「高画質信仰」の終焉:画質・画角の呪縛から抜け出して作品の魅力を追求

高画質信仰の終わり

映像を評価するときに一般の人がこだわる指標の一つに「画質」があります。

確かにテレビにハイビジョンが登場して、家電量販店に並んだハイビジョンテレビで映し出される映像の綺麗さには目を見張るものがありました。

その後、家庭用ビデオカメラで撮影できる画質もハイビジョンが標準となり、今ではさらに高画質の4K映像も珍しくありません。

当然、映像を作ろうとする人も、「綺麗な映像で撮影できるかどうか」を気にします。

ですから「一眼レフやミラーレス一眼のカメラで動画撮影すると格段にきれいに撮れますよ」という宣伝に惹かれて、撮影が難しいミラーレス一眼カメラで運動会を動画撮影して大失敗してしまうわけです。

 

私ももちろん、自主映画の撮影を続けてきて、

  • VHSカメラ
  • 8mmビデオカメラ
  • Hi8カメラ
  • DVカメラ

というように、カメラを買い替えるたびに格段に向上する画質を喜んでいましたから、「画質の良さに意味はない」とは思いません。

 

でも、ハイビジョン以降の映像については、たとえそれが向上しても満足度は変わらないことを実感しています。

画質が良いことの喜びは一時的なんです。

飽きてしまうんです。

3D映像はちっとも新しくない

画質だけでなく、映像の仕掛けもさまざまなものがあります。

 

普段意識はしていませんが、私たちは周囲の景色を立体視しています。

二つの目で見た映像は僅かに角度が異なっているので、それを脳の中で再構築するときに立体感も認識できるんです。

 

この仕組みを映像にも利用とする取り組みは大昔からされていて、写真レベルでは1830年代から普及していました。

私の地元にある民芸品の資料館にも、立体写真を見るための写真立てが飾ってありました。

2つの穴が開いた木の箱で、そこからのぞくと中に貼られた白黒の風景写真が立体に見えます。

箱の中に、角度違いで撮影した2枚の写真が入っているんです。

 

映画に立体映像が採用された歴史も古くて、1920年代から登場しています。

1950年代にアメリカで一時的にブームになり、その後、時々話題にはなるものの、常に短期間でブームは終わります。

 

飽きてしまうんです。

 

ですから、ジェームズ・キャメロン作品の「アバター」が3Dを使って大ヒットしたときに、「これからは全ての映画は3Dじゃなきゃ!」などという風潮になって、一生懸命に過去作品を疑似的な3Dに作り替える流れが起きましたが、私は冷ややかに見ていました。

実際、テレビや映画で3Dは主流になっていません。今回もブームは一瞬で終わりました。

4:3画角の魅力を再検証する

画質や仕掛け以外に大きな要素として、「画角」があります。

 

映像の縦横比率にはさまざまなパターンがあります。

現在、最も一般的なのは、パソコンやスマホ、テレビで見慣れている「16:9」の比率です。

テレビ放送がアナログだった時代は、長らく「4:3」の画面比率でした。

ですから、当時のドラマやスポーツ中継映像を今の画面で見ると、両端に余白が出るわけです。

 

今、16:9の画面を見慣れている人には理解されないかもしれませんが、私などはテレビ画面で映画を見るときに、上下に黒い余白が付いている映像を見ると「良いなあ。映画らしいなあ」と思っていました。

昔の4:3のテレビで横長の映画の画面を映そうとすると、

  • 両端をカットする
  • 上下に余白を入れる
  • 画面の幅を圧縮して4:3におさめる

という中のいずれかの手法を使っていました。

ですから、作品の本質には何の関係も無いんですが、自作の映画などは画面の上下を黒くして映画っぽい比率に加工するような「いたずら」を施していたわけです。

テレビディレクター時代の岩井俊二監督も、やはり画面の上下を黒くして、画質をフィルムっぽく荒らす加工をよくやっていました。

簡単に言えば、そこには「映画への憧れ」があったんです。

「画面比率の呪縛にとらわれていた」とも言えます。

 

時代は過ぎて、映像はどんどん身近になりました。

今は、歴史上最も多くの人が映像の製作側に回っている時代だと言えます。

昔であれば大資本と特殊な権利が無ければ、大衆に向けて映像を発信するなどということは出来なかったのが、日常使っている機器だけを使って、YouTubeを使って、ほぼ無料で世界中に発信できる時代です。

映像への憧れ、映画への憧れは薄れている時代だと思います。

 

昨今では「横長の映像はもう古い。スマホで見やすい縦長の映像がこれからは主流になる」という声も聞きます。

「これからは3Dが標準になる」のと同様、私は冷ややかにその意見を聞いています。

目が左右に並んでいる私たちは、普段、世界を横長に見ているわけですから、縦長の映像はやはり異質なんです。

少し前に「日本初の縦長映像のドラマ制作を開始」というニュースを聞きました。

スマホ視聴を前提にした面白い試みだとは思いますが、けっして主流にはならないでしょう。

 

ただ、再発見したのは、昔の4:3の映像のおさまりの良さなんです。

映画が廃れてテレビドラマの人気が上がってきたころ、「テレビなんて言う狭い画面じゃろくなものは表現できない」と映画関係者は嘆いたそうですが、実際は4:3の狭い画面の中で傑作はたくさん作られました。

今見ても面白くてはまってしまう昔のドラマがたくさんあります。

TVerなどでも昔の4:3画面のドラマが配信されてますが、面白ければ何の違和感もなく視聴できています。

横長の映画に比べて横方向に余裕がない4:3の映像ですがその画角の中でいくらでも効果的な映像は設計できるんです。

 

そして発見したのはスマホでの見やすさです。

横長の画面を見る場合は通常、スマホを横向きにします。

でも、これが意外と持ちにくいんですね。

縦長のスマホの画面の中に、縮小した横長の画面を表示させて見ていることも多いんです。

当然、画面はかなり小さくなります。

 

ところが、古い4:3の映像だと、かなり正方形に近いですから、スマホを縦にしても、横型で持った時とそれ程変わらない大きさで作品が見られるんです。

 

私は自分の作品を見てもらう機会を増やすためにも、「マイクロ映画」ということを意識しています。

スマホで視聴することを前提とした作品を作るということです。

その上では、あえて時代に逆行して4:3の映像を作ることも有効なのではないかと思い至りました。

YouTubeでは16:9の比率の映像も、4:3の比率の映像も公開できます。

 

とは言っても、新しい機材で撮影した元の映像は16:9ですから、作品は普通に16:9の状態で仕上げます。

その後、左右をトリミングした4:3のバージョンも作るということです。

視聴する側が好きな方を選んでも良いかもしれません。

もしかしたら、4:3の画面比率の作品が新たに作られる流れが出て来るかもしれません。

それは、3D映像などより理にかなった普及の仕方をするかもしれないと考えています。

参考になれば幸いです。

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自分で原案を考え、脚本化したストーリーを元に一つ一つのシーンを撮影して形にしていく「自主映画制作」という趣味では、とても大きな満足感を味わえます。
仮に誰にも完成品を見せずに一人で鑑賞するとしても、えも言われぬ達成感、大げさに言えば作品の中とはいえ「世界を創造した万能感」に浸れるのが映画作りです。

さらに、他の人に作品を見せて高評価を得られたりすると、とても嬉しい気持ちになります。

特に現代は自分から情報を発信する手段がたくさんあります。
一般の人が自分で撮った写真や文章を大量に公開する時代です。
公開して得たい「承認欲求」は思いのほか強く、自分で作った映画はその最大級の満足を生み出す可能性があります。

ただ、難点を挙げるとすれば、「写真を1枚撮って画像加工アプリで仕上げれば完了」というような手軽さが「映画作り」には無いことです。
実際にはとても大きな満足感と引き換えに、そこそこめんどくさい作業を伴うのが映画作りです。
(そこがまた、面白いところでもあるんですが)

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