皮膚感を出す柔らかい素材の研究・撮影用の動物可動モデル制作のために

一般的な「柔らかい素材」

モンスターマペットや、ストップモーションの恐竜模型を登場させる映画を作ろうとすると、「皮膚の素材」が課題になります。

シルエットと動きだけを重視するのであれば、全身がウレタン素材という選択肢があります。

拙作「暗黒魔獣ワニガメイーター」の上半身のみのモンスターマペットと、全身のマリオネットは、基本的にウレタン製で、表面の一部だけ皮膚表現したものを貼り付け、塗装でごまかしました。

 

しかし、恐竜などのモデルの場合は、やはりリアルな表皮のモールドがあると魅力です。

そのためには、表面に鱗などのモールドが刻印できて、かつ、柔らかい素材を使う必要があります。

 

柔らかい素材として、一般的に使用されるのは、「フォームラバー」と「ラテックス」でしょう。

どちらも造形用素材として簡単に入手はできます。

 

しかし、フォームラバーは2液を混合して泡立てた素材を、石膏型に塗りつけた状態で、オーブンに入れて加熱する必要があります。

すべての造形に、全身用の大きな石膏型が必要になるなど、工作は煩雑になります。

オーブンのサイズによって、造形物の大きさや形が制限されるという欠点もあります。

私にとっては、材料が比較的高価であることも難点の一つです。

 

ラテックスは、液状の生ゴムです。

皮膚の細かい形状を表現するためには、石膏の型に流し込んで、自然乾燥させます。

乾燥すると輪ゴムのような素材になります。

フォームラバーに比べると、扱いやすい素材ではありますが、生ゴムなので、時間が経つと腐敗してしまう欠点があります。

 

私は30年以上前に、恐竜のストップモーション映画に何度も挑戦していて、「柔らかい皮膚」を表現できる素材を探し続けていました。

当時は、ビデオカメラやパソコンを使って映画が作れる時代ではありませんでしたから、皮膚の素材探し以前にも、映像制作面の課題が山積していて、結局、満足のいく恐竜のミニチュアモデルも完成しませんでした。

唯一、形にしたのは、「水曜スペシャル THE MOVIE 水晶髑髏伝説」のクライマックスに登場する恐竜の頭部のマペット(フォームラバー製)と全身撮影用ストップモーションモデル(ラテックス製)だけです。

それぞれの素材は、前述の欠点を持っていますから、問題は解決出来ませんでした。

安くて使いやすい素材を探せ

2021年現在、私の映画作りの原点に戻り、撮影用の恐竜ミニチュアを制作しています。

それも、試行錯誤しながら1点ものを作るやり方ではなく、図面や型紙を用意することで、同一のモデルを量産できるようにしたいと考えています。

 

同じモデルを複数作って用意できることで、撮影中に故障・破損しても、別のモデルと交換できます。

また、ティム・バートン映画のように、一つのキャラクターのストップモーションモデルを複数作ることで、同時に別の場所でストップモーションの撮影が出来る、つまり、手分けして映像素材を量産することが出来ます。

 

2021.07時点で、ストップモーション用の「骨組み部分」は、試作品が完成し、それを元に図面も用意しました。

量産が可能になっています。

 

次はいよいよ、課題の「皮膚部分」の造形です。

今回は、皮膚を二重構造にします。

ぬいぐるみのように、細かく分けた布のパーツを組み合わせて立体的に縫い付け、まず、皮膚の下地を作り、骨格に被せます。

その状態で、皮膚の動き、シワの寄り方を調整した上で、鱗のモールドが付いた「皮膚の分割パーツ」を、布の上に貼り付けようと思っています。

 

問題は、皮膚の「柔らかい素材」として何を使うかということです。

 

条件は、「工作性」と「経済性」に優れた代替素材であることです。

安価な柔らかい素材ということでは、壁の隙間を埋める建築用の充填剤も候補になります。

シリコンコーキングという素材は、ホームセンターで300円程度で購入できる素材です。

固まっても、ゴム状の柔らかさを維持するのが特徴です。

しかし、シリコンは塗装ができないので、塗装ができる特殊なシリコンコーキング(変成シリコン)を候補の一つにしました。

 

その他、アクリル系の充填剤も候補にします。

参考までに、水性の木工用ボンドも候補にして、薄い膜状に固めてみます。

 

それから、それぞれの素材に粉末を練り込んだものも候補とします。

造形の世界では、液状の素材にタルクという粉末を加えてかさを増やしたり、ペースト状にして扱いやすくすることが一般的ですが、タルクの代わりに片栗粉を使うこともよくあります。

今回は、「それぞれの素材+片栗粉」という素材でもテストしてみます。

 

ここまでは、ラテックスやフォームラバーと同じような使い方を前提とした素材です。

つまり、半液体の素材です。

 

今回、ちょっと思いついて、「軽量粘土」が使えないかテストしてみます。

軽量粘土の成分は「中空微粉体」というもので、ウレタンのような質感で固まります。薄い形状で作れば、曲げることくらいは出来る素材になります。

ただ、強度は低いと思われるので、軽量粘土で作った薄い皮膚に、柔らかく固まる「何らかの溶剤」を染み込ませて補強する、という方法を試してみます。

溶剤の種類としては、

・アクリル系の水性ニス

・木工用ボンド

を試します。

実験結果

実験は、各素材で1~3mmに薄く伸ばした形状のパーツを作り、乾燥後、手で曲げたりひねったりして、感触や耐久性を確かめる、という方法です。

以下、実験結果です。

 

片栗粉を混ぜた素材は、どれも硬く脆くなりました。皮膚パーツとしては使えません。

それ以外は、ほぼすべて、十分な柔らかさがあり、使用できそうです。

 

ただ、「工作性」という点からすると、粘着力のある「充填剤」は扱いづらいと言わざるを得ません。

「型に薄く塗って膜を作る」という作業がかなり困難になると思われます。

意外なのは、木工用ボンドの被膜で、予想以上の柔軟性があり、もっともコストを抑えられる素材になりそうです。

 

比較的、凹凸の大きな部分は「軽量粘土+水性ニス」、凹凸が少なく薄い部分は「木工用ボンド」という組み合わせを採用しようと思います。

工作の参考になれば幸いです。

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