クリエイター以外の「第3の協力者」を交えて映画を作れ:映画制作のバランスを保つ重要性
創作自体の価値を重んじないスタッフの重要性
手芸や絵画、小説など、さまざまな創作活動があります。
その中の一つとして「映画作り」が楽しいので、日頃から自分でも活動し、人にも勧めているのですが、映画作りには他の創作と違う特徴があります。
それは、基本的に「共同作業」ということです。
もちろん、全ての工程をみんなと意見交換しながら作る、という訳ではありませんが、少なくとも一人で全て完結させるということは少ない創作です。
私は独自の手法を使って、7割くらいまでをほぼ1人で準備することで、映画の量産化の下地を作ろうとしていますが、それでも撮影には「出演」という形で多くの人の協力を仰ぐことになります。
そして、大事なことは、「クリエイター気質の人ばかりを集めない」ということです。
ここで言う「クリエイター気質」というのは、主に「演出面でのプラスアルファ」を重視しがちなことです。
偉大な創作者の逸話というものはとても魅力的で、「自分でも創作をやってみたい」と思うきっかけになることも多いと思います。
映画創作で言うと黒澤明監督が、「一瞬映り込むあの民家の屋根が邪魔だ」と言って人が住んでいる家の屋根を取り壊して、撮影後に直した、とか、理想的な雲の状態になるのを待って、何日もスタンバイして時間を使ったとかいう話を聞くと、
- そういう「こだわり」があるから素晴らしく面白い作品に仕上がる
- 後世に残る傑作にするためには「こだわり」が必要
と勘違いしてしまいます。
はっきり言って、これは勘違いです。
面白いと喜ばれる作品を作るためには、こういう「こだわり」以前に「整えなくてはいけない課題」が山積しています。
そしてその課題解決は、多くのクリエイターにとって、苦手分野だったりします。
実際はそこにも面白さがあるんですが。
例えば、
- シナリオのアラを探して一つずつ辻褄を合わせるために修正する
- 作品の完成までの予定を立てて進捗を管理する
といったことです。
ここに「クリエイター気質」は不要です。
むしろ冷徹に、ビジネスライクに優先順位を判断して「ここまで達成したら、そこをそれ以上、高めようとせず次の課題に取り組む」という作業を繰り返すことで、一定以上のクオリティーで完成させられる可能性が高まります。
今年、2023年に公開された「ゴジラ -1.0」という映画は、私の好きな山崎貴監督作品だったので、劇場で鑑賞した後もYouTubeなどで配信されたインタビュー等を見つけるたびに見ていました。
その中で印象的だったエピソードは、素晴らしいCG映像を作り出しているクリエイター達に「全体のスケジュールを意識してね」と繰り返し指示を出しているにもかかわらず、見栄えのする場面をより良くするために何度も作り直してしまい、予定された必要な場面に誰も手を付けていないという事態にもなっていた、というものです。
「仕方ないので滑走路に生えている草は自分がCGで生やした」と監督は笑い話として話していましたが、これは実はクリエイター気質だけで作業を進めたときの重大な問題点を示唆していると思います。
創作を完了させるためには当然、優先順位があります。
クリエイターはその優先順位を見失いがちで、ついつい面白いことを追求しようとするんです。
もちろん、面白いと思うことが出来なければ創作自体の意味はありませんが、絶対に必要なのは「バランス」なんです。
そのバランス調整役として、クリエイター気質の無い第三者がスタッフにいると強いと思うのです。
「映像研には手を出すな」というコミック原作のアニメ、映画がありますが、ここでクリエイターとして暴走しがちの主人公たちを調整する金森氏というメンバーがいます。
このキャラクターが共同で行う創作活動の要の大切さを表現していると思うので、機会があったら観てみてください。
クリエイター気質の持ち主は、創作の最中にしか充分な能力を発揮できないという特徴もあります。
せっかくエネルギーを注いで作品を完成させても、それを上手く発表したりする企画力、実行力が無いんです。
実際には、完成するころにはエネルギーを使い果たしていて、燃えつきていることも多くあります。
そして興味は「完成品を活用したイベント開催」ではなく「新作の準備」に移ってしまうんです。
その結果、作品は完成したのにほとんど誰の目にも触れず、実質的には死蔵状態になってしまいます。
一般的な商品の「製造と販売」がセットで機能しないといけないように、創作物も「製作と活用」をセットで考えるようにすれば、もっと楽しい活動になるはずです。
もし、クリエイターが完成と同時に力尽きても、その後の作品の活用に関しては第三者のスタッフが主導権を持って活動できる体制が作れれば理想的だと思います。
そこで肝になるのは、創作者でないスタッフの「活動の動機」を確保することです。
創作者・クリエイターはごちゃごちゃとした実作業それ自体から楽しさ・満足感を味わえますから、「作業=報酬」という面が強いんです。
それに対して、非・創作者スタッフは、別の形での満足感が得られるような役割を考える必要があるでしょう。
例えば、作品の制作中は進捗管理や客観的な感想の提供などで関わり、作品完成後は「上映会イベント」の企画運営とか、販売用のDVD製作、情報発信用のHP製作などで活躍してもらい、
- プロデューサー
- イベンター
- 販売者
というような実績が得られるようにしたり、作品から生まれる利益を報酬として配分できるようにすることも大事です。
こういうクリエイター以外の協力者として仲間に迎えた方が、結果として「純粋に創作だけを追求する」というよりも、創作の楽しさを味わい尽くすことができるのではないでしょうか?
参考になれば幸いです。
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自分で原案を考え、脚本化したストーリーを元に一つ一つのシーンを撮影して形にしていく「自主映画制作」という趣味では、とても大きな満足感を味わえます。
仮に誰にも完成品を見せずに一人で鑑賞するとしても、えも言われぬ達成感、大げさに言えば作品の中とはいえ「世界を創造した万能感」に浸れるのが映画作りです。
さらに、他の人に作品を見せて高評価を得られたりすると、とても嬉しい気持ちになります。
特に現代は自分から情報を発信する手段がたくさんあります。
一般の人が自分で撮った写真や文章を大量に公開する時代です。
公開して得たい「承認欲求」は思いのほか強く、自分で作った映画はその最大級の満足を生み出す可能性があります。
ただ、難点を挙げるとすれば、「写真を1枚撮って画像加工アプリで仕上げれば完了」というような手軽さが「映画作り」には無いことです。
実際にはとても大きな満足感と引き換えに、そこそこめんどくさい作業を伴うのが映画作りです。
(そこがまた、面白いところでもあるんですが)