倍速視聴は悪なのか?心地良い映像リズムは年齢と共に変化するという事実

自由な鑑賞を許してくれない「映像」

「映像」というメディアにはワガママな一面があります。

 

同じようにストーリー系のエンターテイメントには、「マンガ」や「小説」がありますが、それらには映像特有のワガママさがありません。

それは、時間の感覚に関することです。

分かりやすく言うと、「味わうリズムを強制するか、自分なりのリズムに変えられるか」の違いです。

 

つまり、マンガや小説は、自分の好みに合わせて、鑑賞のリズムを自由に変更できるという事です。

そのページの絵や文章をじっくりと味わいたければ、ページをめくる速度を落とせばいいですし、興に乗って、頭の処理速度が増して来たら、それに合わせて次々とページをめくることも出来ます。

 

小説のなかで、主人公が長々とウンチクを話し始めたときに、その内容にあまり興味が無ければ、現実世界でも聞き流しているように、字面だけ目で追って、あえて理解しようとせずにページを進める自由さもあります。

 

それによって何が起きるかというと、それぞれの人が「快適に感じるリズム」で物語を味わえる、という事です。

 

一方で、「映像」には「時間」がセットになっています。

  • セリフ回しが早すぎてせわしないなあ
  • 展開が遅くてまどろっこしいなあ

そんなストレスを感じても、鑑賞する側としてはどうしようもありません。

そういう意味で、映像はワガママと言えるわけです。

 

映画を早送りで鑑賞する事を嘆く人は多いですが、私は「映画とはこうあるべきだ」という映画原理主義者ではありません。

早送り鑑賞も、マンガのページを早くめくったり、小説の字面を早く読み飛ばすのと、それ程変わらないと思っています。

 

快適に感じるリズム、心地よいリズムというのは、人によって違います。

また、同じ人でも日によって違う事もあるでしょう。

もしかしたら、時間によっても心地よいリズムは違うかもしれません。

昼間であれば退屈してしまうようなテンポの映画が、夜中にはじっくりと集中して観られるということもあります。

 

興味深いのは、「年齢によって心地よいリズムの傾向がある」という点です。

基本的に、若い人は速いテンポを好み、年配者は遅いテンポを好みます。

 

映像におけるテンポで最も分かりやすいのは、「カット割り」の長さです。

1分間で何回、映像を切り替えるか。

この切り替えの頻度が高ければテンポを速く感じ、切り替えが少なければ遅く感じます。

映像の切り替えは「刺激」になりますから、テンポ・リズムが早い映像はより刺激が強くなります。

 

若いころは、この刺激が心地いいんです。

映像の切り替えが少なくて、刺激の少ない映画などをみると、「もっとカット割りを細かくすればいいのに」と、若いころはよく思っていました。

「どれだけカット割りを細かくするか」という事こそ、映像づくりの醍醐味だと感じていたくらいです。

 

ところが、50歳を過ぎると明らかに感覚が変わっています。

もちろん、細かいカット割りの魅力も感じはするんですが、大抵の場合、カット割りを細かくすることでテンポが良いように「ごまかしている」という風に感じることが多くなってくるんです。

実際、映像には「ごまかしのテクニック」は色々あって、もちろん私もよく使いますが、そのごまかし自体を煩わしく思うことがよくあります。

 

逆に、ごまかしてとしての余計なカット割りをせず、最低限の映像で構成されていて、それでも興味を引き続けてくれる古典的な作品の方が、はるかに心地よさを感じることが多いんです。

過去作は自分の感覚の標本

2023年の私のテーマは作品の量産です。

そのために、製作中の作品の完成を最優先にしつつ、複数の新作への着手を考えています。

それに加えて、さまざまな理由で途中頓挫した作品のうち、撮影がほとんど終わっているものについても、製作を再開しようと思っています。

 

そこで、2005年にほぼ人物撮影を終えた状態でストップしていた「未来記」という伝奇風作品のデータ整理を、2023年の1月に始めました。

この作品は2003年頃から撮影をはじめたので、シナリオ、絵コンテを作成したのはさらにそれ以前です。

20年前の自分の感覚、自分がカッコ良い、心地良いと思うリズムで映像を構成しています。

 

今回、データの整理をしながら映像をチェックしていて驚いたのは、カットの細かさです。

現在の私の作品の3倍くらいの細かさで、映像を切り替えているんです。

作品の長さが同じでも、3倍の数の映像があるんです。

 

近年は、撮影ペース向上の優先順位を上げている関係で、意識して余分なカット割りを控えるようにはしているのですが、それにしてもこんなにカット数が違うものかと思いました。

 

当時はかなり馬鹿正直に撮影していたので、改めて見直すと、我ながら思いのほか丁寧に撮っていて、しかも、メインにははじめて役者さんを招いた作品だったので、それなりに見栄えのするシーンもあります。

 

製作をストップさせた理由は主に、映像合成のスキル不足でした。

幸い、今の編集環境やスキルを使えば、かなり、製作当時の理想に近い形に仕上げられそうな気がしています。

完成させれば、私自身の「20年前の映像感覚」が形になります。

 

今回は、途中頓挫してしまったせいで、思わぬ形で自分の感覚の違いを味わいながら仕上げる事になりますが、普通に完成作品を積み重ねて行けば、それだけで自動的に、あなたの映像感覚の標本が時系列で残されることになります。

その変化を楽しめるのも、映画作りの魅力の一つではないでしょうか?

 

参考になれば幸いです。

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