映画制作の革新:一人称視点と升田式スーパープリヴィズ法による撮影期間の短縮

オーソドックスな撮影に必要なコストを考える

私は基本的にオーソドックスな作りの映画が好きです。
アトラクションとして「見たこともない形式の映画」が楽しいのは確かですが、フォーマットそのものを変えることで効果を出そうとするのは「ちょっとずるいかな」という感覚があるんです。

 

例えるなら、文庫本。
厳密には微妙にサイズ違いがありますが、まあ、文庫本と言ったら各社、だいたい同じ体裁で売られていますよね。
そこに正方形の本を並べたら、確かに目立つし、場合によっては「読みやすい」という発見もあるかもしれませんが、奇をてらい過ぎだろうという気がします。
作品がつまらなければ「体裁より中身を良くしろよ」と思いますし、作品が面白ければ「余計なことをせず普通の体裁にすれば良かったのに」と思うでしょう。

 

ここで言う「オーソドックスな作りの映画」とは、画面構成のことです。

 

映画の画面は通常、三人称の映像で構成されます。
登場人物たちの行動を客観的に映した映像です。
その他に、状況を遠くから眺めたような

  • 神の視点

と、登場人物自身の視点である

  • 一人称映像

を少量加えて成り立たせているのが一般的で、見ている方としても慣れている分「見やすいフォーマット」と言えるでしょう。

 

私も映像を設計するときに、ほとんど無意識にこのフォーマットに落とし込んでいるわけですが、同じ物語でも映像の構成によって「撮影時間・撮影期間」に雲泥の差が出ることは、何本も作品を作ってみて初めて実感することです。
要は、登場人物が一緒に映る画面が多いと時間が掛かるんです。
演技等、段取りの説明も倍になりますし、どちらかが失敗することを考えるとOKになる確率がグンと下がるんです。

 

DIY映画の出演者は常に本番一発でOKを出せるプロではありません。
仮に2回に1回はNGを出すとしましょう。
登場するのが1人であれば、確率的には2回撮れば1回はOKになります。

ところが、登場人物がAとBの2人になると、

  • A:OK、B:NG>NG
  • A:NG、B:OK>NG
  • A:NG、B:NG>NG
  • A:OK、B:OK>OK

という具合に、確率的に4回撮らないとOKにならないんです。
これだけで撮影時間が2倍になる、つまり1日に撮影できる分量が半分になることが分かるでしょうか?

 

それに加えて、影響が大きいのはスケジュールです。
そのシーンに登場する人数が多いほど、スケジュールは合いにくくなり、結果、撮影期間は何倍にも延びます。
撮影期間中の時間を拘束する契約をしているプロの現場であれば、撮影回数が3回から6回に延びても、撮影期間も3日延びるだけですが、私たちのDIY映画は余暇で作ります。
撮影回数が3回増えると、期間が3ヶ月延びることも全然珍しくないんですね。

 

ですから、プロ作品以上に「撮影期間を短くする工夫が必要」という訳です。

撮影コストの削減のために映像の「人称」を変えるアイデア

そこで撮影期間を短くするために提案するのが「一人称の活用」です。
と言っても、POV(Point Of Viewの略。一人称による主観ショット)を宣伝文句にしたような、完全一人称映画ではありません。
一人称映画は、映画の主人公視点で物語が進行しますが、これまでにも多くの一人称映画が製作されてきたものの、成功作は極めて少ないのが現状です。
期待された、「視聴者の没入感を高める効果」よりも、手振れ映像による「ストレス」の方が大きくなってしまうせいだと思います。

 

それでも一人称映像自体には無視できない大きな利点があります。
それは、

  • 撮影期間が圧倒的に短くなる

ということです。

 

一人称視点では主人公は映りません。
つまり、撮影現場にいなくても、その映像が撮れます。
極端に言えば、登場人物が1人で、しかも一人称視点にすれば、カメラマン一人でも全ての映像が撮影出来てしまうということです。

 

これは極端な例で、主人公がほとんど映らない映画は、恐らく面白い作品にはなりにくいと思います。
映像の作りが特殊過ぎるからです。
過去にも有名な作品はありますが失敗作と言われています。

 

そこで現実的なのが、映像の比率として「一人称視点を多くする」という折衷案です。
全編主人公視点を謳うには、「ヘッドセットカメラで撮りました」というような不自然な設定が必要で、これは手振れがひどい映像も「臨場感」として言い訳に使えたのですが、さすがに陳腐化しています。
その上、見づらくてストレスが溜まることは分かっているのですから、わざわざ同じことをする必要はないでしょう。

 

あくまで一人称視点の「比率を高くする」のがポイントです。
どこまでなら比率を高めても不自然さを回避できるのかはやってみないと分かりません。
ただ、確実なのは、撮影期間の短縮、主人公の負担の軽減が狙えることです。

 

更に考えられるのが、この「一人称の比率を多くした作品」と、私が採用している「升田式スーパープリヴィズ法」の相性の良さです。
升田式スーパープリヴィズ法は、全ての登場人物をグリーンバック前で別々に撮影して、画面上で背景と合成し共演しているような形に編集するものです。

 

演劇的な演技にこだわる人には「理解不能」とまで拒否反応を示されるこの手法ですが、「演技の味わいを表現できる一流のプロの演技者」でない我々にとっては、「演技とはこうあるべきだ!」という価値観より、「自分たちには実際には演技力が無いのに、完成品ではそれらしく見える」という方が痛快なんです。
その楽しさを手軽に味わえる「升田式スーパープリヴィズ法」を活用すれば、「一人称の比率を多くした作品」はさらに完成させやすくなりそうです。
「升田式スーパープリヴィズ法」最大の特徴である、「主人公を後から入れ替える」という作業も、単純に主人公が映っている数が少ないのであればやり易くなるはずです。

 

今後、このようなスタイルを意識した作品も、私が主催するDIY映画倶楽部では企画していきたいと思います。

参考になれば幸いです。

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