特撮映画のクリーチャー模型を自作する方法とコツ
映画ならではの登場キャラクター「クリーチャー」
私がそもそも「映画作り」という趣味に挑戦したきっかけは、いわゆる「名作ドラマ」に感動したからではありません。
もちろん、子供の頃から映画などを見て感動することはありましたが、それはあくまでも観客としてであり、「自分もこんなのを作りたい」という動機には繋がりませんでした。
高校生の頃、小説やシナリオを書いている同級生と仲良くなり、初めて「映画」を鑑賞する対象ではなく、自分で作る対象として認識しました。
それまでもテレビ放送で、レイ・ハリーハウゼンの一連のコマ撮り特撮映画などを見ていましたが、この頃になると完全に、自分の創作の参考として繰り返し作品を見ることになります。
そんな嗜好もあって、私にとって映画原点の一つは「クリーチャーが登場する特撮映画」となっているんです。
(人情劇の「男はつらいよ」も好きなのでそれほどマニアックに嗜好が尖っているとも言えません)
レイ・ハリーハウゼンのコマ撮り特撮映画というと、
など、とてもリアルで独創的な生物「クリーチャー」が画面に生き生きと登場します。
骸骨兵士と主人公がチャンバラをしたり、古代遺跡の中でドラゴンやケンタウロス、グリフォンが戦ったり、恐竜や双頭の鷲に襲われたりと、映画ならではの異世界のシーンが具体的に表現されているのが最大の魅力です。
クリーチャーを自作するときにぶつかる問題点
わたしはそんなコマ撮り映画を自分でも作りたくて、自分の好きな「恐竜」の制作から始めました。
当時はまだ家庭用のビデオカメラが登場していなかったので、8mmフィルムのカメラで恐竜模型を撮影したり、1/10くらいの自作の人形をギクシャクとしながらも、画面上で歩かせたりして、特撮の面白さを体感していたんです。
やがて、専門の書籍等で特撮の知識を得るようになると、どうやら特撮用のクリーチャーの制作には、専用の素材があるらしいことを知ります。
液体の天然ゴムである「ラテックス」や、溶剤を泡立て器で泡立て、石膏の型に塗り込んでオーブンで焼くタイプの「フォームラバー」などです。
当時としてはそれなりに高価な材料だったことと、その材料を使うためには精巧で頑丈な型を作らなければいけない事など、実現にはいくつもの壁がありました。
そして、結論から言うと、「この材料さえ使えば素晴らしい模型が作れる」と思っていたのは幻想で、もっと根本的な知識や工夫が必要でした。
さらに言うと、知識や工夫が身に付けば、もっと身近な材料を使って、高度な技術や道具を使うことなく、魅力的なクリーチャー模型が作れることを最近になって知りました。
以下は、私の反省や解決の経験を踏まえた上でのアドバイスです。
骨格について:関節の重要性
動物をリアルに作るためには、デザインのバランスも大事ですが、「関節」がとても重要です。
実際に動物が好きな人や普段から接している人は、足の関節の位置など、大体把握できていると思います。
模型を作るときもそれを再現するわけですが、私がいつも甘く見ていたのは「可動域」でした。
動きを表現する模型ですから、当然、必要な可動域は確保するように作ります。
ただ、不要な可動域を制限する発想が無かったんです。
例えば、膝の関節は曲がる方向が決まっていて、逆には曲がりません。
また、膝関節自体は横方向にねじりながら曲げることは出来ません。
ねじっているように見えても、それはより動きに自由度がある「大腿部」をねじっているだけです。
この可動域の制限を無視して、とにかく関節が良く曲がるように工作してしまうと、撮影の時に困ることになるんです。
特にコマ撮りでなく、マリオネットのように手足を動かして撮影するタイプの模型の場合、関節の動きに余裕があり過ぎるとリアルに動かせないんです。
私は「暗黒魔獣ワニガメイーター」という作品で、かなりラフに作ったマリオネットタイプのクリーチャーを使用しました。
その骨格も非常にラフで、針金の先を輪にして、鎖のような形で連結したものを骨格として作り、その周りにスポンジを貼り付けて形にしていました。
そのため足先に付けたバーを動かして歩いている場面を撮ろうとすると、常に膝が笑っているような状態になってしまうんです。
それらしい動きに見せるために、撮影しながら改造したりと無駄な労力を費やしましたが、多くの映像で妥協を余儀なくされました。
これは、骨格の関節部分の可動域を考えてしっかりと作り込んでいるだけで防げます。
表皮について:「伸び」に頼らず「曲げ」だけで表現する
さらに、クリーチャーをリアルに見せる時に重要なのが「表皮」です。
表皮の造型自体は、プロのモデラ―の作品などがとても参考にはなります。
ただ、それらの模型は「今にも動き出しそう」と見えますが、そのデザインだけ真似しても、動く模型にはならないんです。
伸縮性がある柔らかい材料でクリーチャーを作れば良いと思いがちで、私も長年試しましたが上手く行きませんでした。
そして気付いたのは、表皮に「伸び」を期待せず、全て「曲げ」だけで表現するように作り込むのが正解ということです。
実際の生き物をよく観察してみると分かるんですが、たとえば象が歩いている時、足の付け根の皮膚は柔らかそうに見えます。
でも実際の象の表皮は分厚くて、全く伸縮性がありません。
ただ、伸びはしませんが曲がるので、自由に動くことがわかります。
すると大事なのは表皮を突っ張らせないための「余分」です。
余分な部分は弛ませたときに深いシワになります。
このシワができるだけリアルに見えるように、デザインを工夫することが大事です。
犬や猫も毛があるので表皮が滑らかに伸びているように見えますが、実際の皮膚は深いシワだらけで、そのシワがあるからこそ柔軟に体を動かせるんです。
皮膚の余分と皺の関係は象やサイ、自分の手の動きなどを観察すると分かってきます。
破損と補修についての考え方
棚に並べて鑑賞するだけの模型と違って、撮影用の動く模型は、動かすことで傷みます。
これは避けようがありません。
私は基本的に、関節を含む骨格の上に肌着の素材のような柔らかい布を縫い付け、大まかなシワなども布の縫い付け方で表現した後、布の表面にアクリル製の樹脂を薄く塗って布の質感を隠し、表皮の表現をしています。
質感としてのシワや鱗の造型なども、動きの邪魔にならない範囲で樹脂を造型して作り込みます。
布の部分はまず壊れませんが、表皮のアクリル樹脂はひび割れたり、布からはがれたりという破損をします。
ただ、これを過度に避けようとして頑丈に作り込むと、肝心の動きが悪くなります。
撮影用のクリーチャー模型は、あくまでも映像の中で生き生きしていれば良いと割り切って、撮影のたびに細かな補修をして使用するのが正解だと考えます。
補修のしやすさを考えても、建築資材であるアクリル樹脂は使い勝手がいい材料だと思います。
参考になれば幸いです。
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