそも疑問があります。
「演技が上手い」とはどういうことでしょうか?

これは「歌が上手い」という定義にも通じるものがあります。

普通の人よりも高音が出せる人を「歌が上手い」と勘違いしている人もいまだにいます。
年配の人は、民謡歌手のように高い声を出せる人しか、歌手として認めなかったりします。

若い人も、あんまり判断基準は変わらないようです。
プロでも、苦しそうに高い声を搾り出す人が多くて、聞いていて疲れてしまいます。

音程を外さず、リズムを崩さず歌えるのが「歌が上手い」という基準にすることも、あるにはあります。
ただし、そうなると、一番「歌が上手い」のは「ボーカロイドの初音ミク」という事になりかねませんよね?
人によって考え方は違うでしょう。
私の考えでは、「歌が上手い」というのは、簡単に言って
「聴いた人を感動させられること」だと思います。

感動の要素には、歌手の歌唱力の他、
その歌の曲や歌詞の魅力によるところもあるので、
正確に判断は出来ません。

例えば、同じ歌を歌っているのに
「この人が歌うと感動して気分が良くなる」とすれば、
その人は「歌が上手い」と言えるでしょう。

演技についてはどうでしょうか。

私の考えを先に言うと、演技の上手い下手はどうでもいい。
感動させてくれた俳優には感謝する、というだけですが、
あえて演技が上手いということを考えてみたいと思います。

良くある演技の優劣の話で、
カメレオンのように役によって別人に見える俳優を
「演技が上手い役者」と判断する事が多いと思います。

例えば、ジョニー・デップやメリル・ストリープの映画は
油断してみていると、あまりにも別人になりきっていて、
途中までその俳優に気付かない事がありました。

別の例では、テレビを観ていたら古い映画に
大竹しのぶが出ていて、田舎娘の役だったのですが、
なんとも素朴でリアルな雰囲気で
「この役は本人のキャラに近いんだろうな」と思っていました。

翌日、たまたま、また大竹しのぶが悪女の役を演じていて
「この役は本人のキャラに近いんだろうな。
あれ?昨日も同じ事を思ったな」という経験があります。

この俳優たちが非常に優れた俳優で、引き出しも多く、
高い演技力の持ち主なのは誰もが認めることでしょうが、
それは、カメレオン俳優だからなのではありません。

逆に、どんな役を演じても、いつも同じイメージの俳優がいます。
チャールズ・ブロンソンや高倉健は、
カメレオン俳優とは真逆の演技をする俳優でしょう。

驚くのは、俳優を目指す人の中にも
「高倉健などは演技が下手だ。俳優としては優れていない」
と思っている人がいることです。

こういう人にとって、演技というのはカメレオン演技なのでしょう。

私は演技者ではないので、演技法・表現法などは知りません。
自分が趣味で自主映画を作っていたりするので、
表面的なバリエーションを多く持っている俳優は、確かに助かります。
演技が上手いとも言えます。

しかし、プロの作品に出演する俳優というのは、
全く求められるレベルが違う筈です。

故・松田優作は「魂を写せないか」と言っていたそうです。

高倉健は「心の中に本物の感情をよぎらせる」
という趣旨の事を言っていました。

こういう、最高級の演技力というか、演技の根幹を追及している人は、
表面的な「上手く見える演技」には興味は無いのだと思います。

そう考えると、そもそも「演技が上手い」というのは
褒め言葉ではなくなる可能性があります。

高倉健の言葉では「ほんとは心の中によぎってないんだけど、
よぎっているように見せるのがお芝居なのかもしれないけど(自分には出来ない)」という部分に通じます。

「嘘泣きが上手い」というのに近いのかも知れません。
ただ、一つ言える事は、テレビを見ていて
「このアイドルは演技が下手だなあ」と思っても、
実際は結構がんばっている、ということです。

私は学生時代、初めて本格的に自分で映画を作ったのですが、
撮影前は斎藤由貴の「スケバン刑事」を仲間と批判していました。

「俺たちの方が上手く演技できるよな」
などと大口を叩いていましたが、
撮影を進めるうち皆「斎藤由貴も結構、大したもんだよね」と
謙虚になっていました。

経験は人を謙虚にします。
ちなみに、「演技が下手な俳優」の上位に前田敦子が
ランクインしてました。

この人は、たまたま「栞と紙魚子」という私が結構好きな、
諸星大二郎の漫画をドラマ化した作品に出演したときに観ていて、
数少ない「知っているアイドル」です。

主演映画も、一部の人には評判がよくて、「もらとりあむタマ子」
という作品では、冴えない女の子の役を好演していたと聞きます。

「私、アイドルになりたい」と告白するシーンで
家族のリアクションと同様に、観客も「そりゃ無理だろ」
と思わず突っ込み、その瞬間に
「あ、そうか。前田敦子は本物のアイドルか」と
ちょっと混乱した、という多くの感想を聞きました。

それを聞いて私は「演技が上手い人なのかな」と思っていますが、
未見のため自分の感想は言えません。

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