映像表現のための工作: ミニチュアセット制作の誤差を克服する技術

工作物を作るコツ

私は自分で作る映画を「工作系映画」と呼んでいるくらい、自分で作った大道具や小道具、衣装などをたくさん作品の中に登場させています。

工作自体が好きで、「作ったものを活かすには映画が最適」と映画作りを趣味にした当初から感じていました。

 

工作物を作る上で、最近痛感していること、上手く行くコツをお伝えします。

それは一言で言うと「きっちり設計しない」ということです。

これは無計画に作ろうということとはちょっと違います。

無計画に作り始めると、途中で問題が起きて完成しなくなるからです。

 

もう少し具体的に言うと、全体的なイメージは細かく考えるんですが、寸法などはきっちり決めないということです。

 

普通は物を作るときには図面を作ります。

全ての材料はその図面から正確な寸法が分かるので、先に裁断などを行なって材料を揃えておけば、効率よく組み立ても出来ると考えます。

 

ところが、やってみると分かりますが、特にミニチュアセット作りにおいてはどうしても「誤差」が問題になってくるんです。

実物の家を建てる場合、柱の長さが1mm違っていても組み立てられますが、1/24の縮尺の模型で1mmの誤差が出ると、実物換算では24mmの食い違いがあるのと同じことなので、結構大きな隙間が空いてしまうことになるんです。

この「隙間」が目立つと「本物らしさ」が損なわれることになります。

 

これは、図面を元に部品を切る限り、なかなか防げません。

  • 図面を元に切る位置に線を引くとき
  • 線にそって部品を切るとき
  • 組み立てるとき

のそれぞれで、どうしても誤差は出てしまうからです。

 

例えば、それぞれの工程でほんの0.5mmずつ短くズレてしまった部品と、0.5mmずつ長くずれてしまった部品を組み合わせようとすると、最大で3mmの隙間が出来てしまいます。

ミニチュア工作で3mmの隙間というのはかなり大きな隙間で、接着剤を付けても部品に届かないので、全く組み立てられないんです。

 

これを防いで部品の隙間を無くすためにはどうすればいいかというと、

  • きっちり測って切った部品

  • 状況に合わせて切った部品

を組み合わせてしまう事です。

 

例えば、木の箱を作るとします。

この場合、枠の部品は寸法をきっちり測って切って組み立てますが、底板の部分は寸法を測るのではなく、組み立てた枠に合わせて引いた線に沿って切ることで、隙間の無い箱になるわけです。

これが職人の使う「現物合わせ」というやり方です。

枠の部分には切る時や組み立てるときにズレや歪みが出て、微妙に台形になったりしがちですが、仮にそういう歪みがあっても、底板をその状況に合わせて切ってしまえば辻褄は合わせられるからです。

 

このやり方が「きっちり寸法が合っていないのは何か気持ち悪くて嫌だ」と感じる人は、「負の完璧主義」が災いして完成品が極端に少なくなる傾向があります。

(実は私も以前はそうでした)

「気持ち悪い」という感覚は理解できますが、「その工作物の用途は何か」を優先して考えることが大事です。

その工作物の「キモ」になるところから始める

実は工作で大事なのは「順番」だったりします。

絵に例えると分かりやすいんですが、人物の絵を描くとき、どこから描くと楽でしょうか?

 

普通は「顔」「体」の順番で描くと思います。

顔のパーツの配置は僅かに変わっただけで大きく印象が変わってしまいます。

体を先に描いてしまうと、体のサイズとのバランスを考えながらパーツ配置を調整するのはとても難しいんです。

ですから、先に顔を描いてからそれを基準に体を描く方がバランスが取りやすいことになります。

 

工作も同じで、人物イラストの「顔」に相当する部分、つまり「どこをリアルに見せたいか」をまず決めます。

そこから作り始めて、その部分に合わせて周りを作り足していく感じにすると、比較的工作が楽に進みます。

 

例えば私は最近「木造の校舎」を作りました。

今回は意識して「図面無しで作る」という事にしました。

これは新作「恐竜霊」では「村役場」として登場させる予定です。

この「顔」に相当するのは細かい部品が集まっている「玄関部分」だったので、まずそこから作り始めました。

その玄関の中でも基準になる「扉」から作ります。

枠を作ってから扉を作ると隙間が空いたり、入らなかったりというズレが生じますが、

  • 扉の枠
  • その外側

という順番に工作を進めれば、ズレを補正しながら完成に近づくので隙間のようなズレを目立たなくさせることが出来るんです。

 

実際には細かな歪みが必ず出てきます。

でも、この工作の用途は映像の背景です。

  • 歪み
  • 隙間

のどちらが問題かと言えば、明らかに「隙間」です。

映像にはパースが掛かったりレンズの特性による歪みは出るものなので、歪みの無い工作物を作ること自体、あまり意味はないとも言えます。

縮尺はどう決めるか

最後に模型の縮尺についてです。

どれくらいの縮尺で作るべきかという話ですが、単純にリアルに作ろうとすれば大きな模型の方が有利ですし、作業のしやすさや経済性を考えれば、小さい方が有利です。

また、自分の手先の器用さや性格、使う材料などによって、作りやすい大きさも変わってきます。

 

その上で、建物や部屋のミニチュア工作でおススメする縮尺は、1/24と1/12です。

 

理由は既製品とうまく組み合わせやすいからです。

 

前述の「木造校舎」ですが、私は自分の映画の中に登場させる際、建物の前に自動車を駐車させようと思っています。

場面によって車の数を増減させれば、人が集まっている場面なのかそうでないのか表現しやすいからです。

その際、車を別撮りして合成させる方法もありますが、合成が自然に見えるためには光の角度やカメラの角度を一致させるような注意が必要で、まあまあの手間が掛かります。

そこで、最も簡単に角度も光も一致させ、しかも質感としてリアルにするために、ミニチュアセットに車の模型を置いて一緒に撮影してしまう方法が考えられます。

日本のプラモデルの精巧さは世界一ですから、これを利用しない手はありません。

モデラ―の人とコラボするチャンスでもあります。

 

そして一般的な車のプラモデルの縮尺は1/24なんです。

つまり、建物のサイズをおおよそ1/24にしておけば、プラモデルと一緒に撮影することでより一層、リアルに見せることも出来るという訳です。

ですから、屋外のミニチュアセットを作る際は、1/24の縮尺にするとメリットがあることになります。

 

一方で、室内セットを作る際は、その2倍の縮尺である、1/12がおススメです。

まず、建物外観に比べてアップで映ってしまうので、やや細かく作り込む必要があり、倍の縮尺が有利です。

それと、とても精巧に出来た1/12のミニチュアセットが、最近の100均ショップなどで多く売られているので、同じ縮尺にすることでそれらをそのまま加えることが出来ることが理由です。

例えば机や椅子など、自分でも作れはしますが、制作時間を考えると1個作るのに数千円は掛かる計算になります。

特にこだわらなくていい部分に関しては100円で手に入るものを活用して、その分、他の部分の作り込みに手を掛けることをおススメします。

 

今回は「工作」について「順番」を解説しましたが、実は物語づくりや企画の準備そのものでも「順番」が大事だったりします。

それらについては別の機会にお話ししたいと思います。

 

また、紹介した木造校舎のメイキングについてはサイト内で写真を公開していますので、参考にしてください。

https://wp.me/P4vWPD-mue

 

参考になれば幸いです。

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自分で原案を考え、脚本化したストーリーを元に一つ一つのシーンを撮影して形にしていく「自主映画制作」という趣味では、とても大きな満足感を味わえます。
仮に誰にも完成品を見せずに一人で鑑賞するとしても、えも言われぬ達成感、大げさに言えば作品の中とはいえ「世界を創造した万能感」に浸れるのが映画作りです。

さらに、他の人に作品を見せて高評価を得られたりすると、とても嬉しい気持ちになります。

特に現代は自分から情報を発信する手段がたくさんあります。
一般の人が自分で撮った写真や文章を大量に公開する時代です。
公開して得たい「承認欲求」は思いのほか強く、自分で作った映画はその最大級の満足を生み出す可能性があります。

ただ、難点を挙げるとすれば、「写真を1枚撮って画像加工アプリで仕上げれば完了」というような手軽さが「映画作り」には無いことです。
実際にはとても大きな満足感と引き換えに、そこそこめんどくさい作業を伴うのが映画作りです。
(そこがまた、面白いところでもあるんですが)

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