アニメ的な映像づくりのための撮影法の秘密:合成前提のロケハンの重要性

下見としてのロケハンの限界

ロケハンというのは「ロケーション・ハンティング」の略で、要は撮影場所探し、下見のことです。

 

映画撮影において「臨機応変」というのはとても大事で、これが出来ると大きな武器になりますが、ベテランでないと臨機応変の対応は出来ません。

例えるなら、スピーチの準備をして、いざ当日の会場に来てみたら聴衆が自分が想像していたより高い年齢層だったことに気付いて、アドリブでスピーチ内容を変更するようなものです。

まあ、普通は出来ませんよね。

 

映画撮影も、天才的才能が無い限り、基本的には計画を立ててその計画に沿って行います。

そうしないと必要な分量の映像を撮りきれないからです。

 

その時に必要不可欠なのがロケハンです。

「あの高原に行けば景色が良い筈だからどこかいい場所を見つけてそこで撮影しよう」

という行き当たりばったりの計画で本番撮影しようとすると、場所選びで多くの時間を費やしてしまいます。

また、ほんの5分移動した先にはもっと理想的な場所があったことを、後から知って悔しい思いをすることになります。

それを防ぐために、シナリオの意図を理解した人が、そのシーンに適した場所をあらかじめ探して、かなりピンポイントで撮影場所を想定しておく必要があるんです。

 

ロケハンで確認しておくべきことは、

  • その場所が必要なイメージに合うかどうか
  • その場所で撮影して良いかどうか(権利面・安全面)
  • その場所に行くまでの経路・所要時間
  • トイレや店の有無

など、さまざまです。

 

確認項目は、実際の撮影時にさまざまな問題を経験することで増えていくでしょう。

 

ロケーション撮影の魅力は、その作品の雰囲気を作る舞台を加えることです。

映画には例外的に「密室劇」もありますが、それだと舞台劇的な面白さを大きく超えることは期待できません。

もちろん物語の内容にもよりますが、舞台演劇では視覚的に表現できない「風景」の中で撮影したいものです。

 

ところが、綿密なロケハンをして計画しても、実際の撮影時には想定外のトラブルが起きます。

 

例えば、「一面の雄大な雪景色を取るならココが良い」と見つけておいた場所に撮影に行ったら、先客として雪遊びの子供たちの集団がいて、全然使えなかったということもあるでしょう。

撮影に行きやすい場所ということは、他の人にとっても遊びに行きやすい場所なのでこれは仕方ありません。

しかも、この場合、子供たちがいない隙を見計らって撮ろうとしても、雪の平原は遊んだ後で乱れてますから、想定した風景ではない可能性が高いです。

 

あるいは、紅葉がきれいな渓谷を舞台にシーンの撮影をしようと思っても、このタイミングはとても難しく、「ちょっと時期が早すぎた」「ちょっと遅かった」ということで想定の風景が撮れなかったりします。

 

もっとシンプルに、撮影日に雨が降ったり風が強かったりして、そもそも撮影が出来なかった、ということも当たり前に起こります。

 

つまり、失敗の確率をできるだけ減らすために、あらかじめ綿密なロケハンを行なっても、気候の安定した砂漠やジャングルでないかぎり、想定した風景の中でシーンの撮影ができることは保証できないということです。

合成前提ならロケハン=背景撮影完了

私も以前は馬鹿正直に、従来の映画の撮影方式にのっとって撮影していましたから、人数を集めてロケに行ってみたら、ロケハンの後、洞窟の中にホームレスの人が住み着いていて全く撮影できなかったり、工事が始まっていて撮影できなかったり、ということがありました。

 

天候については、夜のシーンを多くすることで、「少なくとも雨さえ降らなければ中止にしなくて済む」という、自分なりの工夫をして撮影効率を上げようとしたりしていましたが、それにも限界があります。

 

2015年ごろにクロマキー撮影の実験作であるB級モンスター映画「暗黒魔獣ワニガメイーター」を制作して以降は、映画製作のプロセスを大きく転換させました。

 

それが、升田式スーパープリヴィズという手法です。

 

この手法の特徴は、全編にわたって、背景と人物を別々に撮影して、後から合成する点です。

つまり、ロケハンは場所探し・下見であると同時に、本番用の背景映像の撮影でもあるんです。

 

通常、ロケハンには私が一人で行きます。

絵コンテを片手にイメージに合う場所を探し、「このショットはここから見た景色が使える」という映像をひたすら一人で撮影してくるんです。

その映像は作品に使いますから、「この光の状態がきれいだな」という場面は、人物が登場している場面の背景としてそのまま使えます。

イメージに食い違いが生じないんです。

AIによる補正が便利

これは映画を作っていて分かったことですが、登場人物を撮影した時、「背景に動きが無ければおかしい」という場面はとても少ないんです。

つまり、背景の大半は静止画でOKということです。

 

背景に静止画を使う前提であれば、画像加工が容易に出来ます。

よくあるのが、「映り込んでほしくないものを消す」という加工です。

 

これまでも画像編集ソフトのフォトショップを使って、邪魔なものを手作業で塗りつぶしていました。

それが最近はAI技術が急速に各種編集ソフトに盛り込まれたことによって、数秒で望みの修正が出来るようになったんです。

 

例えば、森の中で大きな古木があったとします。

とても画面映えする立派な木です。

この根元で主人公たちが話をしているシーンを作りたいとします。

でも、その木の幹には「注意:スズメバチの巣があります」という看板が巻きつけられていたらどうでしょう?

もちろんそのままでは興ざめで使えません。

ところがフォトショップのAI機能を使えば、その看板が存在していない状態の静止画を数秒で作れるんです。

 

創作活動にAIをどう活用するかはいろいろと議論になっていますが、私にとっては、この修正機能はとてもありがたい機能です。

先日も、森で撮影してきた画像に映り込んでいる「柵」や「看板」を消して、原生林風のシーンを作りました。

ロケハン時に「これは消せる」という知識を持っていれば、撮影効率が格段に上がり、よりイメージ通りの作品をつくる手助けになることは間違いありません。おススメです。

 

参考になれば幸いです。

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自分で原案を考え、脚本化したストーリーを元に一つ一つのシーンを撮影して形にしていく「自主映画制作」という趣味では、とても大きな満足感を味わえます。
仮に誰にも完成品を見せずに一人で鑑賞するとしても、えも言われぬ達成感、大げさに言えば作品の中とはいえ「世界を創造した万能感」に浸れるのが映画作りです。

さらに、他の人に作品を見せて高評価を得られたりすると、とても嬉しい気持ちになります。

特に現代は自分から情報を発信する手段がたくさんあります。
一般の人が自分で撮った写真や文章を大量に公開する時代です。
公開して得たい「承認欲求」は思いのほか強く、自分で作った映画はその最大級の満足を生み出す可能性があります。

ただ、難点を挙げるとすれば、「写真を1枚撮って画像加工アプリで仕上げれば完了」というような手軽さが「映画作り」には無いことです。
実際にはとても大きな満足感と引き換えに、そこそこめんどくさい作業を伴うのが映画作りです。
(そこがまた、面白いところでもあるんですが)

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