「こだわり」と「手抜き」のメリハリで最大限の映像効果を狙え!

工作系映画の魅力

「MVG作品は工作系映画です」と昔から言っています。
工作系映画などというジャンルは無いんですが、系統として私は

  • 演劇系映画
  • 芸術系映画
  • スポーツ系映画
  • 工作系映画

などに分けられると考えています。

もちろん実際にはそれらの要素がさまざまな割合でブレンドされて、その作品特有の味わいが出ることになりますが、特に私は工作系映画の要素に惹かれます。
工作系の映画を定義するとすれば、大道具や小道具といった「工作物」がたくさん登場する作品の事です。
例えば、古い特撮映画の「シンドバッド7回目の航海」「アルゴ探検隊の大冒険」「タイタンの戦い」や「ブレードランナー」「スターウォーズ」などが挙げられます。

こういう工作系映画の面白さは、実は「ごまかしの工夫」で面白味を倍増させていると思うんです。

ストップモーション技術を使った「シンドバッド」などに代表される特撮映画は、その特殊なキャラクターがミニチュアで作られています。
「スターウォーズ」の初めのシリーズは、壮大なシーンには「マット画」と呼ばれる絵を描いて実写と合成したり、さまざまなミニチュアセットを使った多種多様な特撮技法が駆使されています。
つまり、できるだけ低コストで「それらしく見える」方法を考えて、工夫して撮影されているということです。

もしこれらの映像が、数百倍の予算を使って、全て実物大のモンスターロボットや、巨大なスタジオセットを使って撮影されていたらどうでしょうか?
もちろん、実物を用意すればミニチュアや絵には出せない重量感や撮影の自由度からくる色々な構図の映像は作れますが、「面白味」という点ではかえって減点される可能性が高いんです。
「え!この迫力のある映像って、ミニチュアだったの?!」という舞台裏の意外性が、「面白味」を倍増させるのが映像作品ならではの醍醐味だからです。

コスパが悪いこだわり方は避ける

現実的な問題として、私たちが「スターウォーズ」みたいな作品を作ろうとしたときに、全部実物大の大道具を作ろうとはしないでしょう。
ミニチュアセットを作るのが定番です。
しかし、そのミニチュアの工作にもポイントがあるんです。

私は映画作りを趣味で始めた当初、小道具の工作にとても凝っていました。
具体的には、360度、どこからみてもそれらしく見える小道具を作ろうとしていたんです。
それによってリアリティーが増す面はもちろんあるんですが、実際に撮影してみると、小道具の登場時間はとても短いものなんです。
何週間も掛けて制作しても、画面に登場するのはほんの数秒だったりします。
私の場合、小道具を作っているのも私。監督も私です。
工作の苦労を実感しているので「せっかく時間を掛けて作ったのだから、もうちょっと多く登場させたい」と思ったら、それが出来てしまいます。
すると、工作物を必要以上にじっくりと観客に見せることになって、工作のアラが目立ったり、映像のテンポが悪くなったりします。
「せっかく作った小道具だから」という思い入れによってかえって作品の質を下げてしまうんです。
理想は、たっぷりこだわって作ったものをちらっとだけ効果的に見せることです。
でも、その「こだわり」にはコストが掛かりますから、そこにこだわった分、どこかに影響が出ます。
全体のバランスを考えない「こだわり」は、積もり積もって最悪の場合、作品を制作頓挫に追い込むんです。
これは、私自身が何度も体験しているので、「完成を最優先にしましょう」というのは声を大にして言いたい事です。
「創作で妥協してはいけない。時間を掛けてでもとことんこだわれ」
という無責任なアドバイスは聞かない方が良いと思います。

手抜きの実例

では、具体的に「バランスよくこだわる」ためにはどうしたらいいか、私の実例を紹介します。
私は前述したように、古典的な工作系の特撮映画が好きなので、恐竜などを映像に多く登場させます。
そして、これまでも同様の工作物を作って作品に登場させてきて、痛感したことがあります。
それは「映像では体の片側しか映らない」という現実です。

例えば恐竜の動く模型を作って登場させようとする場合、工作の段階では、360度どこから見てもその恐竜がリアルに見えるように作り込みます。
特に表皮の状態などは鱗やシワを作り込むため時間も掛かります。
でも、いざ撮影すると当然ですが見えているのは片面だけなんです。
もちろん、1カットの中でぐるっと1回転するような動きをすれば、体の両面が見えますが、いまだかつてそんな映像は1度も撮影してません。

そこで最近では、あえて恐竜の側面の作り込みは片側だけにしています。
鱗やシワの作り込みが片面だけで良いとなると、その手間は半減します。
その、「手を抜いた分」のコストは、より細かい造形に時間を費やして品質を上げたり、作る恐竜の数を増やしたり、ということに割り当てることができます。
「でも、片側しか作らないということは、恐竜が逆向きの場面は撮れないという事?」
と心配されるかもしれませんが、デジタル編集では簡単に映像の左右反転が出来ます。
あらかじめ、左右反転することを計算して撮影しておけば、なんの問題も無いんです。

省エネのやりすぎはかえって大変になる

このように、映像編集におけるデジタル技術を使えば、さまざまなコスト削減が出来ます。
例えば、色味がちょっと違うティラノサウルスを3体同時に画面に登場させるとしても、馬鹿正直に3体の模型を作る必要はありません。
3体分を別々に撮影して、合成編集と色味の補正を施すことで、その映像は作れるんです。
その感覚を養ってください。

ただ、何事もやり過ぎると逆効果です。
私の最近の失敗例を紹介します。
グリーンバック撮影した人物を合成する前提で、ミニチュアセットを作りました。
その室内セットにはスチール製の棚が3つ並んでいる、という設定だったのですが、いつものように手を抜く計画をした私は、棚を1つだけ作りました。
そして、背景映像の撮影時、カメラを固定した状態で棚を3箇所に配置した3枚の写真を撮り、映像合成で棚が壁際に3つ並んでいる状態にしたんです。
ところが、棚は空ではありません。
リアルに見えるように、別に作ったファイルのミニチュアを棚に並べて撮影したんです。
棚は3つ、映像上で複製しますが、棚の中に並んでいるファイルは同じ内容だといかにも不自然です。
そこで、3つの棚に対して、ファイルの並びを変えて撮影する必要が出てきます。
そうやって背景映像は作れるのですが、1つのシーンの中ではいろんな角度の背景が必要です。
手前の人物を違う角度から見るたびに、必要な背景の角度も違うからです。
そこで、別角度でも同様に棚を3回に分けて撮影することになるんですが、角度が変わっても棚の中に並ぶファイルの並び方はそれぞれ同じでないとおかしなことになるんです。
結局、「棚の合成の手間」に加えて、「ファイルを同じパターンで何度も並べ直す手間」が掛かり過ぎて何度か失敗もしたため、棚のミニチュアを2つ追加で作成することにしました。
後日、3つに増えた棚の全てにファイルを並べ、ミニチュアセットの撮影をやり直します。

手を抜く箇所を間違えるとかえって手間が掛かるので注意しましょうという話です。

参考になれば幸いです。

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