空を合成する
基本的に撮影は天気まかせ
映画の撮影時、もっとも気掛かりなのは天候です。
日本はハリウッドのように雨が少ない土地ではないので、かなりの確率で雨が降り、撮影中止になります。
晴れ、曇り、雨(雪)という大雑把な分け方で考えると、トータルすれば晴れの日に撮影できるのは、3回に1回ではないでしょうか?
実写映画の空は運任せです。
シナリオ上、そのシーンの理想の天候は「晴れ」だったとして、当日、曇り空だったら、あなたはどうしますか?
黒澤明作品のように、「理想の天気」を待ちますか?
黒澤監督の映画に対するこだわりの逸話はとても面白くて、「これこそクリエイターのあるべき姿」と言われることも多くあります。
もちろん、私もいくつか書籍を持っていますし、それらの逸話は大好きです。
ただ、覚えておいて欲しいことがあります。
黒澤監督のこだわりは、「究極のプラスアルファ」なんです。
家に例えれば、豪邸を建てられる人が、部屋のカーテンの材質や光沢の微妙な違いにこだわるような状態です。
私達は、間違いなくそのレベルにはありません。
床が水平で、真っ直ぐな柱を持ち、雨漏りがしない家を、納期通りに完成させられるかどうかをテーマにしている段階だと思ってください。
黒澤監督を真似て「天気待ち」などしてしまうと、膨大な時間がかかる上、別の面でマイナス要素が大きくなって、かえって完成度が下がります。
最たるものは、「結局、作品が未完成で終わる」ということです。
理想の野外撮影は少ない
撮影当日、理想の天気でなかった場合でも、その中でベストを尽くして撮影すべきです。
そもそも、撮影時に理想的な天気になることは、非常に稀なことと割り切りましょう。
テレビドラマでも、天候に恵まれた作品と、恵まれなかった作品があります。
湘南海岸を舞台にした連続ドラマで、全編に渡って、ほぼ曇り空だった作品があります。
きっと、スタッフや出演者も残念だった事だと思います。
シナリオが全く同じ内容でも、野外シーンの天候によって、印象がだいぶ違うと思います。
また、野外シーンは、編集した時に光の状態が一定に見えるように撮影することが、思いの外、難しいものです。
天候、雲の位置はもちろん、時間経過によって、光の状態が著しく変化しているからです。
これは、撮影中は気付きにくくて、編集時に問題が発覚します。
私は一時期、天候や太陽光の変化を気にせず撮影するために、「室内シーン」や「夜間シーン」を多目にしていました。
その方が撮影がはかどったからです。
空を合成することで得られるもの
では、自主映画においては、「プラスアルファ追求の楽しさ」を諦めるべきでしょうか?
私は、撮影時のこだわりをできるだけ我慢して、その分、編集作業でプラスアルファの魅力を追求することをオススメします。
例えば「空」。
アニメーション作品では、印象的な風景として、絵画的な空が登場します。
アニメーション映画の細田守監督は、「夏の青空と入道雲」に、主人公である若者の成長を関連付けて、好んで使っているというような事を、インタビューで話していました。
確かに、背景の空の鮮やかな入道雲は、高揚感を生み出します。
この効果を取り込む実験として、あえて、風景のロングショットで、「青空と入道雲」を合成してはどうでしょうか?
丁寧に合成作業を施せば、自然な風景を作り出すことも出来るはずです。
野外とは言っても、草原のシーンでもない限り、そうたくさんの空は写っていないはずです。
空が一番目立つ映像に、鮮やかな空を合成すると、シーンの印象は一変するでしょう。
私はこれまで、夕焼け空はよく合成していました。
また、天気が違う別の日に撮影した映像を、できるだけ自然に繋げるために、空の映像を合成したこともあります。
- 人物Aの背景は青空
- 人物Bの背景は完全な曇り空
という映像を交互に見せると違和感が目立ったので、人物Aの背景の青空に雲を加え、人物Bの背景の曇り空に「雲の間から覗く青空」を合成しました。
厳密には光の状態そのものが違うのですが、錯覚を利用して、違和感を少なくさせることには成功したと思います。
パソコンを使った合成は、工夫によっては、合成であることを完全に隠せます。
「そんな映像は偽物だ」という馬鹿な批判は無用です。
映画の映像は、そもそも嘘で良いんです。
撮影した映像を、ただ順番に繋ぐだけでなく、映像合成の技術を一つ持つことで、映画作りに絵画的な楽しみが加わると思います。
参考になれば幸いです。最後までお読みいただきましてありがとうございました。
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