映画制作のエッセンス:撮影よりも大切な7割の工程とストック映像の活用

映画を作り始めると分かること

何でもそうですが、やってみると色々と発見があります。

例えば、「映画作り」というと、作業のほとんどは「撮影」で、「編集も大変そうだよなー」というくらいに思っていたのが、実際には作業の7割くらいは事前準備だと分かったり、「ビデオカメラで綺麗に音声も録音できるから、セリフもそのまま収録すれば使えるでしょ」と思っていたら、編集してみるとカットごとに音が全然違うので繋がっているように聞こえず、カメラのマイクで録音される音声は全く使えないことが分かったり。

 

私が実感している1つは「この映像はいつでも撮れるから後回しでいいや」と思った映像が、結局最後まで揃わずに完成が遅れることがとても多いということです。

なぜ、「いつでも撮れる」と判断するかというと、人物が映り込まない景色などは、自分のスケジュールさえ確保すれば撮影できるからです。

撮影というのは関係者のスケジュール調整が出来ないと、一歩も進みません。

そしてやっと調整して集まってもらった人物の撮影には、思いのほか時間が掛かります。

私はかなり早く(ラフに)撮影を進める方で驚かれますが、それでも映画を作ったことのない人から見ると、「え?1日かけてこれしか撮れないの?」というくらい、少しの分量しか撮影は出来ないものです。

逆に言うと、撮影中はとにかく1分1秒を無駄にしたくない、時間との闘いのような感覚になります。

 

例えば、森の中のシーン。

映像のいくつかは「登場人物視点」だったり、純粋に「風景映像」だったりして、誰も写らなかったりします。

「その場でみんなを待たせて撮ればいいじゃないか」と思うかもしれませんが、今、関係者を集めて「何とか時間内に人物映像を撮りきらなければならない」というとき、人物が写らない映像の撮影に時間を使いたくはないんです。

最悪、予定の分量を撮りきれなかったときに、同じ条件でもう一度この場面の続きを撮れないかもしれないからです。

そのため、「誰も映らない映像」は後日、自分一人で来て、まとめて撮ろう、と思うわけです。

自分一人の撮影日を1日追加する方が、はるかにコストが安く済むからです。

でも結果として後回しにした映像が、最後まで未撮影のまま残ってしまいがちという経験は少なくありません。

 

ここで発想を変えて、「よく使いそうな映像」を出来るだけ先に撮影してストックしておくという体制にしました。

前述の「森の別撮り映像」で考えると、その作品で必要なのは「歩いている人物が見ている前方の移動風景」だったとします。

でも、せっかく別撮りに来たのであれば、それだけを撮影して帰るのではなくて、今回は使わなくても、「森のシーン」で使いがちな映像を撮りためておくんです。

そういうストックをためておくことで、次回作以降の撮影時、完成までの撮影回数をどんどん減らしていくことができるという発想です。

私は、どこかに行ったついでに、ストック映像にすることを意識して、スマホでいろいろな角度から撮影しておく習慣にしています。

風景映像をストックするコツ

ここからは、升田式スーパープリヴィズ法特有の、ストック映像撮影のコツを解説します。

スーパープリヴィズ法では、別撮りしてきた背景に、グリーンバック撮影した人物映像を合成することで全ての場面を作ります。

つまり、アニメーションに近い作り方で、風景映像の大半は「背景」です。

 

背景は

  • 動画
  • 静止画

の2種類を使い分けます。

 

波が打ち寄せる浜辺とか、風にそよぐススキなどは、動きがないと不自然なので動画で撮影します。

手振れが起きないように注意しながら、できれば三脚を使って撮影しますが、状況によっては手持ちで撮影してきた映像を、パソコン上で手振れを完全に無くした状態に加工して使うこともあります。

通常、単独の風景映像は1~数秒間しか使いません。

人物の背景として使う場合でも、1カットは通常、長くても10数秒で構成しますから、長めに30秒程度撮っておけば充分と考えます。

 

背景に動きが無くてもおかしくない場所であれば、背景映像に静止画を使うことが多いです。

静止画であれば編集作業でいくらでも表示時間を伸ばせますから、使い勝手がいいんです。

でも、撮影は静止画でなく動画で行うことをおススメします。

理由は、「どういう背景映像が必要になるか」を現場で完全に想像するのは難しくて、ついつい「絵になる方向」ばかり撮影してしまいがちだからです。

どうしても「こっちの向きでも1枚撮っておくべきだった!」と後悔することになります。

実際には「絵にはならないけれども理屈として反対方向の背景が必要」という映像が大量に必要になります。

 

そこで私が採用しているのが、静止画で使うことを前提にした映像も、動画で撮影してしまうということです。

簡単に言うと、いかにも「絵になる背景」「必要そうな背景」とは別に、全方向の映像を撮っておきます。

例えば室内のシーンであれば、部屋の中央に立って周囲をぐるっと一周しながら撮影すれば、全方向の映像が記録できます。

編集時に必要な角度の部分を静止画書き出しして、背景として使えるというわけです。

背景用ストック映像のポイントは「角度」と「シャッタースピード」

背景用の撮影で注意すべき点が2つあります。

私のこれまでの経験で、グリーンバックの人物映像と別撮りした背景映像の合成で、甘く見ていて失敗したことは「角度が合わない」というものです。

例えば、座っている人物をやや見下ろす角度で撮影したとすると、背景映像も同じ角度で見下ろして撮影されていないとうまく合成できません。

「短時間しか表示されないし、大体合ってれば良いだろう」という私の目論見に反して、角度が微妙に違う映像の合成は、違和感が顕著に出てしまうことを痛感しました。

結論として、カメラに上下の角度を付けて撮影した映像の合成はとても難しくて、ほとんどの場合、失敗に終わります。

 

解決策はシンプルです。

人物も背景も、角度を付けずに水平に撮影することを意識することです。

具体的には、人物の顔の高さにカメラを構えて、人物も背景も撮影することで、大失敗は防げます。

 

もちろん、下からあおったり、上から俯瞰したりしてメリハリを付けた映像は魅力的ですから、そのプラスアルファを求めたいのは分かりますが、プラスアルファを求めて根本的な失敗をしてしまっては元も子もないというのが私の考えです。

水平撮影による小津安二郎作品的な映像のイメージを崩したければ、合成をしない映像の部分で俯瞰やあおりの撮影をしてメリハリを付けると良いのではないでしょうか。

 

もう一つのポイントは、静止画書き出しを前提にした動画撮影をする際、「ブレ」を出さないことです。

前述のように、ぐるっと周囲を撮影した動画には、「使える角度」の映像が含まれていることになります。

ところが、静止画書き出しすると、映像がブレていてそのまま使うのは不自然なこともよくあるんです。

ブレの原因は、映像の記録スピードに対して、カメラの動きが早すぎることです。

 

2つの対処があります。

 

1つめの対処は、撮影時にシャッタースピードを早く設定することです。

ビデオカメラを使う場合はシャッタースピードを1/500以上にすることで、ぐるっと周囲を撮影する際に生じる「ブレ」を抑えることができるでしょう。

スマホのように、撮影設定が変えにくい場合などは2つめの対処をします。

カメラの動きをかなりゆっくりにすることです。

撮影自体に時間が掛かることと、保管する動画ファイルが長くなってしまうデメリットはありますが、横方向の動きが早いために生じるブレを、動きを遅くすることで防げます。

 

こうやって撮影してきた動画をストックしておいて、必要な静止画や動画を書き出して新作に使用することで、大幅なコスト削減が実現します。

ストックを増やしていけば、新規の背景撮影をせずに、人物のグリーンバック撮影だけで新作制作も可能になるかもしれません。

 

今回ご紹介した手法はかなり特殊で、一般的なノウハウではありません。

ただ、

  • できるだけ早く作品を完成させたい
  • できるだけイメージ通りの作品にしたい

という目的で私が確立した映画制作手法なので、同じ目的のためには有効だと思います。

日々、私の新作もこの手法で製作を進めていて、その様子も発信していますので、宜しければHPでご覧ください。

【MVG最新ニュース】

https://wp.me/P4vWPD-mue

 

参考になれば幸いです。

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自分で原案を考え、脚本化したストーリーを元に一つ一つのシーンを撮影して形にしていく「自主映画制作」という趣味では、とても大きな満足感を味わえます。
仮に誰にも完成品を見せずに一人で鑑賞するとしても、えも言われぬ達成感、大げさに言えば作品の中とはいえ「世界を創造した万能感」に浸れるのが映画作りです。

さらに、他の人に作品を見せて高評価を得られたりすると、とても嬉しい気持ちになります。

特に現代は自分から情報を発信する手段がたくさんあります。
一般の人が自分で撮った写真や文章を大量に公開する時代です。
公開して得たい「承認欲求」は思いのほか強く、自分で作った映画はその最大級の満足を生み出す可能性があります。

ただ、難点を挙げるとすれば、「写真を1枚撮って画像加工アプリで仕上げれば完了」というような手軽さが「映画作り」には無いことです。
実際にはとても大きな満足感と引き換えに、そこそこめんどくさい作業を伴うのが映画作りです。
(そこがまた、面白いところでもあるんですが)

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