カメラワークを封印せよ:映画制作での固定カメラのメリットと技術的挑戦

2つの映像構成手法

映画の映像は大きく2つに分類することができます。

それは、カメラを固定して撮影した映像と、カメラ自体を移動させながら撮影した映像です。

 

この2つにはそれぞれ異なった効果があって、例えば簡単に言うと、カメラを移動させながら撮影した映像には躍動感があります。

ただ、そのカメラの動かし方が雑だったり下手だったりすると、その「撮影技術のマイナス」がモロに映像に出てしまうので、ものすごくチープに見えたりします。

 

私は10代の終わりに自主映画を作り始めたとき、他の人たちが作った自主映画を見て、このチープさが我慢できませんでした。

そこで、極端なまでにカメラを三脚に固定して撮影することにこだわっていたんです。

 

基本的には、カメラを固定して撮影すると、カット割りと呼ばれる、違う構図の映像の組み合わせが多く必要になって、必要な映像の数自体が増えます。

例えば、

  • 近づいてくる男
  • 前方を見て立ち止まる男の顔アップ
  • 男が見ている対象物
  • 男が対象物に向かって歩き出す

というような内容を、それぞれ別の映像を撮影して組み合わせることで表現するわけです。

 

それぞれの映像は完全な固定カメラで撮影することができます。

 

これと同じ内容を、カメラワークと呼ばれる「カメラの移動」で表現するのが移動撮影です。

上記の4つの構図をカメラを止めずに一続きで撮影するんです。

映像とカメラの動きを併記するとこんな感じになります。

  • 近づいてくる男(広い画角の映像で男を写す)
  • 前方を見て立ち止まる男の顔アップ(カメラを顔に近付ける)
  • 男が見ている対象物(カメラの向きを変えて対象物を写す)
  • 男が対象物に向かって歩き出す(男の背後に移動して対象物と後姿を写す)

 

やってみると分かりますが、この一続きのカメラワークはなかなか難しいんです。

私たちは普段、バラエティ番組などでこういうカメラワークの映像を見慣れていますが、それは「プロの映像」です。

バランスの良い構図から次のバランスの良い構図まで、無駄なく滑らかに映像を変化させることは、まず再現できないと思います。

どうしても、「良い構図」に落ち着けようとして、動きに迷いが出てしまうんです。

その迷いはそのまま映像に記録されます。

 

固定カメラであれば、セッティング時にいくら構図に迷っても、それは撮影前のことですから、出来上がりは安定した綺麗な映像の組み合わせを作れるんです。

 

ですから、プロカメラマンのような技術がある場合は、カメラワークを多用することで躍動感を求めれば良いですし、技術的にアラが目立ってしまうようであれば、カメラワーク特有の躍動感はちょっと諦めて、固定カメラによる組み合わせ映像にするのが有効だと考えます。

カメラワークを封印することで生まれる可能性

では、固定映像を組み合わせるのは、カメラワークが使えない場合の残念な手法かというと、全然違います。

私は、固定映像の組み合わせこそ、映像作品の可能性を飛躍的に広げる可能性がある手法だと思っています。

 

その理由は、圧倒的に映像合成がやりやすいからです。

 

映像合成というと、「いやいや自分は特撮怪獣映画を作りたいわけじゃないから」と勘違いする人がいます。

実際は合成はそんなにエキセントリックなものばかりじゃないんです。

 

例えば、部屋の中の窓辺のシーンがあるとします。

3カット程度で終わるシーンであれば問題ないと思いますが、そこである程度の台詞のやり取りがあって、芝居自体も結構難しいとします。

カット数が20カットくらいで、時間にして5分くらいのシーンだとしましょうか。

 

このシーンの撮影にどれくらい時間が掛かると思います?

 

一度でも本格的に撮影をした人なら分かりますが、20カット分の撮影というのは通常、たっぷり一日仕事です。

この場合は、「窓辺」と場所が限定されているので、4時間もあれば撮影できるとは思いますが、ここで大問題が起きます。

 

「太陽が動いてしまう」という問題です。

 

窓辺から差す光がテーブルのコーヒーカップに当たっている、というような美しい光景はほんの数分で消えてしまうんです。

光の角度が変化してしまうので、4時間の撮影でその5分間を表現するのはとても難しいんです。

 

光が差し込んでいるという難しい映像でなくて、単に景色が見えるだけだったとしても、4時間のうちに光の強さや色はコロコロ変わってしまいます。

タイムラプス映像で光の状態がチカチカと目まぐるしく変わる状態は見たことがありますよね。

4時間かけて撮影した映像は、撮影しているときには気付きませんが、編集してみると、窓の外の色や明るさがタイムラプスと同じようにカットごとにパッと変わるので、その変化がとても不自然に目立ってしまうんです。

 

ここで解決策として登場するのが「合成」なんです。

 

例えば、あらかじめ窓からは光が入らないようにして、窓全体に緑の紙を貼って撮影します。

編集時に、映像の角度に合わせて、見えるべき景色を合成すれば、時間によるばらつきが防げます。

撮影自体は真夜中でも出来るんです。

もっと言えば、窓の無い壁の前で撮影して、窓自体を合成することで、部屋のデザインも自由自在なんです。

 

そして、ここで大前提になるのが、カメラワークを使わないことです。

カメラワークを使って動いている映像に合わせて、別の映像を合成するのはとても難しいからです。

パソコンソフトの機能を駆使すれば、対処は可能ではありますが、多大な手間をかけてそれを実現するより、完全固定映像で撮影して綺麗に合成することをおススメします。

 

カメラワークを使わない映像はつまらなくて退屈と思う人もいるかもしれませんが、全然そんなことは無いんです。

むしろ、さまざまな映像合成がリアルに出来ることで、より重厚だったり、面白味のある映像を生み出す可能性が高まります。

 

しかも、合成を前提に映像設計さえしておけば、撮影時に準備するものは最低限で済むので、時間短縮やコスト削減にも繋がるんです。

 

参考になれば幸いです。

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自分で原案を考え、脚本化したストーリーを元に一つ一つのシーンを撮影して形にしていく「自主映画制作」という趣味では、とても大きな満足感を味わえます。
仮に誰にも完成品を見せずに一人で鑑賞するとしても、えも言われぬ達成感、大げさに言えば作品の中とはいえ「世界を創造した万能感」に浸れるのが映画作りです。

さらに、他の人に作品を見せて高評価を得られたりすると、とても嬉しい気持ちになります。

特に現代は自分から情報を発信する手段がたくさんあります。
一般の人が自分で撮った写真や文章を大量に公開する時代です。
公開して得たい「承認欲求」は思いのほか強く、自分で作った映画はその最大級の満足を生み出す可能性があります。

ただ、難点を挙げるとすれば、「写真を1枚撮って画像加工アプリで仕上げれば完了」というような手軽さが「映画作り」には無いことです。
実際にはとても大きな満足感と引き換えに、そこそこめんどくさい作業を伴うのが映画作りです。
(そこがまた、面白いところでもあるんですが)

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