低予算で本格B級モンスター映画を作る方法(16)・洞窟内の戦闘機残骸(その1)

雷電から震電への変更

今回のモンスター映画、最後は怪物を倒すのですが、一体、どういう方法で倒すのか、という事を考えました。

SF的な兵器で倒す、という手も考えられましたが、かなり当初の段階から、「戦闘機の火器を使う」という案を温めていました。

実は、このストーリーのモデルになっている洞窟は、旧日本海軍の地下戦闘機工場跡がある防空壕です。看板に書かれた説明を読むと、三菱の「雷電」という局地戦闘機の部品を作っていた、とあります。

「雷電」というのは、ゼロ戦の主任設計技師で有名な堀越二郎氏が手がけた局地戦闘機です。

局地戦闘機、というのは、攻撃してきた敵機を迎え撃つ役目の戦闘機で、長い航続距離を必要としない代わりに、一気に上空に駆け上がれる強力なエンジンと、B29などを攻撃するための強力な火器を備えているという特徴があります。戦争中盤からは、「本土防衛機」と呼ばれるような、こういう「守りのための戦闘機」が重要視されるようになったわけです。

ゼロ戦にも搭載されていましたが、局地戦闘機にほぼ標準装備されていたのが、「機関砲」という強力な火器です。「機銃」というのは、いわゆる鉄砲の弾と同じ構造のものですが、「機関砲」は発射のための火薬のほかに、弾の中にも爆薬が入っていて、標的に命中すると炸裂する構造になっているのです。高速で飛ぶ飛行機に、こんな弾が当たったら、機体がバラバラになってしまいます。

そこで、洞窟の中に眠る、雷電の機関砲なら、怪物も倒せるだろう、ということで、ストーリーを作っていったわけです。

ここで、第一の問題は、私自身が、あんまり雷電を好きじゃないという事でした。三菱製の戦闘機全般に感じるのは、みんなゼロ戦の発想の延長のようなデザインに見えることです。ゼロ戦と雷電は大きくシルエットは異なりますが、部分部分を見ると、ゼロ戦と共通する要素が多くて、どうしても比較してしまうのです。非力なエンジンをカバーするために贅肉を極限まで削ぎ落としたゼロ戦のデザインは、飛行機として非常に美しい形をしています。それに比べると、馬力優先の雷電は、相当、不恰好に見えます。

いっそのこと、同じ海軍の局地戦闘機で、私も大好きな「紫電改」に変更しよう、と思いつつ絵コンテを描いた時に、第二の問題に気付きました。

保存状態が比較的良い戦闘機の残骸があったとしても、既に脚は折れて、胴体が地面に落ちた状態の筈です。薄い主翼はボロボロになっていた方がリアルな残骸に見えるでしょう。イメージしたのはそういう図です。戦闘機の機関砲は、通常、主翼の中央付近に取り付けられているので、当然、そこから弾を撃つことになります。果たして、「ボロボロの主翼に取り付けられた機関砲を、機体から外さずに使う」という状況がおかしくないのか?という疑問が湧いてきたのです。

もちろん、人によってはこの作品、それ以外の部分にも突っ込み所は満載だとは思いますが、少なくとも、作っている本人は、その疑問を解決しておきたいのです。

そこで解決策として思い立ったのが、比較的有名な試作機「震電」です。

これは、テスト飛行が始まってすぐに終戦を迎えたため実戦配備はされなかった飛行機です。まるで前後を逆にしたような斬新なデザインで、「先尾翼機」とも呼ばれます。同時期に各国でも開発が進んでいたタイプの、理論的に優れたではありますが、実際には日本のこの震電が一番完成度が高かったようです。

ちなみに「スカイ・クロラ」というアニメには、震電をモデルにした戦闘機が出てました。

この機体の特徴は、機首にエンジンやプロペラが無いために、機関砲が機首部分にあることです。機首に火器があるのなら、ボロボロになった機体の残骸を、整備した機関砲の台座として使っても辻褄が合う気がするのです。

かくして、洞窟の中の戦闘機は「雷電」>「紫電改」>「震電」と変更になったのですが、次は、その模型をどうやって作るか、という問題が出てきました。

(次回へ続く)

(B級モンスター計画の関連記事をまとめて読むならこちらから)

電子書籍のご案内

「7日間でモンスター映画を作る!」(unlimited読み放題対象)

観て楽しむだけの映画から、作って楽しむ映画へ。
果たして7日間でB級モンスター映画は作れるか?

これまでも趣味としてのDIY映画を提唱してきた著者が、今回、実践編として制作に挑戦したのは、レンタルビデオでも根強い人気のB級モンスター映画。

たとえ低予算でも「本格エンターテイメント創作法」と「邪道映画術」を駆使すればここまで出来る!従来のインディーズ映画の殻を打ち破る「参加型映画」の提案として前代未聞のプロジェクト。

ストーリーデザイナー:今井昭彦氏による特別レクチャーも丸ごと掲載。「面白いストーリーの作り方」の理論から、シナリオ化、映像化、小道具・クリーチャー制作などの工程を、豊富な蔵出し写真と一緒に全て見せます。

巻末には特別付録として、オリジナルショートムービー「暗黒魔獣 ワニガメイーター」の動画もリンク。
クリエイターマインドを持つ全ての人を刺激する一冊です。

学生時代から自主映画を制作してきた著者は、映画制作という趣味を楽しみながらも、「なぜ、これほど面白い遊びが広まらないのか?全ての環境は整っているのに」と疑問に思っていました。そして、その理由の一つが「映画制作はゼロから作り出す要素が多すぎるために敷居が高すぎる」と思い至ります。

一方、近年の「大人の塗り絵」「手芸キット」の人気商品は、同じ創作系の趣味でありながら、すでに下準備が出来ているため、仕上げの工程を気軽に楽しめるものです。創作欲を持った人の入門用商品として優れています。

そこで、「映画制作の入門キット」として「すでに完成した映画に、後から主演する」ということが可能な作品を作れば、極めて少ない負担で自分が映画に出演する体験を楽しめるだろうと考えました。
その第1段階として、「後から出演者を差し替えられる仕様での、ショートムービー制作」を開始したのです。

本書は、その制作過程をリアルタイムで記録してまとめたものです。7日間は以下の内訳です。

・1日目 企画会議
・2日目 シナリオ作成
・3日目 背景撮影
・4日目 絵コンテ作成
・5日目 グリーンバック撮影
・6日目 編集1
・7日目 編集2・仕上げ

このほか、工作系映画ならではの、数々の小道具制作のメイキング解説などを、各章に「番外編」として掲載しています。

一つのプロジェクトの読み物として楽しむだけでなく、本格的なストーリー系創作者を志す方、工作系創作者の方にも、参考になると思います。

既刊紹介

「邪道映画術 DIY映画制作のヒント集」

内容紹介:

映画作りの基礎は大事。でも、ある意味、仲間と余暇で作る自主映画は「資金不足」「時間不足」「経験不足」に加えて「下がるモチベーションとの戦い」など、プロより条件が厳しいのです!

アマチュアならではのインチキな裏技を駆使して、自主制作映画を楽しむための王道と邪道のハウツー集。

映画作りを趣味にしませんか?~DIY映画制作の勧め~

内容紹介:

価値観が多様化する現代ですが、仕事に追われ、日々の忙しさから、趣味らしい趣味を持っていない人は多くいます。ゴルフや釣りはちょっと…という人へ、奥深くて実は敷居が低い、映画作りという趣味の魅力を解説します。

Amazon.co.jpアソシエイト

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です