映画撮影用の模型は、「材料の組み合わせ」でリアリティーを出すべし
材料の制限を楽しむか自由な適材適所を活かすか
色々な創作の趣味があります。
映画作りも創作の趣味の一つです。
しかし、映画と他の創作には少し違う特徴があります。
例えば、小説や絵画、工作などの創作では、材料や手法に制限を設け、その中で創作物を完成させることに面白味を感じます。
具体的には、「小説」という創作の場合、言うまでもなく、物語を「文章」という要素を使って表現します。
文章だけでは作者がイメージする「広大な風景」の描写をしきれないからと言って、そこだけ文章ではなく絵や写真を使って表現したりはしません。
まれに、ミステリー小説などで、密室殺人がおきた建物の「間取り図」や「暗号の絵文字」などが挿絵に使われることがありますが、例外的な表現です。
「絵画」という創作においても、各技法を混ぜることはしません。
黒一色で表現する水墨画であれば、通常、黒い墨だけで描きますし、水彩画の中に油絵の具で花を描き込んだりはしないんです。
クレヨン画に使うのはクレヨンだけですし、色鉛筆画は色鉛筆だけを使います。
「工作」にもさまざまありますが、竹細工であれば使う材料はできるだけ竹のみであることが大事とされます。
釘や紐の部分も、わざわざ竹を使うことが普通で、別の材料をなるべく使わないことが評価されます。
ペーパークラフトも同様で、全ての部品を紙だけで作ることが良しとされます。
蒸気機関車を作る際、細かなパイプの部分も紙で筒を作って表現しないと、ペーパークラフトになりませんから、針金を使った方がリアルになるとしても、針金は使わないんです。
つまり、材料や手法にあえて制限を設けて、その中で創作物を完成させるところに面白味を感じるのが、映画以外の創作だと思うんです。
一方で、映画という創作は総合的です。
- 写真技術
- 演劇技術
- 音楽技術
などを効果的に組み合わせる点から見ても「総合的」と言えるんですが、もっと話を絞り込んで「小道具などの工作」という点でも、考え方は総合的で、さまざまな材料や手法を適材適所で自由に組み合わせることが求められます。
私は基本、特撮映画が好きで、普通のドラマ作品でもさりげなく特撮技術を使うことで、王道のやり方よりも低コストでその場面を再現できる、ということにこだわっています。
例えば、「古い木造の校舎を流用した村役場の中の、古めかしい応接セット」というシーンを作りたいと思った場合、条件に合う撮影場所を探して、撮影していてはどれだけコストが掛かるか分かりませんから、「理想的なイメージ通りのセット」をミニチュアで作ってしまって、そこに人物を合成しよう、という発想になるわけです。
ですから、私の映画作りにおいては、エネルギーの半分は、ミニチュアセット作りに費やされる訳ですが、ここでの工作は、前述のような単独の材料や手法にこだわった工作ではありません。
さまざまな材料や手法を適材適所で自由に組み合わせる「なんでもあり」という事の方が大事になってきます。
オススメは複合技
ミニチュア模型の材料はさまざまです。
私はコストを最優先して材料を選んでいますから、「これは使える」と思ったものは何でも使ってしまいます。
例えば「木材」。
多くの場合は工作用の薄い板や細い角材で、ホームセンターで購入するんですが、身近な爪楊枝や竹串なども重宝する材料です。
特にバーベキュー用の角材竹串は使い勝手が良く、100均ショップで見つけると購入してストックしています。
工作用のヒノキの角材などと違って、竹は丈夫でなかなか折れません。
ミニチュアセットの中では木の窓枠や梁などで良く使います。
紙も良く使います。
紙工作というと、子供向けのイメージがあるかもしれませんが、塗装を前提にすると、紙の表現力は全然馬鹿に出来ません。
- 木材
- 金属
- 布
というような、全く違う質感を表現できたりします。
庵野秀明監督や樋口真嗣監督というトップクリエイター達がアマチュア時代に作った特撮映画
『帰ってきたウルトラマン マットアロー1号発進命令』
『八岐之大蛇の逆襲』
には、非常に精巧につくられたミニチュア模型が登場しますが、戦車や飛行機の多くは紙製だそうです。
他にもプロの造形作家が、リアルな模型の材料として紙を使った例がよくあるんです。
木材や紙が直線的な造形物の工作に向いているのに対して、プラスチックは曲面の表現に向いています。
私はよく、プラスチックの容器を廃品利用して材料に使いますが、大抵は「ここの曲面がいい」という動機からです。
細かな造形物でリアリティが必要な場合、3Dプリンターで出力した部品を使うこともあります。
現在制作中の新作に登場する「たばこ屋」のミニチュアセットも、建物は木材や紙で作っていますが、店先にある赤電話は、モデラ―である弟にデータ作成から出力、塗装まで依頼しました。
3Dプリンターを使うことは、ペーパークラフトなどの工作に面白味を感じている人にとっては、ずるい手法に感じられるかもしれません。
実際、手作り感は薄れますし、工作としての面白味に欠ける部分はあります。
でも、「映画撮影用の工作」としては非常に有効な手法です。
映画の背景に登場する工作では「わあ、よく出来たミニチュアだねえ!」と感心されるのは、必ずしも誉め言葉では無いんです。
見終わって「え?あれミニチュアだったの?」というように「模型だと気付かれない事」が理想なんです。
そのために、「よく出来た模型」と思われがちなミニチュア工作の中に、精度の高い、3Dプリンター出力の模型を加えたり、人物や空の映像を自然に合成させることはとても有効です。
そういう、「さまざまな要素を融合させて成り立たせる」という意味でも、映画は「総合芸術」にふさわしい、興味ぶかいメディアだと思いませんか?
前述の工作などは、途中経過の写真など、ホームページ内「MVG最新ニュース」で紹介していますので、興味がありましたらご覧ください。
https://wp.me/P4vWPD-mue
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🎥 For Film Miniatures, Realism Comes from Mixing Materials Strategically
🎨 Restriction vs. Freedom in Creative Crafting
There are many types of creative hobbies—filmmaking is one of them. But filmmaking differs from other forms of creation in a key way.
In fields like writing, painting, or traditional crafts, creators often impose limitations on materials or techniques and find joy in working within those boundaries.
Take novels, for example: they rely solely on text. Even if words alone can’t fully capture a vast landscape, authors don’t switch to photos or illustrations mid-story. Occasionally, mystery novels include floor plans or coded symbols, but these are rare exceptions.
Similarly, in painting, artists don’t mix techniques. A sumi-e painting uses only black ink. You wouldn’t find oil paint flowers in a watercolor piece. Crayon art uses only crayons; colored pencil art uses only colored pencils.
Crafts follow the same principle. Bamboo crafts are valued for using only bamboo—even for nails or string. Paper crafts are praised when every part is made from paper. Even if wire would make a steam locomotive model more realistic, it’s avoided to preserve the purity of the medium.
In short, many creative disciplines celebrate the challenge of working within strict material constraints.
🎬 Film Is a Comprehensive Art Form
Film, however, is inherently multidisciplinary. It blends photography, theater, music, and more. Even when focusing just on prop-making, filmmaking demands a flexible, integrated approach—using whatever materials and techniques best suit the task.
I personally love tokusatsu (Japanese special effects filmmaking). Even in standard drama productions, I often sneak in tokusatsu techniques to recreate scenes more affordably than traditional methods allow.
For example, if I want to depict a vintage reception room inside a village office repurposed from an old wooden schoolhouse, finding and filming in such a location would be costly. Instead, I build a miniature set that matches my ideal image and composite the actors into it.
Half of my filmmaking energy goes into miniature set construction. And unlike traditional crafts, I don’t restrict myself to one material or method. I embrace a “use whatever works” philosophy.
🧪 Recommended Approach: Hybrid Techniques
Miniature set materials vary widely. I prioritize cost-efficiency and use anything that seems useful.
- Wood: I use thin boards and small lumber from hardware stores, but also everyday items like toothpicks and bamboo skewers. BBQ skewers are especially handy—stronger than cypress sticks and great for window frames or beams.
- Paper: Though often seen as a children’s material, paper is incredibly versatile when painted. It can mimic wood, metal, or fabric textures. Top creators like Hideaki Anno and Shinji Higuchi used paper to build tanks and planes in their amateur tokusatsu films.
- Plastic: Ideal for curved surfaces. I often repurpose plastic containers specifically for their shape.
- 3D Printing: For detailed realism, I sometimes use 3D-printed parts. In my current project, the miniature tobacco shop includes a red public phone printed and painted by my modeler brother. While some may see this as “cheating,” it’s a highly effective tool for filmmaking—even if it lacks the charm of traditional handcraft.
🧩 The Goal: Invisible Craftsmanship
In film, the best compliment isn’t “That’s a great miniature!”—it’s “Wait, that was a miniature?” The goal is to make the model invisible.
To achieve this, I blend high-precision 3D prints with hand-built miniatures and composite them naturally with actors and sky footage. This fusion of elements is what makes film such a compelling, comprehensive art form.
If you’re curious, I’ve documented the process with photos on my MVG Latest News page.
Hope this inspires your own creative journey.